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窓辺の王子様  作者: 鏡野ゆう


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第四話 王子様の甘い約束

「えっと……レモンの蜂蜜漬け、作ってきたよ? 正田さんに頼まれたから……」


 土曜日の部活は紅白戦。終了間際にマネージャーの正田が羽生ちゃんと共にグラウンドにやってきた。直ぐに彼女は俺を見てくれた。羽生ちゃんの視線が今日も熱いぜ!! お陰で終了間際に俺はゴールを二つ決め逆転勝利。やっぱり羽生ちゃんは俺の女神だ。


「えっと、残ったハチミツは氷水と一緒にして飲めば美味しいから、正田さんが冷たいお水を用意してくれました」

「悪いね、マネージャーでもないのに手伝ってもらって」

「いえ。レモン切って蜂蜜に漬けるだけなので」


 キャプテンの飯島先輩が羽生ちゃんに声をかけた。聖林高校でも女子に人気のある先輩だけどその点では心配していない。何故なら飯田先輩には一つ年上の彼女がいることを俺は知っているから。


 でも、やっぱり自分の惚れた相手が他の男の話しているのを見るのはあまり良い気分じゃないよな。しかも何気に羽生ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしながら先輩と喋っているし? そういう可愛い顔は俺だけに見せてくれたら良いのに何でそんなところでそんな顔をするのかな?


「羽生ちゃん、この小さいタッパは?」


 彼女が持ってきた紙袋の中にもう一つタッパが残っているのを見つけて彼女に声をかけた。


 きっと周りからは能天気に声をかけている風にしか見えていないだろうけど今の俺はちょっとした嫉妬でメラメラしている。本心は直ぐにでも羽生ちゃんを何処か誰もいない場所に連れて行って、彼女が誰のものであるかしっかりと教えてあげたい気分だ。勿論その時には羽生ちゃんの体のあちこちに俺の所有印をつけまくる! ああ、ダメダメ、今はそんなことを考えている時じゃないんだった、落ち着くだ俺。


「それ、入りきらなかった半端な分だから……」

「そっか。だったら俺、こっちの貰っていいかな」

「うん、どうぞ」


 ベンチに座って蓋を開けてから羽生ちゃんの方に視線を向けた。彼女も俺と同じように感じてくれたら嬉しいんだけど、それは今のところまだ無いみたいだ。とにかく側に来て欲しくてベンチに座った自分の横をポンポンと叩いておいでという意思表示をしてみた。言葉にしなくてもそれは伝わったみたいで、羽生ちゃんの顔がちょっとだけ赤くなる。


「羽生ちゃんも食べなよ」

「え……うん、でも山崎君からどうぞ?」


 周囲の視線を気にしながら隣に座った彼女は、俺が差し出したタッパをこちらへと押しやると、袋に入っていたスプーンとプラスチックの使い捨てのコップを取り出した。コップにタッパの蜂蜜を入れ魔法瓶に入っていた氷水を入れてかき混ぜている。


「はい、これも」

「感激だなあ、羽生ちゃんに手ずから作ってもらえるなんて。この際、サッカー部のマネージャーになってくれると嬉しいんだけどな、あ、それすると俺だけの羽生ちゃんじゃなくなっちゃうか」


 一緒にいられる時間は増えるけどマネージャーになれば他の部員の世話もするってことで、今のように羽生ちゃんを独占するのは不可能だ。周囲が許しても羽生ちゃん自身が肩身の狭い思いをするのは俺の本意じゃない。


「やっぱ今のままがいいかな、俺としては。んじゃ、はい、あーん」


 俺が差し出したフォークがモンスターか何かのように見詰める羽生ちゃんは傍目から見ても笑っちゃうぐらい動揺している。本当は俺が羽生ちゃんにあーんってしてもらいたいんだけど、まあそれはまたいつか別の機会にでも。


「山崎君……」

「ほら、ハチミツが垂れてくるよ。大丈夫、誰も見てないから、ね?」

「う……」


 彼女の背後にいる部員達は殆どがこちらに背中を向けている。意図的に。ありがとう、お前達。羽生ちゃんの次に大好きだぜ。


 そして恐る恐る開かれた口の中にレモンを滑り込ませた。酸っぱさに少し顔をしかめていたけどモグモグと食べている。あーんとしている顔も可愛いけどこうやって食べている姿も可愛いよな、羽生ちゃん。あまりに可愛くて、思わず零れたハチミツを拭った指を手にとって舐めてしまった。


「なななななっ」


 顔を真っ赤にして何か言おうとしている羽生ちゃん。その動揺っぷりにさすがに笑いが込み上げてきた。


「ななな星人でも見つけた?」

「ゆ、指っ!! な、な、な」

「うん、舐めちゃった。ごめんね?」


 いや、本当にごめん。でも可愛過ぎる羽生ちゃんがいけないんだよな。耳も指も食べちゃいたいぐらい可愛いんだから。耳と指だけじゃなくて他の部分も全部食べてしまいたい、まだ我慢するけど。


 そんな時、溜め息混じりに柳田先生がこちらにやってきた。何か言いたそうだな、羽生ちゃんには聞かせられないようなことだよな、きっと。そんな訳で羽生ちゃんには悪いけど再び耳を塞がせてもらう。ほんと、耳が弱いんだよな、羽生ちゃん。塞いだだけでビクッてなるのってどんだけ感度がいいんだか。他の場所もこんな感じなのかな、だったら凄く楽しみだ。え? 何が楽しみかって? それはまあ色々と?


「お前達、そういうことは別の場所でやれ」

「あれ先生、そんなこと言って良いの? 俺達まだ十六歳だけど」

「他の十六歳に悪影響が出る方が恐ろしいわ。サッカー部の連中は免疫が出来始めているようだが、他の連中はその空気に当てられて酔うぞ、まったく」

「羽生ちゃんの心と身体の準備が出来るまでは清い関係のままで我慢するよ、俺」

「それの何処が我慢してるんだ……」

「色々と?」


 なんだよ、指を舐めたぐらいでそんなに大騒ぎしなくても良いじゃないか。現に他の連中はこちらに背中を向けていた訳だし。ん? 羽生ちゃん、何をブツブツ言ってるんだ?


「……指、舐められちゃったよ……お嫁に行けないよお……」

「ほら見ろ、羽生にも刺激が強過ぎだろうが……」


 クスクス笑う俺に渋面を向ける柳田先生。羽生ちゃんは俺が笑っているのに気がついたのか上目遣いでこちらを伺っている。


「大丈夫だよ羽生ちゃん。俺が責任をもって貰ってあげるからさ。って言うか誰にも渡さないから」


 それは俺なりの誓いの言葉。いや、この場合は宣言とも言うかな。


「山崎君、今、なんて言ったの?」


 耳を塞ぐ手を離すと羽生ちゃんが尋ねてきた。


「ん? 何?」

「今、何か言ってたよね?」

「ああ、羽生ちゃんに言った訳じゃないから大丈夫だよ、分からなくても」


 まだ彼女には聞かせられないけど、いつかきっと面と向かって言うから、それまでは待っててね羽生ちゃん。



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