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六道輪廻のうた  作者: 村松康弘
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修羅ノ壱

「貴様のような雑魚が俺を殺れるとでも思ってんのか、・・・撃てるもんなら撃ってみな」地獄の底から響くような声で、藤沢は無表情のまま川上に一歩近づく。震えるトカレフの銃口が藤沢のアーミーコートに触れる。川上は震えながら一歩後退する。

藤沢は落ち着いた手つきで、右手の中でサバイバルナイフの甲を下向きにした。ナイフの甲はノコギリ状に荒いギザギザになっている。藤沢はナイフを突き出してトカレフの照星にギザギザを引っかけて手前に引く。「あっ!」と声を上げた川上の右手からトカレフが離れ、唐松の落ち葉の上に落ちた。

川上は再び目を大きく開き、じりじりと後退する。藤沢の表情は突然、阿修羅像のように険しくなる。ナイフを元に戻して川上に歩みよると、何の躊躇もなく左から右へ水平に一閃させた。ヒュッと空気を切り裂く音とともに、鋭い刃は川上の喉のど真ん中を切り裂く。

振りぬいた瞬間、シャワーのように血しぶきが噴出す。「ぐあぁっ!」川上は伸び上がるようにして叫ぶ。藤沢は激しく噴出す血しぶきを顔面とアーミーコートに受けたまま、今度は腹部に深く突き刺したあと、横に薙いだ。背広の前身ごろとシャツが同時にパックリと開いて、腹の肉に裂け目ができ内臓がはみ出る。川上は目を見開き呻きながら腹を押さえるが、指の間からは激しい流血とともに腸がこぼれ出る。

川上は藤沢を睨み、断末魔の叫びを発しながら前のめりに倒れた。・・・横を向いた川上の喉の裂け目から、血の泡がぶくぶくと滲み出ている。

藤沢は顔面に浴びた生温かい血を掌でこそぎ落として、ため息をひとつ吐くと、川上の死体にしゃがみこみ背広の端でナイフの血を拭う。


・・・ジーンズのポケットの携帯電話が、短かく鳴った。取り出してみるとショートメールの着信だった。登録されていない番号が出ている、開いて内容を読む。『私、昨日会った女。藤沢くんは鋭いから、さっきそこに私がいたの、気づいたかな?・・・中に残っている組員は原島含めて9人。・・・じゃあね』

藤沢の頭に、あの女が玄関先に立っていた光景が浮かんだ。(・・・あの女はおそらく、どこかから監視している俺にわざと姿を晒したんじゃないだろうか)携帯電話をポケットに戻す。(それにしても、ありがてえ情報だ。9人、ということは、これで8人に減ったわけだ)

藤沢は地面に転がっているトカレフを拾い上げた。傷だらけの年季の入った代物だ。銃爪の上の丸いボタンを押すと、弾倉がスルリと抜け出る。真鍮色の弾薬が見え、8発全弾装填されている。(・・・この野郎は宝物のようにしていただろうが、おそらく撃ったことなどねえだろう)藤沢は弾倉をカツンと戻すと、尻ポケットに突っこむ。


・・・不意に殺気を感じる。闇の中から誰かがこっちを窺っている気配がした。・・・藤沢は神経を研ぎ澄まして気配がする方向を探る。・・・やがて見据えた先から疾風のように近づいてくる人影を認めた。闇の林の中を音も立てずに駆けてきた。藤沢はサバイバルナイフを前に突き出して身構える。

無言で近づいてきた男は、藤沢の2m手前で立ち止まる。迷彩色の戦闘服姿で口元に黒い布を巻いていた。異常なまでに目つきが鋭い。・・・睨み合う、互いに殺気をみなぎらせた。しかししばらくすると、男ははっとしたような目をして緊張を解く。殺気が消え同時に目の鋭さも消えた。

「・・・あんた、藤沢さんだね」枯れた声でそう言うと、長めの髪が夜風になびいた。藤沢は黙っている。「俺は、唐・・・お、・・・六地蔵の一味さ。仲間には遭遇してると思うが」男はそう言って、口元の布を下ろした。

(・・・ここにも六地蔵が現れたか・・・)藤沢は険しい眼光を消した若い男の顔を眺める。やはり前のふたり同様、自分に近い年齢に感じる。「・・・いったいお前らの目的はなんだ、どうして俺のやることに関わってくる」藤沢は迷彩服の男に聞く。

男は一度、近くに倒れている川上の死体を一瞥してから、「・・・あんたに罪を繰りかえさせないため、・・・でも遅かったみてえだ、殺っちまってるな」男はポケットからセブンスターを出して火を点け、箱を振って藤沢にも勧めた。藤沢は手で制す。

「お前らはなんらかの組織の人間か?・・・誰の指図で動いているんだ?」藤沢は聞いたが、男は煙を吐きながら、「・・・それは言えねえな。でも敵じゃねえことは確かだ。・・・藤沢さん、あんたは原島を殺りに来たんだろ?」藤沢は答えなかった。

男はいくらか呆れ顔をした。「・・・まあいいや。ところで中に何人いるのか知ってんのかな?」藤沢は少しためらったが、「こいつを殺ったんで、中には8人のはずだ・・・」と答える。

男はセブンスターをくわえたまま、「8人ね・・・」と言うと、迷彩服の内側に吊ったホルスターから拳銃を取り出した。黒光りしたベレッタ92Fだ。「俺がこいつをぶっ放せば、中から連中が何人かは出てくるだろう。・・・俺がそいつらを引きつけるから、あんたはそのすきに潜入すればいい」・・・男は西部劇のようにベレッタを指でくるくる回した。


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