1話 幼かった頃
今後、1週間に1話分のペースで投稿していこうと思います。
俺の実家は一戸建てで、イルミネーションを行うのはクリスマス数日前の夜だけだと決めている。トナカイやクリスマスツリーのイルミネーションを中庭で行い、それをよく眺めていたものだ。今でもはっきりと思い出せる。
「どうして、ここに……?」
俺は、スーツ姿で実家の中庭にポツンと立っていた。どうして此処にいるのか思い出そうとしたが、懐かしいイルミネーションを見ているうちにどうでもよくなった。空から降り続ける柔らかな雪とイルミネーションが交じりあい、とても綺麗で目が離せなかったのだ。
しばらく眺めていると、小学生くらいの小さな子供がやってきた。冬用の防寒着を着用しているが、それでも寒いようで体を震わせて白い息を吐いていた。
その子供は、俺が小学生だった頃の姿そのものだった。
……ああ、そうか。これは夢なんだ。
過去の自分と遭遇して、ここが夢の世界なのだと認識する。よくよく考えてみれば、雪が降っているほど寒いはずなのに、俺は防寒着無しでも寒さを感じていない。
……よし。いつかは夢が覚めるのだから、今は思い切り楽しもう。俺はそう考える事にした。夢の世界ならば、幼かった頃の自分に今の俺が話しかけたらどうなるのか。ふと気になった。
ちょっとした好奇心で、俺は幼かった頃の自分に目を向けた。
幼かった頃の自分は、目を閉じたまま懸命に何かを願っているようだった。ああ、あれだな。サンタクロースに自分の願いを聞いてもらおうとしているのだ。俺には分かる。だって、この時の記憶があるのだから。でも、何をお願いしていたんだったか忘れてしまった。……まあいいか。
俺が幼かった頃は、サンタクロースが本当にいると信じて疑わなかったっけ。
俺は、高野翔平とはそういう純粋な人間だったのだろう。
「サンタさん、僕のお願い事を聞いて下さい」
俺が何か話しかけようとしたら、幼かった頃の自分が何処にもいないサンタクロースに、お願い事を話そうと口を開いたところだった。
……て……さい。
気のせいだろうか、何か聞こえた気がした。
「僕には欲しいものがあります」
……て下さい。
今度は先程よりはっきりと、誰なのかは知らないが女性の声が聞こえた。意識の覚醒が近いのか、目の前に広がる夢の世界の光景が薄くなって消えていく。
それと同時に、俺は訳も分からず焦燥していた。命乞いをするかのように、俺は叫んでいた。
「この先を知らないといけないんだ! 思い出さないといけないんだ! 頼む、もう少しだけ夢を見させてくれ!」
「それは――――」
「起きて下さい」
女性の声が耳元で聞こえ、俺はびっくりして飛び起きてしまった。と言ってもうつ伏せで寝ていたのだが。
一体今度は誰だ?サンタクロース(?)の次はトナカイか?と身構えようとして、気付けば見惚れていた。
そこには、神秘さを感じさせる可憐な少女がいた。