第十二話 【コンビニスイーツ企画】君想いショコラ
トムトムさん・春隣豆吉さんの共同企画「皆で初恋ショコラ」「コンビニスイーツでI Love You」関連作品です。
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「えっと、どれが良いかなあ……」
学校の帰りに立ち寄った最近駅ビルに出来たチョコレート専門店で頭を悩ませる。最近は色んな味のチョコレートが増えたので買うのも一苦労。おすすめはやはり定番のイチゴ風味かオレンジ風味。夏場ならミント風味も捨てがたい。楓ちゃんはここで買ったチョコレートを溶かしてバレンタイン用のチョコレートを作るって言っていたっけ。生憎と私はお菓子作りは得意じゃないからそんなことしないけど。
「はーぶちゃん」
「ひぁっ!!」
ショーケースの中を屈みこんで見ていたせいで、いきなりの耳元攻撃にそのままペタリと座り込んでしまった。もうヤダぁ……。
「あれ、腰抜けちゃった?」
「もう山崎君、耳元で話すのはやめてって何度も言ってるのにぃ。しかも不意打ちなんて酷いよ」
「ごめんごめん。気がついてくれるの待っていたんだけど、全然こっちを見てくれないから」
ねえ?とケースの向こうにいる店員さんに笑いかける山崎君。お姉さんは生温かい笑みを浮かべて頷いている。やだあ……本当に気がついてなかったの私だけだったんだ。
「ところで何を迷ってたの?」
「何味のチョコレートにしようかなあって。ここのチョコ、美味しいから自分用に」
「……」
「なあに?」
「なんだ、俺用に選んでくれていたわけじゃないのか。がっかりだよ。俺、こんなに羽生ちゃんのこと愛してるってアピールしてるのに明日のバレンタインにチョコレートもらえないなんて……」
その悲しそうな顔、ちょっとわざとらしいよ、山崎君。
「私、お菓子作りしたことないから……」
「そうなの?」
「うん」
「でも夏場に作ってくれていた蜂蜜レモンは美味しかったよ?」
「あれはレモンを切って蜂蜜入れるだけだよ……」
あれだって、最初に聞いた時は良く分からなくて正田さんにどうするか聞いたぐらいなのに。正直言って私の家事能力なんて知れている。お菓子作りを得意とする楓ちゃんが凄く羨ましいよ。
「で、明日のバレンタインには俺にチョコレートくれるつもりある?」
「え……本当に欲しいの?」
「うぅ、その言い方だときっとくれるつもりはなかったんだよね羽生ちゃん。俺、物凄くショックだ」
そんな泣き真似までしなくてもいいのに。なんだか泣いている振りって分かっていても私がとっても薄情な人に思えてくるんだけれど……。
「みんな手作りで渡すんだって盛り上がってるいるから、そういうでないと駄目なのかなあって」
「俺、羽生ちゃんからだったらコンビニで売ってるチロルチョコでも嬉しいよ?」
「それはちょっと……」
自分用のチョコレートはオレンジ風味のを買ってお店を出た。
「えっと、ちゃんと買ったんだよ?」
「何を?」
「その、山崎君にあげるチョコレート。手作りじゃなくて申し訳ないけど」
途端にニパッと嬉しそうな顔になる山崎君。
「だから言ってるじゃん。俺は羽生ちゃんがくれるものならチロルチョコでも嬉しいって」
「うん。それは分かったけど、やっぱり手作りって良いよね?」
並んで自宅への道を歩きながらちょっとボヤキ気味に呟いた。
「中には手作りをくれる子もいるんじゃない?」
「誰に?」
「山崎君に」
「いないよ」
「……なんで?」
山崎君が眉をひそめた。なんでそんなくだらないことを聞くんだ?って顔をしている。
「だって俺には羽生ちゃんがいるのに、どうして他の子のチョコレートを受け取らなきゃいけないのさ」
「え、でもほら、サッカーでも人気だし女子の中には山崎君っていいよねって話している子、いるよ?」
たまにサッカーを見ている女の子達が山崎君ってかっこいいよねって話しているのを耳にする。そして何であんなパッとしない子が彼女なの?なんて声も。そんな声を聞くとパッとしてないかな私、なんて真剣に悩んじゃうんだけど。
「俺は羽生ちゃん以外の女子からは義理チョコでも受けとらないよ。俺が欲しいのは羽生ちゃんからのチョコレートという形をした俺に対する気持ちだけだから」
「な、なんで山崎君ってそんな恥ずかしいことをサラッと言えちゃうの?」
「恥ずかしくないよ、本当のことだし」
うそー、たとえ本当のことでも絶対に恥ずかしいよ。こっちは恥ずかしさで内心ジタバタしているのに、山崎君はそんなの何処吹く風な感じで、こちらを見てニッコリ微笑むと手をつないできた。しかも世に言う恋人つなぎ!! ひゃーとか思いながらちょっと俯き気味で歩いていたんだけど、ちょっと違和感を感じて視線を上げた。
「どうしたの?」
「山崎君、もしかして身長、のびた?」
「あ、分かる? 四月から5cm伸びたよ、まだ伸びるんじゃないかって」
「へえ、羨ましいなあ……私、中三の時から全然伸びなくなちゃったよ」
「羽生ちゃんは今ぐらいがいいよ。俺の腕の中にスッポリ入る感じがとってもいいから」
だからどうしてそんな恥ずかしいことを平気で……。
「でもこれ以上、身長差ができるとキスするときに大変かなあ。ま、座ってすれば問題ないか。あ、膝の上に座ってもらっても良いかな」
山崎君、声が出てるよ?
「どう思う、羽生ちゃん?」
「はひ?」
「キスするの大変になるの、どう思う?」
「え?」
それをこんなところで私に聞くの? 私、答えなくちゃいけないの? こちらを見詰めているその目は答えを待っている目だよね?
「えっと、えーっと、大人になったら女の人はヒールの高い靴を履くようになるから、マシになるんじゃないのかなあ」
「ああ、なるほどね。それで随分と縮まるか」
「うん、そうだと思うよ?」
「じゃあ、俺の身長がこれ以上伸びても羽生ちゃんとのキスは大丈夫だね」
「え、私と?」
山崎君がムッとした顔になっちゃった。
「俺がキスする相手、羽生ちゃん以外に誰がいると思ってるの。それとも何? 俺が他の女の子とキスしても羽生ちゃんは平気だっていうわけ? ん?」
山崎君が誰か他の女の子とキスをするところを思い浮かべたら胸がちょっと痛かった。一年近く一緒にいてそれが今では当然のような雰囲気になりつつあって、そんな山崎君の横にいるのが自分じゃない誰かだなんて想像もつかない、というか考えたくなかった。
「それは、イヤ、かも……」
「でしょ? 羽生ちゃんの言葉に俺は結構傷ついた」
「ごめん……」
「何か奢ってくれたら許してあげるよ」
そう言って山崎君が指差したのはいつも前を通るコンビニ。
「そんなので良いの?」
「うん」
「分かった。好きなの選んで?」
++++++
まったく自覚が無さ過ぎるよ羽生ちゃん。俺はコンビニに入りながら溜息をそっとついた。
最初の頃に比べたら一緒にいることに慣れたのか、たまに自分から一緒に帰ろうって声をかけてくれたりするようになった。まあ相変わらず耳は弱い。最近は不意打ちしないと気配を察して耳を手で防御するようになったけど、さっきみたいに成功すると今でも可愛い声をあげて俺に抗議する。そしてそんなやり取りも二人のお決まりのコミュニケーションになりつつある。
だけど、いい加減に自分が誰のものなのかきちんと教えなきゃいけない時期なのかもね。たまに他の高校の男子生徒連中が羽生ちゃんを見ている視線も気に入らない。本人にはその気は無いんだろうけど、たまに無自覚すぎて意地悪したくなる。
「これ美味しそうだから買ってもらってもいい?」
手にしたのは“君想いショコラ”
「一個でいいの?」
「さすがに二つは食べられないよ」
「そっか、そうだね」
羽生ちゃんは無糖紅茶のペットボトルを冷蔵棚から出すと、ショコラと一緒にレジに持っていった。そんな後ろ姿を眺めながら自然と笑みがこぼれそうになる。
「今日は天気が良くて暖かいから川沿いにある緑地公園まで行って食べようか。羽生ちゃんは何か買わなくて良かったの?」
「私は、ほら、さっきのお店でかったチョコもあるし」
「そっか」
お互いの家を通り過ぎて川の土手に続く階段を登った。ここは春は桜並木の下でお花見、夏は花火大会の会場と地元では誰もが利用する憩いの場だ。さすがにこの季節は人通りも少なく、マラソンをする人や犬の散歩をする人がちらほらいるぐらい。
「あ、山崎君、あそこ、梅が咲いてる」
桜の合間に植えられている梅の枝に小さな花が咲いているのが見えた。羽生ちゃんはさっそく花に近寄って写メしている。
「ああいうのを見ると、そろそろ春なのかなって思うよね。まだ寒いのにさ」
「うんうん」
こちらに戻ってきた羽生ちゃんと二人でベンチに座ると袋からショコラを出す。
「これって初恋ショコラの限定版?」
「みたいだね。ショコラケーキの上にマカロンが乗ってる」
「ハート形のマカロンだ、可愛い♪」
「マカロン、好き?」
「うん。甘いの大好き♪」
「だったら、あーんして」
「へ?」
「マカロンあげる。俺、あまり好きじゃないから」
最初に手にした時は気が付かなかったんだマカロンが乗っていること。ショコラケーキは食べるけど、どうしてもマカロンだけは好きになれなくて。羽生ちゃんはちょっと恥ずかしそうに周りに人がいないか確認してから、あーんと口を開けた。ポイッとマカロンを口の中に放り込む。
「おいひいよ」
「ほんとに?」
「うん」
「じゃあちょっとだけ味見させて?」
「うん?」
首を傾げた羽生ちゃんの頭の後ろに手を回して引き寄せると、これはキスじゃないよマカロンの味見だからと唇を重ねた。そして前のように唇と唇を合わせただけじゃなく、少しだけ舌の先をその可愛らしい唇の間に忍び込ませる。だって羽生ちゃんの口の中にあるマカロンの味見をするんだから当然だろ?なんて更に自分勝手な理由をつけて。
驚いた羽生ちゃんはしばらくパタパタと両手で俺の肩を叩いていたけど、そのうち大人しくなった。あまりに大人しくなったので気絶でもしたのかとちょっと心配になったけど。
「羽生ちゃん?」
本当に心配になってそっと体を離して顔を覗き込む。羽生ちゃんは潤んだ目でこちらを見上げていた。
「……美味しかった?」
それ反則だ。なんだか物凄いカウンターを食らった気分で少し頬を赤らめた羽生ちゃんの顔を見詰めていたけど、どうしても我慢できなくて顔を近づけた。
「味、よく分からなかったからもう一度確かめさせて?」
そしてもう一度同じようにキスをする。
そう言えば、この季節限定ショコラのキャッチコピーって『君に想いの分だけキスしてあげる』だっけ。今の俺にピッタリの言葉だ。但し思いの分だけキスするとなれば、十年ぐらいは羽生ちゃんを片時も離さずにキスし続けなればならなくなると思うけどね。
+++++
「じゃあ明日、楽しみにしてるね、チョコ」
そう言って私を家まで送ってくれた山崎君は、名残惜しそうに私の手を離すと元来た道を引き返して行った。そんな山崎君の後ろ姿をしばらく見送ってから玄関に入る。
「……またキスしちゃった……」
口にすると現実が押し寄せてくる。山崎君とまたキスしちゃった、それも何回も!! きゃーっと顔を押さえながら、ただいまもそこそこに階段を駆け上って自分の部屋に飛び込む。そしてベッドに突っ伏すと横に置いてあったぬいぐるみを抱きしめて意味も無くジタバタしてみる。
初めてキスした時みたいな突発的なものじゃなくて、ちゃんとしたキスだった。し、しかもっ、しししたが、いやぁぁぁぁ! 恥ずかしくて死んじゃうよぉ! とは言うものの人は羞恥心ごときでは死ねないことを私は知っている。それに、恥ずかしいだけじゃない気持ちもあるんだもん。
「……」
山崎君とのキスはとっても素敵だった。思い出しただけで体がふわふわして蕩けちゃいそうな不思議な感覚にとらわれる。それがまた恥ずかしくて、誰もいないのにジタバタしちゃうのだった。




