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六道輪廻のうた  作者: 村松康弘
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畜生ノ肆

メルセデス600の運転席からダークスーツを着た運転手が下りてきて、後部座席のドアをうやうやしく開ける。少し間を置いてから紺色のスーツ姿の原島が現れる。・・・藤沢の目に凶暴な光が宿った。

うすら笑いを浮かべた原島はゆっくり車を下りるともったいぶった足取りで、玄関先に並んでいる下っぱどもに手を挙げた。(・・・ウジ虫の分際で、大物ぶっていやがる)一同が中に吸い込まれると、外の動きはピタリと止んだ。中で賭博パーティーの準備をしているのだろう。駐車場を見ると5台の普通車、ハイルーフのハイエース、原島のメルセデスの計7台が停まっていた。

・・・やがて林の隙間に車が登ってくるのが見えた。腕時計を見ると午前11時になろうとしている。ワゴン車が2台連なっている。玄関前に停まると1台からは見た目のいいスマートな若い男たちが数人、2台目からは水商売のホステスのような厚化粧の女たちが、ぞろぞろと下りてきた。

若い男たちは賭博のディーラーかなにかの役割だろうと思った。これでスタッフ的立場の人間は揃ったようだ。


しばらくすると黒いハイヤーが到着して、中から仕立てのいいスーツ姿の中年男が下りてくる、出迎えた下っぱとともに玄関に入っていく。見た目からすると会社の社長か医者といった風情だ。ハイヤーは男を下ろすと林道を戻っていく。

それからは間を置いたり続いたりと数台の車がやって来ては、裕福そうな身なりの男たちを下ろしていく。・・・中に新聞かテレビで観たことのある企業オーナーや、サングラスで目を隠した著名人たちも混じっていた。どの人間も賭博パーティーを楽しみに来てるようで、にこやかに顔をほころばせている。

・・・白いタクシーが登ってくると、ふたりの男を下ろした。藤沢は双眼鏡を向けて顔を確認すると愕然とした。下りてきたのは何年か前に定年退職した元・県警本部長と元・所轄警察署長の顔ぶれだった。(・・・こいつらはどうせ、現役の頃から原島とつながっていたのだろう。警察はここまで腐っているのか。・・・これじゃあウジ虫どもが息絶えないのも無理はねえ)警察OBふたりの足取りは堂々としたものだった。

それから数台の車がやってくると、出入りはピタリと止まった。広い別荘のなかではいよいよ秘密の賭博パーティーがはじまっただろう。


ひと段落した光景に藤沢は無性にタバコが吸いたくなる、笹薮から車へ戻ろうと立ち上がる。藪から紫の煙が見えてはまずいのだ。・・・歩き出すとポケットの中で振動とともに携帯電話が鳴った。藤沢はギクリとする。取り出して『藤沢和彦』の文字を確認すると、さらに緊張が走った。

藤沢は電話に出るのをすこしためらい、ベルが3回鳴った時にようやく出た。「武彦くん・・・」やはり理恵子の声だ、背筋が冷たくなるのを覚える。間を置いて理恵子が言った。「お父さん・・・意識を取り戻した・・・」藤沢はもう一度聞き返した、返事は同じだった。・・・全身から力が抜けて笹薮の中にへたりこむ。「・・・良かった、本当に良かった・・・」藤沢の声は震えていた。

電話の向こうの理恵子は声にならず、泣いている息遣いだけが聞こえている。藤沢は自然に涙がこぼれてきて、途端に堰を切ったように泣いた。しばらくお互いの泣き声のやり取りが続き、「これで病室に行くから」と言って、理恵子は電話を切った。・・・藤沢は藪の中に座り込んでしばらくボンヤリとしていた。


フィットの運転席でポールモールに火を点けると、和彦のことを考える。(・・・俺の衝動的な行動を、意識を取り戻した叔父貴が知ったらどう思うだろうか・・・)和彦の行為はすべて、藤沢をまた暴力の世界に引き戻させないための必死な思いからだ。息子とも思う藤沢を助ける、その一心からだ。100万円という破格の示談金も用意してくれた。

・・・しかし結果として金を巻き上げた原島は、罪もない和彦に瀕死の重傷を負わせた。いや、死んでも構わないつもりだったのだろう。・・・藤沢を挑発する、ただそれだけのためだ。藤沢の頭にまた原島の顔が浮かぶ。(・・・やっぱりだめだ。叔父貴には本当にすまないと思うが、ヤツを叩き潰さないことには、俺は生きることも死ぬこともできねえ・・・許してくれ、叔父貴)


笹薮の監視場所に戻る、あれから外観上の変化は一切なかった。・・・午後6時、あたりに闇が近づいた頃、藤沢は藪から抜け出して建物に近づいてみようと腰を浮かせた。だがその時、建物の隅に赤い点がポツンと浮かんでいるのが見えた。(ひそかに監視している野郎がいるな・・・)藤沢は迂闊に動くことを思いとどまる。こっちからタバコの火が見えるということは、向こうにとっても同じことだ。藤沢は身の回りのものにもう一度気を払う。・・・携帯電話も着信があれば画面が光るので、ジーンズのポケットに移した。

・・・午後8時、藤沢は双眼鏡で監視しながら、コンビニで買ったパンをかじる。ぼんやり灯る別荘の窓にはカーテンが引かれているので、内部の様子も人影も見えない。

・・・午後11時、車の音が遠くから近づいてきて、林道にヘッドライトが見えてくる。林の間を縫っているので、それは点滅しているように見えた。・・・別荘の方にも動きがはじまった。下っぱどもが玄関先に出てうろちょろしている。やがて車が別荘に着く。(いよいよお開きになったか・・・)藤沢は双眼鏡越しの客に焦点を合わせた。


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