プロローグ
主人公!というものはあまり、こいつにする、というのは決めないようにしています。なるべく皆を出していきたいので。こんな私ですがお付き合い下さいませ。
夕焼に立ちすくしているシオンは愕然としていた。
今、すくなくとも自分に行くあてはない。
ソウダという国を植民地化しようとするオリヴァルト計画。
その戦争に、わずか6歳の少年であるシオンは狩り出されていた。
自分の意志とは無関係に人を傷つけていった少年は、いつしか帰る場所を無くしてしまった。
これからどうすればいいだろう。親も、友人も、仲間も、皆自分から離れていってしまった。
今、自分の目の前には大きな夕日。
少年が感傷にひたっている時、後ろから誰かが来る音がした。
無意識に持っていた剣を構える。
「美しい夕焼けだな。」
少年に話しかけてきたのは中年の男であった。凛とした表情にも、どこか軍人の匂いがする。口の上には整えられた茶色いヒゲがあった。
「あんたは?」
シオンが問う。
「ガレドニアの騎士だよ。」
男は言った。
ガレドニアといえば、オリヴァルト計画に反するソウダ軍の名前ではないか。
要するに、このヒゲの男はシオンの敵ということなのだ。
自分の仲間を奪った敵。本当は憎いはずの男なのに、彼に敵意は感じられなかった。
それでもシオンは剣をしまおうとはしなかった。それは彼が小さな頃から兵として育てられたためだろう。
「これはこれは、申し遅れたね。俺の名はセイデン・アルタータ。君は?」
「・・・シオン。」
「そうか、シオン君、君の軍隊はもう全滅している。」
シオンは、知っている、と小さく頷いた。分かり切っていることだ。周りの残骸を見ても、やられているのは自分の所属する軍だけ。
セイデンは少年を救いたかった。セイデンには1人、シオンよりいくつか年下の娘がいた。その娘は今1人で留守番をしているだろう。
なので、子供を1人きりにしておくことはできない。それはこの少年にもいえることだ。
「私と一緒に来ないか?」
セイデンはきっぱりした口調で言った。無論、本気である。だがシオンにそれは伝わらなかった。
「何を言ってるんです。あなたと俺は敵同士なんですよ!」
再び剣を構える少年に、セイデンは1つの小さなため息をついた。
「うおおおおっ!」
シオンは思いっきり剣を振るってきた。セイデンはそれを持っていた鉄の棒で受け止めた。
「うん、若いがいい太刀筋だ!」
だが、とセイデンが言うと、次の瞬間少年は地面に叩きつけられていた。
「まだまだだな。」
「くっ!」
組み敷かれたまま、シオンの目には涙が浮かんでいた。
失った仲間や友への哀しみが、今さらになって一気に吹き出てきたのだ。
セイデンがシオンを開放した後でも、少年は立ち上がろうとしなかった。
「ちっくしょー!強くなりてぇ!」
気づけばそう叫んでいた。
自分がもっと強かったなら、あるいは守れたものもあっただろうに、そう思うとくやしくてくやしくてならなかった。
「なら俺の所へ来ないか?」
「えっ?」
「君にはまだ磨かれていない才能がある。それを埋もれさせるのは惜しい!強くなるんだ、シオン!俺の元へ来て、もっともっと強くなれ!」
シオンはその時、自分に選択しがないことに気づいた。
このままここにいれば、自分は飢えに苦しみ、死ぬだろう。
それならば、やることは1つじゃないか。
この男を利用してやる!
「分かった。あんたについてくよ。ただし、いつかその首をもらってやる!」
ぐっと涙を拭って言った。
「よし!その意気だ!じゃあこれから君は私の家族だ。よろしくな、シオン。いや、シオン・アルタータ!」
セイデンは意気揚々と彼に手を差し出した。アルタータ家に家族が増えることを、心のそこから祝ってやろうとしていた。
家族?この男は敵国の軍人だし、先ほどまで自分はこの男を殺そうとしていた。
頭が狂ったのだと思ったが、今は早くこの状況から抜け出したかった。とすると、彼に言えることは1つだ。
「・・・よろしく。」
そう言って繋がれた手は久しぶりの温もりで満ちていて、温かく感じた。
舞台はこの10年後、シオンが16歳になった所から始まる。
プロローグを見て下さりありがとうございます!まだまだ未完成な作品ですがどうかよろしくお願いします。