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現代精霊師と永本の書  作者: 原田まるるん
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プロローグ

 12月24日の夜。

 クリスマス・イヴと呼ばれ、町に出てみるとサンタクロースの格好をした接客業の方をちらほら見かける。客引きをしたり、プレゼントという名のティッシュを配っているようだ。

 俺の友達はクリスマス会だとかで、朝からゲームセンターで遊んだり、飯を食ったりして楽しんでいるらしい。

 だと言うのに俺はというと、朝から夜までみっちりバイトだった。今はバイトから上がって帰宅中だが、楽しそうなクリスマス会に参加し損ねた上、疲労と眠気が襲ってくる。

「折角、大学が休みだと言うのに……」

 下宿先のマンションにやっとの思いで辿り着き、階段を登って俺の部屋番号を目指す。

 202号室、それが俺の部屋番号だ。

 階段を登ってすぐ左隣に、俺の借りているその部屋番号がある。俺は玄関の扉を鍵で開け、中に入った。

「た、ただいま……」

 玄関に靴を適当に脱ぎ捨て、自室に移動しずっしりと重たい荷物を置いておく。最後に、汗と疲労を洗い流すべく風呂場に向かう。浴槽に湯を張って思いっ切り浸かろうとも考えたが、軽くシャワーを浴びるだけにした。湯が完全に張るのを待っていたら寝てしまいそうだったのだ。

 俺はシャワーを浴び終わった後、自室に戻って床に布団を敷いた。そして、そのまま倒れこむように眠った。


 この時の時刻は午後11時を過ぎていた。少し、バイトを頑張り過ぎただろうか――




「……う、腹が減った……」

 余りの空腹で目が覚めてしまった。……どうやら1時間しか寝ていなかったようだ。

 布団から出て、ふらふらとおぼつかない足取りでキッチンへ向かう。何を食おうかな……。腹は減っているが、真面目に料理を作る気力が今の俺には無い。

「カップラーメンで良いか……」

 しかし、その考えはいとも簡単に崩れ去ってしまった。キッチンにはサンタクロースの格好をした見知らぬ男がいて、何故か開け放たれている冷蔵庫の扉を閉めようとしていたのだ。

「おや? 見つかってしまったか……。メリークリスマス!」

 と、俺の方を向いて微笑みながらそう言った。

 その見知らぬ男は中年くらいの男性に見えた。本当はもっと若いかもしれないが、その男が身に着けているサンタクロースの服装が俺にそう思わせていた。

「あんた、そこで何してるんだ!」

 俺は乱暴にズボンのポケットを探り、スマホに手を伸ばした。早く警察を呼ばなければならない、そう直感が告げていたのだ。

「ああ、待ってくれ! 私はサンタクロースという者でね、今日は君にプレゼントを持ってきたんだよ」

「プレゼント……? もう俺はそんな歳じゃないが……?」

 俺の仕草で警察に通報されると分かったのか、弁解を始めるサンタクロース(?)。それを聞く限りでは、俺に危害を加えるつもりは無いらしい。勿論、俺は信用してないが。

「訳あって昔、君の願い事を叶えられなかった年があってね。その時の願いを叶えに来たんだ」

 サンタクロース(?)は冷蔵庫の扉を開け、中から一冊の厚い本を取り出した。本は見るからに高級そうな革と紙で作られており、表紙には見たことがない文字が書かれていた。……勿論だが俺は、冷蔵庫の中に本を入れるような変人ではない。至ってごく普通な凡人だ。

「これだよ。ちょっとこの本を持ってごらん」

 サンタクロースが厚い本をこちらに渡してきた。……どうする、俺はその本を受け取っても大丈夫だろうか……?

 しばしの間、素直に受け取るべきか躊躇っていたが、受け取った所で俺の身に危険が及ぶ訳が無い。そう俺は判断し、その本を受け取った。


 ――今思えば。その瞬間が俺の人生における平凡な人生と奇妙な人生の分かれ目だった事を、この時の俺は知る由も無かった。


「な、なんだ!?」

 俺が本を受け取ると、本は俺の手からするりと抜けて空中に浮き出し、独りでにページをめくり始めた。だが少し経つと、本はページをめくらなくなりそのまま動かなくなった。

「本が、浮く? ページが勝手にめくれていく……?」

 重力を無視して、今なお俺の目の前に浮いている謎の本。揚句、先ほどまでその本は勝手にページをめくりだしていた。俺には何が何だかさっぱりだ。

 俺はその現象を目の当たりにしててんてこ舞いなのに、今度は本が発光を始めたのだ。

 その発光はとても強く、俺は右腕を両目に当てて、無意識のうちに目を発光から守っていた。それでも光を遮る事は全く出来ず、俺は太陽を直視しているかのような感覚に陥った。

 やがて俺の意識は朦朧とし始め、その場に突っ伏して気絶した。


「ふむ、それではそろそろ帰ろうかね」

 サンタクロースには先ほどまでの優しい顔が無くなっていた。代わりに、大抵の人間ならば怯んでしまう程の真剣な表情をしていた。

 

 ――これから君がどんな成長を遂げるか、陰ながらに見守らせてもらおう。

 

 青年を横目で見据えながらそう独り言のように呟く。次の瞬間には、サンタクロースの姿は何処にも無かった。


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