少年(変質者)は突然に。
次の日ーーー。
守は、務めている会社で会議に使用する資料をコピーしていた。
コピーを待つ間、手持ち無沙汰になり考えるのは昨日の出来事。
突如、ベランダに現れた少年に驚き固まってしまった自分。
情けないことに、喉からは悲鳴も批難も出すことができなかった。
動かない自分に、少年は首を傾げた。
「あ。驚かせちゃいました?いきなりで、ごめんなさい!
ちょっとこれには、事情がありまして。でもちょっと話せなくて。
えーと・・えーと・・・」
言葉を探すように話している少年を見てるうちに最初に問われた問いを思い出す。
ーー鍵・・?
ーー鍵とは、今自分の右手に握られている鍵のことだろうか。
十中八九そうであろうと思い、少年を見やる。
言葉につまっていた少年は、固い笑顔を貼りつかせ再度問いを守に投げかけた。
「ま、まぁ、とりあえず、金色に光る鍵を落としちゃって。お兄さん拾いませんでした?」
どこから落としたのかとか、君はなんなんだとか、色々疑問には思う。
でも今の問に対する答えならー是ーであろう。
守は、首を縦に動かそうと思い踏みとどまった。
ーーお願い、渡さないで。
脳内に誰かの声が、響いてきたからだ。
ーーお願い、お願い。渡さないで。
また、だ。
渡さないでとは、この少年に?
ーーそうよ。
この、鍵を?
ーーそう。鍵を渡さないで。
・・・。
・・・・。
「お兄さん?」
少年の声に、ハッと意識を戻した。
何がなんだか分からないが、どうしよう。
何事もなく鍵を渡してしまいたい。
だが、先ほどの切実とした声をきくと良心を痛める。
少年を再度見やる。
笑顔は固いが、人当たりは良さそうである。
先ほどの会話を思い出すに、言えないことを下手な嘘で隠すこともなく正直に話した。
なるほど、誠実さもありそうだ。
だがしかし、なぜこんな夜に勝手に人の家のベランダに侵入しているのか。
それにつきる。
服装も怪しい。色は黒だが学生が着る学ランではなく、黒ずくめの忍者の様な装束だ。
だが、足元は足袋っぽくなく無骨なブーツを履いている。ブーツは無数の傷に覆われていた。
こいつは、可愛い少年の顔をした不審者だ。
少年の顔を見るに、きっとモテるんだろうな。
活発そうだしクラスの盛り上げ役だろう。
でも騙されちゃいけない。
夜の闇に紛れるために、黒ずくめの服装を・・?
服装まで考えているとなると用意周到すぎる。
まさか、最近噂になっている覗きの常習犯か?
そうだ、鍵だなんだと言っているが、女性の生活を覗こうとしてベランダに侵入を・・?
ふっ。
僕は、騙されないぞ。お前は、純粋そうな姿をした不審者だー!
守は、心の中で叫んだ。
いい大人が夜に大きな奇声を発するなど、常識人である自分にはありえない。
そう言い訳1つ。
まぁ、ただの小心者なだけである。
「へんた・・・あ、いや。君、鍵ってどんな鍵だろうか?」
危ない危ない。初対面の人間に変態などと呼びかけてしまうところだった。
無意識に右手を握りしめる。
「えっと、大きさはこれぐらいで色は金色なんですけど・・・」
少年は、ベルトホックにかかった5.6本の鍵をジャラっと守に見せた。
シルバーの何の飾りもついてない一般的な鍵穴に入れる様の鍵だ。
ごくり、守は喉を鳴らす。
これから、嘘をつく。それがバレないように視線を少年の瞳に固定した。
「残念ながら、金色の鍵を拾っていない。」
嘘でありながら、嘘ではない。
鍵は、掌に乗っていた。拾った訳ではない。
嘘をつくことへの自分に対する抵抗だった。
少年は片眉を上げて、再度確認するように問いかける。
「本当ですかー?この辺に落としたんだけどなぁ。本当に知らないです?」
「ああ、知らない。」
少年は落胆したように、ため息を一つ吐いた。
そして、突然ベランダから飛び降りた。
「そうですか。こんな時間にすみませんでした。他、あたってみます。
じゃ、おやすみなさい。お兄さん。」
挨拶1つ残して。
結局、昨夜の出来事はなんだったんだろうか。
あれから鍵にはなんの変化もない。聞こえてきた言葉も自分の妄想だったのだろうか。
「おい、磐戸。何をぼーっとしてる?」
守の隣に上司が立っていた。気づけばコピーは終了している。
「あ、すみません。斉藤主任。今、コピー機あけますね。」
自分と同期入社し一足先に出世した斉藤にコピー機を明け渡した。
とりあえず、2話投稿。キャラに個性がなく着地点が見えない。どうなる!?