夢想の中での会話
先ほどまで、アマノノと痴話喧嘩を広げていた守。
今はアマノノを掌で握り、ベッドに入り幸せな顔で眠っていた。
室内は暗く、わずかな月明かりが青色のカーテンの隙間から漏れている。
しかし、守が寝ているベッドは窓とは反対側の壁にあるため光が守に当たる事はなかった。
「天のよ。」
静かだった部屋の中に、突然幼い女の子の声が響く。
声の主は守の枕元に、ぼーっと青白い半透明な姿で徐々に現れた。
少女は色白の肌に白髪、瞳は黒かった。その大きな瞳からは溢れんばかりの涙が溜まっている。
服は袖口がおおきくゆったりした桃色の着物風なものを着ていた。
今には涙を落としそうな勢いだが、よばれたアマノノに反応はない。
声はもう一度響いた。
「起きてください。天のよ。」
しかし、聞こえてくるのは守の寝息のみ。
少女は根気強くもう一度繰り返す。
「天のよ。」
それでも反応がないとみると、聞こえるかどうかの小さな声で少女は呟いた。
「ちっ。いつまでも、ぐーすか寝てんじゃねーよ。鍵の分際で。」
「俺っち聞いちゃった。聞いちゃった。」
突然、アマノノから声がした。
少女は焦ったようにアマノノを凝視し、その後、瞳を左右に彷徨わせた。
「な、あ、あなた、起きてたのね!?」
アマノノは守を起こさないように静かな声で答える。
「そんなことより、俺っち聞いちゃったんだなー。鍵の分際で?で?で!?そんなこといっていいのかなぁ?俺っちに向かって・・!鍵守のカス・・おっと。春日ちゃんがさー。」
春日は着物の袖口を、ぎゅっと掴むとアマノノを睨んだ。
「ちょっと!あなた、今っ・・。今、私のことカスって言わなかった!?」
「ふんっ。俺っちが、そんな汚い言葉使うわけねーだろーがっ。カス・・がちゃーん。」
「ほら、また・・。カスで止めるなー!!」
叫ぶと同時に、足をバタバタとさせる春日。
「おい、鍵守。大きな音たてんな。ぐっすり寝てるご主人が起きちまう。静かにしろい!」
その様子を見て、アマノノが焦った様に声をかけた。
鍵守の春日と呼ばれた10代前半の少女は、ハッと我に返り守の様子を覗きこむと寝ている事に安堵の息を吐いた。そして今度は静かに話始める。
「はぁ。どうやら、まだ眠っているようですね。」
「で、何しにきたんでい?」
「何しにきたって、決まっています。天の、あなたを回収に来たのです。」
そして、アマノノに一歩近づく春日。
春日が近づくと同時に、アマノノは剣呑な声を出した。
「はっ。俺っちを盗まれたくせに今更何をいってやがんでい。だいたい、誰の許可でこっちにきた?
新米のおめぇに、そんな大役頼むとは思えねえな。」
少女はアマノノの言葉に、瞳がどんどん潤んでいく。今にも泣きそうだ。
「うう・・。私だって、こっちに来たくなかったわよ。でも、でも、父様が自分の責任は自分で取りなさいって。鍵守の一族は命を掛けて鍵を守る者って。あんたを取り返すまで戻ってくるなって言われたのっ。」
「うおい・・俺っち驚いちまったぜ。まさか娘大好きな男が、そんなこたぁ娘に言うなんてなー。」
少女は袖でゴシゴシと顔を擦ると、強い視線をアマノノに向け手を差し出した。
「そういうわけだから、あなたを連れて帰るわ。」
そして、守の手からそっとアマノノを抜こうとした瞬間、火花が散った。
「きゃっ・・何、これ。なんで結界が・・・・・。は、まさか、天の、あなた、まさか!」
「ふっふふふふふ。残念だったな!俺っちはもう、ご主人と契約しちゃったもんねー。悪いが、おめぇと帰るわけには行かねえんだ!」
少女は愕然とした表情で、アマノノを見つめた。
そして朝になり起きた守は驚愕する事となる。自分の部屋に、話す鍵だけではなく幼い少女が現れた事に。そして、その少女が自分を睨んでいる事に。
そうしてー。更新はー。3日坊主だったー。