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窓辺の王子様  作者: 鏡野ゆう


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第十五話 そして王子様に捕まりましたとさ

「桜ですねぇ……」


 今日は私が通っていた短大の卒業式。今年の春は例年より少し早く訪れたみたいで校門前の桜並木は七分咲きというところ。新入生さん達がやってくる頃には満開になっているんじゃないかな。


 卒業式を終えた私は校門のところで山崎君を待っている。式が終わるころには迎えに行くから待っていてって言われたんだけど、ちょっと早く来すぎちゃったかな。連絡ないかなーと携帯を確認するけどメールは無し。


「若菜、山崎君、まだ来てないの?」


 そこへやってきたのは二年間一緒に通った楓ちゃん。今日はお互いに袴姿で髪型も拘ったりしてちょっと頑張ってみた。だけど選んだ編み上げブーツがちょっと痛いよ。楓ちゃんと同じで草履にすれば良かったと今更後悔しちゃってる。


「あっちの卒業式も今日だからちょっと遅れるかもしれないって言ってたからね。楓ちゃん、先に謝恩会の会場に行ってくれていいよ? 私、後から行くし」

「……それにすっぽかすかもしれないもんね? 山崎君が若菜をあっさりと離すか疑問だわ」

「謝恩会には行きたいって言ってあるから大丈夫だと思う……多分」


 楓ちゃんは全てお見通したぜと言いたげに笑った。


「はぶちゃーんっ!!」


 桜並木をこちらへと駆け上がってくる山崎君の姿が目に入った。大学の制服で来るって言っていたからメチャクチャ目立つんじゃないかなって心配していたんだけれど、それはやっぱり大当たりだったみたい。他の女の子達がウットリとしながら山崎君を見詰めているのがちょっと気になるよ。制服萌えなのは流行かもしれないけど大学の制服にまで萌えを感じないで欲しい。


「あれ、なんか怒ってる? 俺、遅すぎた?」


 私が心の中でムカムカしているのを感じたのか、山崎君は私の前に立つと首を傾げた。


「怒ってないよ。私が早くここに来ちゃっただけ」

「ふーん……?」

「本当だよ」

「なら良いんだけど。あ、改めて卒業おめでとう。もう就職先は決まってるんだっけ?」

「うん。ここの附属病院の院内保育園に本採用が決まったー」


 山崎君は何やら悪戯っぽい笑みを浮かべて私を見下ろしている。


「なに?」

「その就職先の他にもう一つ、決めておかない?」

「なにを?」

「永久就職先。羽生ちゃん、そろそろ俺のところにお嫁においでよ」

「お、お嫁?」


 私が驚いた顔をしたものだから山崎君はちょっと傷ついた表情をした。


「あれ、もしかして俺のところに来る気は無かった?」

「えっと、そうじゃなくて、まさか今日ここで言われるとは思ってなかったから……」

「そりゃ俺はまだ学生だから結婚は卒業まで待って欲しいんだけどね、内定は取っておいたほうが良いだろ?」


 そう言うとポケットから何か取り出して何年か前のバレンタインの時みたいに私の前で跪く。そしてちょっとだけ真面目な顔をして私のことを見上げてきた。


「若菜、俺が卒業したら結婚してくれる? あ、拒否権無いよ、返事保留も無し。答えは“はい”か“イエス”しか認めないから」

「え、それって跪く意味がないんじゃ……?」


 周囲の注目を浴びてちょっと恥ずかしいよ、山崎君。ただでさえ防大生の制服で目立っているんだから。ほら、冷やかしの声とか聞こえてくるよ?


「分かってる。だけどちゃんと若菜から答えを聞きたいから公開プロポーズ」


 指輪を取り出して私の手を取ると、薬指の手前で指輪を持った手をとめて待っている。こんな状態で私が断れないって分かっていてやってるんだよね? なんだかずるい!


「返事は?」

「……ずるいよ、こんなところでプロポーズだなんて……」

「どうして? あ、もっと雰囲気があるところでして欲しかった?」

「んー……」


 本音を言えばそうなんだけどね、だけど山崎君らしいよね、こんなプロポーズの仕方って。


「結婚は山崎君が卒業したら?」

「そう。今は一緒に暮らせないからね。で、返事は?」


 イエスしか聞かないって宣言しておいて返事も何もあったもんじゃないよ。そりゃ私の返事は決まってるけどさ。


「……末長くよろしくお願いしますね?」

「それはイエスってことだよね?」

「うん。私、二年後、山崎君のところにお嫁さんに行きます。だから早く立って。ズボンが汚れちゃうよ?」

「俺の服のことなんて気にしなくてもいいんだよ、羽生ちゃん」


 山崎君はガッツポーズをすると指輪を私の指にはめて立ち上がった。


「二年後、羽生ちゃんの花嫁姿を見るのが楽しみだよ」


 そう言って山崎君は私にキスをした。ひゃぁぁぁぁっ! 公開プロポーズだけでは飽き足らず公開キスもですかぁぁぁ?!



+++++



 キスをした途端に羽生ちゃんの顔が真っ赤になった。相変わらず可愛いよなあ。


「な、なんでこんな場所でっ?!」

「公開キスですよー、羽生ちゃんは俺のモノだって世間の皆様に宣言したわけ」

「そんなことしなくてもイイよぉ……」

「だって羽生ちゃんの職場はここだろ? 大学にチャライのがいて変な虫がついたら困るし」

「変な虫って……」


 羽生ちゃんは知らないけど、同じ学生の中で何人かチャライのが羽生ちゃんに目をつけていると早瀬から聞いた。職場は女の先生が殆どだし相手は子供だから安心だけど、病院にはドクターもいれば男の事務職員も患者もいる。だからここで自分のものだとしっかりと周囲に知らせておかないと。幸いなことに女子は噂好き、制服姿の俺が校門で羽生ちゃんにプロポーズしたなんて美味しい話が広がらないわけがない。


「虫避けはきちんとしておかないと。俺、しょっちゅう会いに来れる訳じゃないからさ」

「私、浮気なんてしないもん」

「分かってる。だけどきちんとしたいのは俺の我が儘」


 羽生ちゃんの薬指で光る指輪を見ながら満足感で浸る。羽生ちゃんと出会ってもうすぐ六回目の春がやってくる。やっとここまで辿り着いたって感じだ。


「これから謝恩会だっけ?」

「うん。楓ちゃんはもう先に行ったの」

「そう……本当に行くつもり?」

「うん、そのつもり、だけど……山崎君はもう帰らなきゃ駄目なの?」


 ちょっと上目遣いの羽生ちゃんにクラリと眩暈がした。こっちは理性を総動員して我慢しているのにまったく君ときたら。


「春休みだから実家に戻るよ。今日から始業前日までは自由」

「本当? だったら一緒に出掛けられたりする?」

「もちろん」


 俺の言葉に嬉しそうに微笑む羽生ちゃん。あー、もう駄目、我慢できない、今から羽生ちゃんを拉致る。うん、もう今夜は離してあげない、決めた。携帯を取り出して電話をかけたのは羽生ちゃんのお母さんの携帯電話。何で知ってるかって? そりゃ未来のお義母さんだからに決まっている。将を射んと欲すればっていうことわざのとおり。


『もしもーし』

「あ、山崎です、こんにちは」

『あら、信也君、どうしたの?』

「いま若菜ちゃんと一緒にいるんですが、明日までお借りしてもいいですか?」

『まあまあまあ。いいわよー? お父さんには適当に言っておくから安心なさい』


 お義母さん、まじで神。


「ありがとうございます。では明日、責任をもって送り届けます。えーと、服はどうしましょうか」

『着付けをしてもらった知り合いの美容室に届けておくわ。若菜に取りに寄るように言ってくれる?』

「わかりました。では」


 こちらを伺っている羽生ちゃんにニッコリと笑いかけた。


「ということで、明日まで一緒にいられるよ。着替えの服は着付けをしてもらった美容室に取りに行くようにってお義母さんが」

「明日まで?」

「今夜は二人でお泊まり。ちゃんとしたところに泊まろうよ、せっかくだからさ。で、二人だけで卒業のお祝いしよう?」

「謝恩会はパス?」

「絶対にパス」


 羽生ちゃんが恥ずかしそうに微笑む。だけどその中には艶っぽさも混じっていて、彼女にこんな顔をさせるのは自分だけなんだと思うと優越感に浸りまくりだ。


「久し振りだよね、二人だけでお泊りするの」

「いつ以来かな、もしかして去年の春休み以来?」


 手を繋いで坂道を下っていく。家族ぐるみの付き合いが始まって久しいから長期休暇に皆で宿泊を伴った旅行は何度かしているけど、二人っきりというのは本当に久し振りだ。俺、大暴走するかも。


「羽生ちゃん」

「なあに?」

「壊しちゃったらゴメンネ?」

「こ、こわす……?」

「大丈夫、親公認のお泊まりだから心配ないよ」


 何が大丈夫なの?!って慌てて尋ねてくる羽生ちゃん。


「ちゃんと面倒みてあげるから山崎君にお任せさ♪」


 なんとなく袴姿の羽生ちゃんの着物を脱がす時が楽しみだ~なんて言ったらきっと怒られるよな。部屋に入って逃げられなくしてから言ってみよう。



+++++



「壊しちゃったらゴメンね?」


 山崎君が優しい顔のままさらりと怖いことを言った。山崎君と私が初めてエッチしたのは高校三年になってから。ここまで我慢した俺を褒めて?なんてニコニコしながらにじり寄って来た時の山崎君はまるで獲物を見つけたネコ科の猛獣みたいだった。そして今の山崎君はその時と同じ目をしている。


「や、山崎君……?」

「大丈夫、ちゃんと面倒みてあげるから山崎君にお任せさ♪」


 だから今夜は覚悟してね?なんて爽やかな笑顔で言われちゃっても困るよ。本当に困るよぉ!!




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