金色の鍵は突然に。
僕には何もない。
僕には何も掴めない。
僕、磐戸守は同じ毎日を送る日々。
こんな、つまらない自分になってしまうなんて10年前は思ってもみなかった。
もう27歳も、あと2ヶ月で終わる。
どうせこのまま、この不安定な気持ちを抱えてこの先も無気力に生きて行くんだろう。
毎日同じ事を思いながら、1Kのアパートのベランダで夜空を眺める。
この手は何も掴めない。それを表す様に空っぽの掌を空に向け、ぼーっと星を眺める。
ふっ。
我にかえって、失笑がもれた。
ーーなに格好つけてんだ、自分は。ーー
そして毎日決まった行動を繰り返す。
自分自身に、馬鹿だな。
そう思いながら、そっと、掌を覗くんだ。
そして、掌には当たり前だが何もない。
社会人になって何ヶ月かたってから、ルーチンワークになった行動だ。
そうだ、何もない。
何もないんだ。
そう、いつもは、何もない。
いつもは・・・。
「あれ?」
思わず声が出てしまった。
高くも低くもない成人男性の声。つまり、僕の声だ。
「右手に載っているこの鍵は、一体・・・」
認識するまで、掌の上に何かが載っている感触はなかった。
右手の掌にある鍵を見た途端、ひんやりとした金属の冷たさを感じたのだ。
「上から落ちて来たなら、さすがに気づくだろ自分。いつから載ってたんだ・・?」
ちなみに僕のアパートは2階建てである。
そして僕の部屋は2階である。
すなわち、上の階はなく上の階に住む住人自体がいないのだから誰かが落としたという事もないだろう。
一体なぜ、手の中にあるのか。考えても、さっぱり分からない。
・・・・寝よ。
結局、僕は何も手に入れられない。
見てみぬふりをするのが、得意になってしまった大人なのだから。
そう、だから、こんな鍵知らない。見なかったことにして寝よう。
そして、部屋に入り窓を閉めようとして固まった。
そこには、10代半ばであろう少年がベランダの手すりの上に立っていたのだ。
国籍は日本人だろう。
黒い髪は短髪で、今時の無造作ヘア。
瞳は大きく、どちらかと言えば色白で女顔。
にっこり笑った口元が、快活そうな印象を与える。
「お兄さん、夜分遅くにすみません。こちらに鍵が落ちてきませんでしたか?」
少年は高めの声で自分に問いかけた。
初めまして、こんにちは。とりあえず、また見切り発車してしまった・・・。ごめんなさい。