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奇妙な来客、もういいよ!

今日も2時間残業し、まもるは自分の部屋へと戻ってきた。

途中のコンピニで買った弁当が入った袋を、がさりと机に置くと1つだけある座椅子に座る。


「はぁぁぁぁ、今日も疲れた。」


大きく息をはき、天井にある蛍光灯を眺めた。

やる気もなく怠惰感だけが溜まっていく毎日。つらいなぁ。

しかし腹は減る。弁当の蓋を外し割り箸を取り出した。


ーーーピンポーン。


これから食べようという時に、ここ何ヶ月か鳴っていないインターホンが鳴った。

テレビの上に置かれた置き時計をみる。夜の8時15分だ。

こんな時間に誰だろう。

のっそりと、座椅子から立ち上がり玄関へ向かう。

ドアの覗き窓を覗くと初老の紳士が立っていが、知り合いではない。

念のため、ドアチェーンを掛けてドアを開けた。


ーーーガチャリ。


ドアの隙間から相手を眺める。足元から胸、顔へとアングルを変える。

上質そうな黒い革靴に、執事が着るようなスーツを着こなすロマンスグレーな紳士であった。


「夜分に、申し訳ございません。お尋ねしたいことがございまして。お時間はお取りしませんので、よろしいでしょうか?」


まもるは頷いた。


「早速ですが、昨晩から今日にかけて金色の鍵をご覧になっておりませんでしょうか?」


また鍵かっ。

盛大に突っ込みたかったが昨晩から続く気味悪い来客に反応を示すことは怖い。

ここはもう、知らぬ存ぜぬを通すしかない。まもるは一刻も早くこの会話を終わらせたかった。


「いいえ、見てません。」


紳士の顔が残念そうに下を向いた。


「そうですか。昨日から何軒か伺っているのですが未だに見つからないのです。とても大切な鍵ですので見かけましたら、こちらまでご連絡ください。」


そう言って名刺を差し出す。


執事 セバスチャン


表面に役職と名前。裏面に手書きで連絡先が書いてあった。

どうみてもセバスチャンって、ありきたりな執事の名前すぎる。

偽名か・・偽名なのか!?

まもるが名刺を凝視し考えこんでいるとセバスチャンから声がかかった。


「それでは、私はこれにて失礼させて頂きます。何卒よろしくお願い致します。」


お手本のようなお辞儀をした後、彼ーセバスチャンは隣の部屋のインターホンを押しに向かった。



まもるはドアを閉め、部屋に向かうと自分の仕事鞄を開ける。

中から金色の鍵を取り出た。


一体、この鍵は何なのか。


考えても分からない。そして、だんだんと持っているのが怖くなった。

さっきの執事はまだ、そのへんにいるだろう。今から渡してしまえばいいのでは?

きっと紳士的な彼なら嘘をついたことを許し鍵を持ってきたことに感謝してくれるだろう。

さっき拾ったのを忘れてました、とでも言えばなお良いかもしれない。


まもるは、考えたのち座椅子に座った。

そして、いつもと同じ夜が訪れる。違うことはベランダに出て夜空を眺めなかった点だけだった。


その次の夜、

2日続けて奇妙な来客があった我が家に帰るのも嫌だったが他にいく当てもなく、まもるは帰宅した。

鞄の中から金色の鍵を出し、机に置く。気味が悪いが手放せなくなっていた。

意味もなく鍵をつついてみる。

ツンツン、ツンツン。もちろん変化は、


「ってなにするんでいっ!こそばゆいわ!」


なくなかった。

まもるは突いていた指を引っこめる。そうっと鍵を見るが鍵に動きはない。

恐る恐る鍵をひっくり返して見たが、特に変わったところもない。


「ぶほっ!ちょっと主!。勝手に向きを変えないで頂きたい!」


「あ、すみません。」


そっと鍵を、ひっくり返し元の位置へ戻した。ってなに謝ってんだろ、自分。無機物に・・・。

まもるの葛藤などよそに鍵は話続ける。


「いやぁ、偉い目にあったあった。鍵守のやろーが居眠りしてる間に盗まれやがってよー!今度会ったら一発ぶん殴ってやらんと気がすまんわ!新米鍵守が!」


鍵守?鍵守とか鍵を守る役目か何かですかね・・・?

疑問に思ったが質問を挟む勇気もない。


「主がいてくれて助かったわ!あのまま奴らに拾われていたら俺っち大変なことさせられちまう所だったしよー!サンキューな!主!」


え?主?誰?僕?


「おいおい、主!それはそうと、ここどの辺りでぃ?俺っち連れ去られてから遠くまできちったみたいだがなぁ・・・。鍵守一発ぶん殴らねえと気がすまねえ、悪いが連れってってくれねえかな?」


「・・・・。」


「お?主ー!まさか俺っちと主の間柄で嫌ってことはねえべ?なぁ、なぁ?」


・・・。

主って誰のことじゃあああー!無機物と間柄ってなんだ!?なんなんだあああ!?

ごほんっ。ま、まあ、ちょっと落ち着こう。落ち着いて無機物と会話を・・って、そんなこと落ち着いてできるかああああ!

鍵ってしゃべらないよね?ね?しかし、な、なにか言わなければ・・。


「あ、あのー。さっきから、そのー、君・・えーと、鍵の君が話してたりしちゃう?」


熱い視線を鍵に向けるまもる


「おーなんでい?今頃気づいたのかー?お、そういや自己紹介もしてなかったしな!俺っちアマノノってーんだ。よろしくな。」


アマノノ・・・?あまり聞かないひびきだ。


「あ、うん。よろしくお願いします。」


なにがだ、何をお願いしてるんだ自分。


「おー、さすが俺っちが選んだ主!礼儀正しいぜ」


「その、主とはなんだろうか・・・?」


鍵は机の上に置かれたまま動かないが、興奮したような口調で話した。


「主とは俺っちのご主人様でい!俺っちが認めた人でなきゃ、俺っちの力は使えねえ!おとついまでは俺っちに主人がいなかったから狙われてたわけだ。そこで俺っちは、この2日間で主を見定めたってことだ!どうだ!すげえだろー。」


まったくもって分からない。


「いつ、見定めたと?」


「おう!おとついに俺っちは攫われて夜空の中運ばれてたんだな。今は俺っち、ただの鍵だかんなー、一人じゃなんもできねえ!そこで助けてくれーー!ってな。夜空から下方に向けて叫んだ訳だ。

その時、下の世界の何人かが俺っちの方を見たんだ。でも主だけが手を差し伸べた。俺っちは、その瞬間、主を俺っちのご主人様に定めたんだ!まさに運命だろい!だろい!」


・・・そんなことあったっけ?

まもるは考えたが思い当たった節がない。助けてくれとの声も聞こえた記憶もないし、手を差し伸べた・・・?空にむかって・・・?


「あ。」


思わず声が出てしまった。

一昨日の夜、自分はベランダに出て夜空を見上げた。その時、掌を上に向けて持ち上げていたような・・・。まさか、あれが!?


「お、主!思い出したようだなっ!これから俺っちの事、よろしく頼むぜい!」


なぜ、こんなことになった。と、とにかく誤解を解かなくては。


「アマノノ・・・さん?違うんです。あなたの声が聞こえたわけでも手を差し伸べた訳でもなくてですね、あれは自分を哀れんでたというか。」


言ってて無性に恥ずかしい。何してたんだ、自分は本当に。


「なんでい?主、俺っちを見捨てるってことか?ひどい、ひどいぜ!・・・ぐすんっ。」


え、ぐすん?


「ヒック、ぐすぐすっ、なんでい。主頼ってた俺っちが馬鹿みてーじゃねえか。主がそんな冷たい奴だったなんて・・ぐすっ。」


え?鍵って泣くの・・?涙腺あるの・・?


「いや、アマノノさん。泣かないで。そ、そうだ。僕が、あなたのご主人を見つける手伝いをしましょうか?ね?僕なんかより素敵な人、見つかるかもしれないですよ?」


鍵からは涙も何も出ていないが、悲痛な泣き声が聞こえてくる。


「うっ・・ぐずっ・・じゃ、じゃあ、ひっく、ご主人様見つけるまで、主をご主人様って読んでもいい・・?ぐすんっ。」


ま、まあそれぐらいならいいかな。まもるは泣き声に耐えられず譲歩することにした。

僕が選ばれる基準なら、簡単に主人見つかるだろうし。主任になった斉藤とか優秀だしな。


「分かりました。アマノノさんのご主人様が見つかるまで、仮の主人ということでいいですよ。」


そして、鍵から泣き声が突如消えた。


「おっしゃ!俺っちのご主人ゲットだぜーーー!!!」


「いや、だから仮だって!」


今日は、賑やかに夜が更けていく。


書き貯めた3話投稿。3日坊主にならないように次話書きます。アマノノさんのおかげで勢いが出てきた・・・。ラッキー。

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