試験終了
模擬戦はあの後いつもどおりに終了しなんだかんだで、璃嵐はあのまま保健室へと運ばれた。
「もう、無茶しちゃいけないって何度も言われているのに・・・。はぁ、とりあえず外傷は治療したけど内側のほうはどうなってるかわからないわ。」
肩までかかっているウェーブの髪を掻き揚げつつそのグラマラスな身体を見せ付けるかのように立ち上がり璃嵐の前から離れていく。その女性は保険の先生であり、その見た目で数々の男子生徒をとりこにした教師。『千早千鶴』他人を良くからかう性格であるが、その腕は確かで学校の保険教師にしておくには勿体くらいの能力者でもある。
「はぁ・・・」
璃嵐は座ったまま天井を見上げる。
「璃嵐?とりあえず一つ聞きたいことがあるんだけど。」
心奈が恐る恐る璃嵐に近づく。
「あぁ・・・。なんだ?」
「山岡先生になに言われてたの?」
心奈の質問に璃嵐は一瞬顔をゆがめたが。一度ため息をついて話し始める。
「単純な話。私が今回の実技テストで勝てなければ、実技に関しては1年と同じ授業を受けてもらうって話。」
「それで結果・・・」
「そう、このザマ。」
璃嵐はそういって、傷ついている右手を心奈に見せながら苦笑した。その反応を見た心奈は彼を一回小突いた。
「笑い話ですんだからよかったけど・・・。とにかく、何かあったら言ってよ?私は非力かもしれないけど・・・。」
「いや、心奈の力はかなり期待してる。実際何度も助けられてる。」
そういって璃嵐は立ち上がり心奈とともに保健室から出て行く。
外に出ると扉の横で拳と絵里子が立っていた。
「大丈夫か?」
「その様子だと平気そうね。」
「あぁ、でも一回病院いってくるわ。もしかしたら―――」
璃嵐は右腕を押さえながら押さえている場所をみながら暗い顔をした。
「ま、まぁ。一回委員会室に戻ろう。みんな心配してるかも。」
心奈はそういうとせかすように委員会室のある3階へ向かうため階段へと向かった。それを見たほかの三人もついていった。
委員会室があるのは通称能力者棟と呼ばれる西演習場の北側にある4階建ての校舎、基本的に能力者の生徒達がそれぞれの活動を行うため日々放課後になると賑わいを見せる。
しかし、今日は普段の賑わいではなく妙な緊張感が漂っていた。璃嵐たちが3階に向かうまでに何人もの生徒や教師とすれ違うが誰も彼もがどこか焦っていてあわただしい様子だった。
そんな中を抜けて行き3階の璃嵐たちが目指している場所。『通学路委員室』とプレートのかかっている教室へと入った。
「おっ、璃嵐もう大丈夫なのか。」
「平気、ですか?」
中の長テーブルを囲うように並べられているパイプイスには徹とアリーが座っていた。
「大丈夫。ではないから、病院いこうと思ったんだけどな。今の状況見たらとりあえずそれだけは知っておこうかと思ってな。」
璃嵐はそういって委員長と書かれたプレートの置かれた名がテーブルとは別の机のイスに座る。璃嵐とともに入ってきたほかの3人もそれぞれの席に座る。
「なら、その件は私が説明するわ。」
そういって絵里子が話し始めた。
「今の状況の発端は昨日、私たちのであったダイアウルフのあの一件。あれが実際は、かなりの大事になる可能性があるってことが分かったのよ。」
「たかがダイアウルフごときでか?」
璃嵐の言った言葉に絵里子が首を横に振ってさらに話を続ける。
「ダイアウルフが街まで出てきてること自体は時々あるかとだから大丈夫なんだけどね。ただ、生息地の山から大量に街に逃げてきてるって言うことがわかってね。もしかするとその山に別の魔物か何かが住み着いたのか、それとも誰かが裏で操ってる可能性が見えてきたのよ。だから今、生徒会本部役員と委員長、一部の生徒が調査に向かったって話よ。」
「それに、和磨たちも行ったのか?」
「いや、あいつらはいつもの委員会活動にいってる。むしろ俺らが調査のために山に行けって言われてたんだけどな。」
徹がそういいながら璃嵐のほうをちらりと見た。
「ん?私の顔に何かついてるか?」
「いや、そうじゃなくてな。委員長のお前が戦闘不能状態だからおれらの委員会は学校で対策会議してろってさ。」
「なるほど。」
徹に言われたことが完全に的を得ていたため璃嵐は反論もせずに聞いていた。そしてそれだけ聞くと『後は任せた。』と言い残して委員会室から出て行った。
璃嵐が出て行った後絵里子を中心に話し合いが始まっていた。
「とにかく、現状璃嵐は使い物にならないから戦闘になった場合。私たちで何とかしないといけないって言うことを忘れないように。」
「んー。だったらいつものフォーメーションとかも無理だなぁ・・・。」
「前衛、中衛、後衛。全部いけるやつが欠けての戦闘か・・・。最近は特に大きな事件も起きてないから油断してたが、考えて見ると厳しいとこもあるなぁ・・・。」
「だから、こそ。男子二人が、頑張ってもらわないと。」
「そうそう。二人が頑張ってくれたらわたしが中衛と前衛引き受けて璃嵐の真似事くらいならできるよ。」
それぞれが璃嵐抜きで戦うことを考えていた。そんな話をしていると、部屋の扉が開き委員会活動をしていたほかの三人が帰ってきた。
「ふぅ、疲れたよぉ。」
「なかなかスリリングな見回りだったよぉ~」
「ひゃぁ!!ど、どこ触ってるんですかぁー!!」
「薫。いい加減にしておけ。」
戻ってきたとたん沙良は席に座ったままぐでーっとし、薫はアリーに抱きしめてそれを和磨が引き剥がそうとしていた。
「はいはい、あんたらとりあえず何があったか説明してもらえるかしら?」
「んーとねぇ、街中にふつーにダイアウルフの群れが出てねぇ。」
「はぁ!?それちゃんと説明しなさいよ!」
ぐでーっとしたままの沙良の肩をつかんでグラングランと何度も揺らす。
「ちょ、まっ、話す!話すからっ!ちょっとやめてっ!!」
絵里子から開放された沙良は何度か咳払いをしてから、話し始める。
「んーと。さっきも言ったけど月ノ宮駅の北側でダイアウルフの群れが出てね。それを全部倒してきたってわけだよ。」
それを聞いて絵里子は少し顔色を変えた。そして続けて質問する。
「アンタ、璃嵐には会ったの?」
「どうして?急に。」
「あいつ今病院に向かったのよ。」
「あぁ。璃嵐なら帰ってくる途中であった。それにこの話もしてある。」
和磨が絵里子の質問に答えた。それを聞いた絵里子の顔はあまりいいものではなかったが『そう』と短くつぶやくと自分の席に座る。
「なんだかんだで璃嵐のこと心配してるんだなお前は。」
「はぁ!?そんなもんし、してないわよ!!」
拳の言った言葉に対して、絵里子は急に立ち上がり顔を少し赤くするという反応を見せた。
そんな様子を見て徹と薫の二人がニヤーっとした顔で絵里子を見る。
「な、何よ!」
「別にー。」
「何でもねーぞ。」
絵里子から顔をそらす二人。だがその顔はまだにやついている上に二人で顔を合わせて笑うのを少しこらえていた。
そんな時委員会室の部屋の扉をノックする音が聞こえ、そのまま扉が開いた。
「失礼します。」
入ってきたのは背が高く、すらりと伸びた手足、スタイル抜群。顔たちも整っており、それに合った黒髪のロングヘアーは真面目な印象をさらに与え見た目のこともあり才色兼備という言葉が良く似合いそうな女生徒だった。
「あれ、璃嵐君はいないのかな?んー、それなら来た意味が・・・まっいっか。とりあえず皆には先にいっておくね。第三級警戒態勢をとるようにと指令が出たから。」
それを聞いた絵里子たちの顔や態度に緊張感があふれていた。