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第六話 【夏休み】試練を乗り越えよ

 夏休みに入り、羽生ちゃんに会えない日が続いてる。サッカー部の練習があるから俺は学校に来ることが多いけど、羽生ちゃんは部員ではないので顔を出すことは滅多にない。そんな訳で俺はただいま羽生ちゃん不足でパワーが出ない。


「夏バテになるにはまだ早いぞ、山崎」


 柳田先生に言われても出ないものは出ないんだから仕方がない。


「先生、羽生ちゃん成分が足りません」

「まったくお前と言う奴は……」

「これ以上、羽生ちゃん成分が少なくなったら俺、倒れるかも」


 そんな時に月読神社の夏祭りに皆で行かないかという連絡が佐久間楓から入った。羽生ちゃんにも声をかけたら来るって言ってたよ?とも。久し振りに羽生ちゃんに会える!と俺が狂喜乱舞になったのは言うまでもない。


 神社の最寄りのコンビニ前が集合場所。俺が到着した時には既に羽生ちゃんはいた。しかも、あろうことか浴衣姿で!! 紺色に大きな花があしらわれたやつで帯は淡いピンク色。いつもは三つ編みにしている髪も今日は結い上げてバレッタで留めていた。可愛い、可愛すぎるよ、羽生ちゃん。そんな姿を他の男になんて見せたくないよ、今から何処かに連れ去って閉じ込めて俺だけのものにしても良いかな?なんて不埒な考えが浮かんだ。


「へえ、誰か見せたい人でもいるのかと思った」


 佐久間の言葉に、ないないと否定をしている羽生ちゃんに俺はワシッと抱きついた。別に驚かせようとした訳じゃない。さっきから羽生ちゃんをチラ見しているチャライのがいるから、それに対しての牽制の意味合いもあった。あんなチャライ目で俺の羽生ちゃんを穢すなんて絶対に許さない。


「えー……俺の為に着てくれたんじゃないのか、ガッカリだな」

「ひゃん!!」


 相変わらず耳が弱いんだよね。可愛い声をあげて驚いてくれるのは嬉しいけど、そんな声を出すのは俺と二人っきりの時だけにして欲しい。コンビニの雑誌コーナーからチラ見している野郎と目が合った。こちらに振り返ろうとジタバタしている羽生ちゃんをギュッと抱き締めてながら相手を見て威嚇してやる。


― コイツハオレノモノダ ―


 こちらの思いが伝わったらしく相手は目を逸らした。


「耳元はやめてぇ……」

「羽生ちゃん、そんな可愛い格好してたら駄目だよ、よその男に狙われちゃうよ?」

「山崎君に狙われてるだけで手一杯だよぉ……」


 ふーん、俺に狙われているっていう自覚はあるんだ。でも逃がさないからね。


「羽生さん、浴衣、可愛いね。とても似合ってるよ」

「あ、うん。ありがとう」


 後からやってきた早瀬が言うと、羽生ちゃんは嬉しそうに笑ってありがとうと言った。早瀬にその気は無いのは分かっているけど面白くない。そりゃ可愛いって褒めてくれるのは嬉しいけどさ。


「山崎、いい加減に羽生さんを放してやれよ、真っ赤になってるぞ」


 そう言われて初めて羽生ちゃんを抱き締めている腕に力を込めていたことに気がついた。少し緩めると羽生ちゃんか大きく深呼吸をした。ごめん、そんなに力が入ってたかな。でもしばらくぶりだから放したくないというのが今の正直な気持ちだ。


「やだ。一週間ぶりに羽生ちゃんに会えたんだから思う存分、堪能する。ねえ、羽生ちゃん?」

「だから耳元で喋るのやめてえ……」


 本当は囁く以上のことをしたいんだよ、羽生ちゃん。その耳を食べちゃいたいし、白いうなじやその他の場所にキスマークもつけたい。けど君がその気になってくれるまで俺は我慢する。だって俺達はまだ十六歳、羽生ちゃんにいたっては来月が誕生日だからまだ十五歳だ。まだまだ二人とも先は長いんだから。


 そんな不埒な気持ちに蓋をして境内を歩きながらはぐれたら困るから手を繋ごうって提案すると、羽生ちゃんはちょっと恥ずかしそうに手を差し出してきた。こういう何気ないところで彼女が俺に対して心を許し始めているってのを感じて小躍りしたくなる。これで底を尽きかけていた羽生ちゃん成分をしっかり充電できるってものだ。



++++++



 屋台をあれこれと覗きながら後でアイスでも食べようと言って先ずはお参りとおみくじを引くことにした。羽生ちゃんは俺のくじに何が書いてあったのか興味があるみたいだ。けど見せてあげない。“試練を乗り越えよ”。さすが神様、良く分かっていらっしゃる。俺はこれからも羽生ちゃんの愛を勝ち取るためにしっかり努力します。


「アイスキャンディー、ナニ味があったかな」

「ミルクとソーダって書いてあった気がするよ。私はソーダ味が食べたいな、山崎君は?」

「俺もソーダの方が好きかな……あ、なにこれ、アイスクリンって書いてある」


 屋台の前に辿り着いた時、アイスキャンディーの横にアイスクリンって書かれたものがあることに気がついた。アイスクリームじゃないのか、これ。


「羽生ちゃん、サイダー味にする? 俺、このアイスクリンってやつにしてみるよ」


 屋台のおじさんからそれぞれ受け取ると、参道からちょっと外れた場所にあるベンチに並んで座った。そしてアイスクリンというものを舐めてみる。バナナ味っぽいな。


「どんな感じ?」

「バナナの味がする……それとアイスとはちょっと違う食感」

「へえ……」


 何となく気になったのでスマホで検索してみたら、どうやら高知県の御当地アイスみたいだ。


「羽生ちゃん、ちょっと舐めてみる?」

「え、でも……」

「アイスとシャーベットの中間みたいな感じだよ。いいから食べてみな?」

「いいの?」


 コーンごと前に差し出すと、羽生ちゃんはおずおずとアイスクリンを舐めた。しまった、これは失敗したかもしれない。


「ほんとだ、なんかアイスと違うかも……山崎君?」

「羽生ちゃん、ダメだ」

「え、何が? 私、何か悪いことした?」


 自分で舐める?と言っておいて今更な言い草だけど“舐める”は色々な意味でNGだ。羽生ちゃんがその気になるまで我慢するなら“舐める”関係は封印しておかないと、俺、いつか爆発するかもしれない。さっそくの試練を有り難う、神様。


「アイスを舐める羽生ちゃんの顔がエロすぎて、俺、眩暈がした」

「え……や、やだあ……もう山崎君のエッチ!!」


 そうやってプウッと頬を膨らませて怒っている顔がとっても可愛くて逆効果なんだけど、きっとそんなこと思いもよらない事なんだろうね彼女にとっては。


「男の子は皆そうなの。仕方が無いよ、羽生ちゃんが可愛いんだからさ」


 そう言って笑いかけると、アイスクリンをペロリと舐めた。


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