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六道輪廻のうた  作者: 村松康弘
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修羅ノ拾 ― 最終話 ―

「ゲームだと!・・・貴様、人の命をなんだと思ってんだ!」藤沢は原島に向かって一歩踏み出した、途端にめまいに襲われよろよろとよろめいた。藤沢は熱い怒りとは裏腹に血の気を失い蒼白な顔をしていた。・・・腹部を撃ち抜かれて血まみれで立っていることすら奇跡に近いのだ。

原島は唇をゆがめて藤沢の様子をながめ、ほくそ笑んだ。「おいおい、無理すんなよ、死にぞこないが。・・・そろそろ楽にさせてやっからよ」原島はくわえタバコの気取ったポーズで拳銃を構える。藤沢はふらふらする足元を踏みしめる。

「・・・貴様はゲームだと言ったな、・・・ならばここに来るまでに俺に殺られた、川上、牛尾、瀧井、そして岡瀬、そいつらが殺られることも予想していたということか」藤沢は最後の気力をふりしぼって聞いた。

「・・・まあ、そういう可能性もあるとは思っていたさ。・・・ヤツらは賢くねえからな」原島は左手の人差し指でこめかみを突くと笑い出す、そして話を続ける。「・・・テメエが侵入すりゃあ片っ端から家捜しするだろう、俺を見つける前に遭遇したとすればそいつの自己責任でなんとかするべきさ、ガキじゃねえんだ。・・・結果的にみんなテメエに殺られた、まあ大したヤツはいねえから惜しくもねえし、金は腐るほどあるから困りゃしねえのさ」原島は喉元をさすりながら言った。

「・・・なんて野郎だ・・・」藤沢はそう言うとガクンと膝が折れて前のめりに倒れた。原島は笑いながら一歩藤沢に近づき、「さてと、こいつでゲームオーバーだ」と言うと、藤沢の頭に銃口を向ける。


・・・急に外が騒々しくなる、コンクリートの階段を駆け下りてくる足音が聞こえてきた。倒れたままの藤沢の耳にもそれは届いている。「誰だ!」・・・原島は構えの姿勢を解くと、あわてふためいたように周囲を見回す。血走った目に恐怖の色が表れていた。

・・・やがて地下室の入り口のドアを乱暴に開ける音がした、「藤沢!」ふたり分の大声が響く。・・・目を閉じようとしていた藤沢は自分の名を呼ぶ声に虚ろな目を開ける。ドカドカとフローリングの床を鳴らす靴音が錯綜し、部屋のすぐ間近まで迫ってきた。原島は頬を引きつらせてあたふたと狼狽し、逃げ道を探すような素振りを見せる。・・・究極の袋小路にいることを忘れている動作はいかにも見苦しかった。

「藤沢!」声とともにドアが勢いよく開かれる。・・・駆け込んできた男、それは山野井だった。藤沢が見たこともない激しい憎悪の念が、三白眼に宿っている。右手にはシルバーに光るコルト・パイソン357マグナムが握られていた。・・・山野井のあとに駆け込んできたのは、迷彩服の六地蔵だった。そいつも山野井と兄弟のように同じ目つきをしている。

原島は大きく目を見開く、「あ、あ、あ、」と、声にならない呻きを上げながら後ずさりしたが、数歩で背中を壁にぶつける。


鬼の形相の山野井は瞬時に状況を察した、ギラギラした目を原島に向ける。「原島!・・・この腐れ外道が!」山野井はそう叫ぶのと同時にマグナムの銃口を向ける。原島は壁に背中を押し付けたまま伸び上がった。「ひ、ひ、・・・」と喚くと、踵を返してクローゼットの方へ後ずさりをはじめた。

山野井はなんのためらいもなく、マグナムの銃爪をダブルアクションで引きしぼる。・・・狭い部屋が破裂しそうな轟音を上げて飛び出した銃弾は、瞬時に原島の顔の右半分を吹っ飛ばした。炸裂した顔の材料は四方八方に弾け飛ぶ、脳漿が血しぶきとともに霧状に飛散した。頭蓋骨の一部は一度天井に叩きつけられ、脳髄と一緒に原島の上に降ってくる。

山野井は顔つきを変えずにもう一度銃爪を引いた、凶弾は残った顔の左半分をザクロのように吹っ飛ばして、首から上は完全に消失した。・・・首なし人形はスローモーションのようにあおむけに倒れた。


「藤沢!」迷彩服の六地蔵は叫びながら駆け寄る、藤沢はすでに目を閉じかかっていたが、やっとの思いで目を開ける。迷彩は藤沢の傍らにしゃがみこみ沈痛な眼差しを向けてきた。・・・少し穏やかな表情に戻った山野井がその後ろに立った。「どうだ?唐沢・・・」唐沢と呼ばれた男は山野井の方を振り返ったが、どんな表情を返したのかわからない。

唐沢と交代するようにしゃがみこんだ山野井は、「藤沢・・・」とだけ声をかける。藤沢は必死で口を開ける、「・・・し、社長、・・・なぜ、・・・こんな真似・・・を?」かすれた声には声帯を震わすだけの力は残っていない。

黙ったまましばらく藤沢を見つめていた山野井は、ささやくように口を開いた。「・・・昔、俺の配慮が足りなかったばかりに、死なせちまった男がいた。・・・そしてもうひとり、窮地に追い込まれた俺を救い出すために死んでしまった男がいた。・・・そのふたりの男と、お前は同じ目をしていた。どこまでも不器用で、別れも言わずに去っていっちまう男の目。・・・初めてお前を見た時に、もうわかったよ」

山野井は淋しげな目で少しだけ笑顔を見せる。・・・藤沢は初めて山野井に会った時のことを思い出した。屈託のない笑顔で、人を吸い寄せる魅力を備えた男・・・。

「・・・そんな、・・・理由、で、・・・俺を?」藤沢はかすれた咳とともに血を吐いた。・・・目を開けてるつもりだが、周囲の様子が見えなくなっている。・・・ただ、流れる川のような風景が見えている気がする。実際に見えているのか、幻想なのかわからない。・・・藤沢に眠気が訪れた。

「・・・ああ、実尋、お前の元へ行けそうだ。・・・またお前と会えたなら、ずっと昔のようにあの河原でたくさん話をしようぜ。・・・ケン、お前にも会える。・・・今度は好きなだけ遊んでやれるぞ。・・・もうじき・・・」

藤沢は言葉を発しているのか、思っているだけなのかわからなかった。・・・遠くで山野井と唐沢が呼んでる気がする。・・・藤沢はとてつもなく穏やかで暖かい春の日差しの中にいる。人生の中で一番穏やかな気持ちになれたような気がする。

・・・また、俺の名を呼ぶ声が遠くに聞こえる。(・・・すまない、眠くて仕方がないんだ・・・)藤沢は抗えないほどの快楽の眠りに落ちていく。(完)


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