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六道輪廻のうた  作者: 村松康弘
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修羅ノ漆

(・・・今の音は空耳なんかじゃねえ、・・・たしかに人間がいる。このフロアーのどこかに・・・)藤沢の目には再び獣のような光が宿る、足音を消して歩き出した。・・・まず先ほどの金属音がどこのドアから発せられたものか探し出そうと思った。

暗いまっすぐな廊下を突き当たりまで進み、左に折れた。その少し向こうは賭博会場の広い部屋だ。・・・ドアは来た時と同様開いたままになっていて、中から部屋の明かりが漏れているのも来た時と変わらない。あの金属音とは結びつかないが、藤沢の勘に触れてくる何かを感じて、もう一度部屋に侵入してみる。

薄ピンクのカーテンが引かれている大きな窓の反対側には、バーカウンターがしつらえてある。背後の棚にはバーボンやスコッチ、ブランデーの瓶が並んでいて、酒場に負けないぐらいの品揃えだ。藤沢がそのカウンターの内側を覗こうとした時、背後に殺気を感じた。(・・・!)藤沢ははっと振り向く、だが気づいた時には遅かった。

木刀を振りかぶった男が迫って、藤沢に向けて振り下ろす瞬間だった。藤沢は咄嗟に身体を右に捻ったが間に合わない、高速で下りてくる木刀は藤沢の左肩にまともに衝突した。「ぐうぅ・・・」激烈な衝撃を受けてそのままうつ伏せにぶっ倒れる。

肩から背中にかけて激痛が走り意識が飛びそうになった藤沢は、唸りながらそいつを耐える。汗が目に流れこんできた。(・・・鎖骨か肩甲骨が折れたかもしれねえ・・・)息を吸うのも苦しくなる。・・・木刀の男がしゃがみこむ気配がする。男はクックッと含み笑いの声を上げると、「ひとりで乗り込んできやがって、・・・バカな野郎だよ・・・さて、とどめを刺してやるか。・・・おい、起きろ!」

・・・藤沢はその声に聞き覚えがあった。若い三下だが原島に腰ぎんちゃくのように付いて、原島の身の世話係のようなことをやってる岡瀬という男だ。原島の甥っ子だと聞いたことがあった。「てめえ、いつまで寝てんだ!起きろよ!」岡瀬はまだ子供のような声を張り上げて、藤沢の左腕の傷口を蹴りつける。

激痛が全身を駆け回ったが、藤沢は気絶したふりを続けた。「ちっ!」と舌打ちをした岡瀬は藤沢のアーミーコートの襟をつかんで乱暴に仰向けにした。


・・・その瞬間、藤沢の右手がアーミーコートのポケットに伸びて、トカレフをつかみ出した。「あっ!」気づいた岡瀬は目を見開き、藤沢の身体から離れようとした。藤沢は痛みをこらえながら素早く左手でスライドを引く。首を起こして仰向けのまま、トカレフを構える。後ずさりする岡瀬に狙いをつけると銃爪を引いた。

手首が反り返る反動とともに硬い音を発して飛び出した7.62mmのトカレフ弾は、岡瀬の右肩をぶち抜く。岡瀬は衝撃で右に半回転するとひっくり返り、悲鳴を上げて転がり回った。スライドから弾き出された薬莢が床に落ちる。

藤沢はトカレフを握った右肘を床に付いて必死に上体を起こす、全身に痛みが駆け回った。脳震盪を起こした頭を振ってようやく立ち上がり、ネズミ花火のように転がり喚いている岡瀬に近づく。・・・トカレフの銃口を向けて立っている藤沢に気づいた岡瀬はピタリと動きを止めたが、涙でしゃくり上げる声は止まらなかった。

「・・・原島はどこにいる」藤沢は荒い息をつきながら尋ねた。岡瀬は黙っている。・・・トカレフは次弾をくわえこんで後退したスライドを黒く光らせている、そいつを岡瀬の顔のど真ん中に向けた。まだ子供のような顔の岡瀬の額に脂汗がびっしり浮かんで、充血した目は開かれたままだ。


「・・・いいか、俺はここでもう3人殺っている。・・・てめえみてえな虫ケラをあと一匹潰すことぐれえ、屁でもねえんだ。・・・原島はどこにいる!さあ言え!」鬼の形相に変わった藤沢は岡瀬を怒鳴り上げる。

岡瀬は肩で息をしている、やがて覚悟を決めたような憎悪に燃える瞳を藤沢に向けてくる。そして突然立ち上がると、左手を上着のポケットに突っこんで飛び出しナイフを抜き出した。「があぁー!」と奇声を上げると、藤沢に突っこんできた。

・・・藤沢は咄嗟に銃爪を引いてしまった、(しまった!・・・)銃弾は岡瀬の眉間にポツンと小さな孔を開ける、次の瞬間、後頭部がスイカ割りのスイカのように破裂した。激しい勢いで頭蓋骨が何ピースにも分裂して吹き飛ぶ。まるで大皿を叩き割ったような形状だ。脳みそや脳漿が飛沫とともに、砕いた果肉のように岡瀬の背後に四方に飛び散って、その上に岡瀬の身体がぶっ倒れた。

・・・目と口を開けたまま、岡瀬は一瞬にして人形のような骸と化した。・・・「ちくしょう!」藤沢は反射的に銃爪に指をかけてしまったことを悔やんだ。・・・しばらく立ち尽くすと、まだ銃身の温かいトカレフを右ポケットにしまい、賭博場を離れる。


藤沢は歩くたびに激痛に苛まれるが構ってはいられない、(・・・腰ぎんちゃくがいたのだから、原島は絶対どこかにいるはずだ・・・)賭博場の先で折れている廊下を右に曲がり、壁を伝いながら進んでいく。やがて広い玄関が見えてきた。

(・・・それともやっぱりどこかへ脱けだしちまったのだろうか・・・)藤沢の焦りと不安はピークに達する、疲労と苦痛で壁に寄りかかる。・・・ふと右手が異質なものに触れた。それは防火扉などによく付いている丸い金具の中に半円のハンドルが付いているものだった。・・・それが何もない壁の途中に取り付いていた。


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