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六道輪廻のうた  作者: 村松康弘
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修羅ノ弐

藤沢は男を直視して言った、「たしかに俺は原島をぶち殺しに来た、そしてお前がジャマなヤツらを引きつけてくれると言うなら、ありがてえと思う。・・・しかしお前らの行動には納得できねえところがある」男は手を止めて藤沢に怪訝な表情を向けた。

「ひとり目に六地蔵と名乗った覆面の男は、襲撃を阻止するために俺をぶちのめしてから、俺の代わりに野沢傘下の組員を殺った。・・・ふたり目は俺をはめた情報屋の存在を察知して、俺に先駆けて始末した」男は黙ったまま、またセブンスターに火を点けて煙を吐き出す。

「・・・だが、俺が本気で腹を決めてから現れた3人目の女は、今夜の情報を提供してくれた上に、内部にいる組員の人数まで知らせてくれた。・・・そしてお前に至っては、俺の復讐の協力をすると言う・・・いったいなぜだ?」

男はすぐには答えずタバコを根元まで吸うと、短かい吸殻をポケットに放り込む。そしてつぶやくように言った。「俺の口からは詳しいことは言えねえ、・・・だが、あんたの屈辱を晴らしてやりてえってことは、俺たち共通の思いなんだ。・・・それ以上のことは、悪いけど言えねえ」そして頃合を見計らったように、「じゃあ、そろそろおっぱじめようか」と言うと、ベレッタをホルスターに差して林の中を駆けていった。

藤沢は迷彩服の背中を見つめる。(・・・やつらの目的がわからねえ、危険を省みず俺みてえなならず者のために、なぜ行動するのか・・・なぜ無関係な俺の屈辱を晴らそうと思うのか・・・)


やがて暗闇の空に銃声が響く、乾いた発砲音は間隔を置いてもう一度。・・・しばらくすると、男の目論見通りに別荘の玄関が開き、拳銃をぶら下げた男たちが出てきた。玄関先でなにやら話している様子だ。人影は4つ、・・・その内男たちはそれぞれの方向に散った。(・・・これで中に残っている者は4人)

藤沢は滑るように林の中を走り、別荘の裏側へと回る。木立の中から建物の様子を窺ってから林を抜け出して裏庭を横切り、建物にしのび寄る。・・・古い洋館を模した建物の裏口のドアも木製だった。ドアのハンドルを動かしてみる、・・・鍵は掛かっていた。藤沢はドアを眺めて考える。

・・・ドアはハンドルから上の部分に、マス目状の小さな磨りガラスがいくつもはめられていた。そしてそのガラスは木の枠で留められている。・・・藤沢はナイフを取り出して木枠とドアの接合部分に刃先を差し込む。少しこじってみるとドア本体と木枠にすき間ができた。・・・徐々にこじってすき間を広げると、底辺の枠が外れた。

・・・遠くで銃声が交錯する、藤沢はいったん手を止めて、(迷彩の男は無事だろうか・・・)考えたが気を取り直して、すぐに続けた。

要領を得たら次からは早かった、左面、上面と順に外す。右面の一箇所だけ残すと、今度はガラスの端に刃先を差し込む。こじり起こすとガラスは手前に外れてきた。・・・ガラスは15cm四方の厚い材質だ。藤沢はガラスを外した四角い穴に手を突っこんで、内側からドアのロックを解く。


木のドアを音を立てずに開けると、暗闇の室内に身を滑りこませる。・・・食い物と酒の匂いが入り混じった臭気が鼻をついた。そのままじっと気配を窺っていると、次第に目が慣れてきて内部の様子が見えてきた。・・・広い厨房のようなキッチンだ、向かって左側に調理台や流し、左側に建て付けの大きな食器棚。その向こうに業務用のステンレス面の大きな冷蔵庫が、唸るようなモーター音を発生させている。中央に大きなテーブルが置いてあり、その上に酒の瓶や食い残しの皿がテーブルいっぱいに載っていた。

正面に出入り口のドアがあり、それは閉まっている。・・・藤沢はしのび足で出入り口まで歩き、ドアに耳を寄せて外部の音を聞く。・・・しばらく耳を澄ましていると、足音が聞こえてきた。それは徐々にキッチンに近づいている。

藤沢は踵を返して食器棚の陰に身をひそめる。・・・足音が大きくなり、厨房の前で止まった。ゆっくりドアが開くと向こう側の光が差し込んできた。藤沢の身は棚の陰の中に収まっている。人影は暗い厨房の壁のスイッチを手探りで探しているようだ。・・・やがてスイッチが入り、いきなり内部は明るくなる。藤沢は目を細めて部屋の明るさに目をなじませる。


・・・でかい図体が立っていた、藤沢もよく知っている若頭補佐の牛尾という男だ。若頭補佐というポジションは組のナンバー3、藤沢が野沢組にいた頃から原島の腰巾着だった男だ。・・・牛尾は背丈は藤沢と同じぐらいだが、120kgはある巨漢だ。白いランニングシャツの首にタオルをかけて、片手に空のアイスペールをぶら下げている。

かなり酔っている様子で名前の通り、牛のような息遣いで業務用冷蔵庫の扉を開けた。ウイスキーかなにかに入れる氷を取りに来たのだろう。冷凍庫の氷をガチャガチャと素手でつかんでアイスペールに放り込んでいた。

藤沢はサバイバルナイフをホルダーから抜き出すと、抜き足差し足で牛尾の背後にしのび寄る。・・・ランニングからはみ出した鮮やかな刺青の入ったでかい背中は、藤沢に気づいた様子はない。一度でかいゲップを吐いた。

藤沢は川上の返り血がこびりついた顔の中のギラギラ光る眼と不敵に歪んだ唇で、牛尾が氷を調達し終わるのを黙って待つ。


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