90
すいません、明日は仕事の関係で一日お休みです……
「しかし、いきなり何だろうな?」
「……余程の事があったのは確か」
大気圏離脱をしないよう気をつけるから大変なのであって、離脱を前提とするならば簡単だ。
いや、普通は重力の井戸の底から脱出するのが大変で、本来の史実においては200~300トンの液体燃料ロケットが用いられている。
しかし、西坂の【オーガニック】には重力制御システムがある。
これを用いれば楽に離脱可能、というか慣性制御まで用いれば元々地球自体が宇宙という空間の中では超高速で移動している訳で、空間的に完全に停止していれば宇宙空間を太陽が時速8万3700キロ(秒速23.25キロ)で移動しているから、その周囲を公転している地球もまた同じく螺旋を描くように宇宙を移動している(太陽の速度=2013年時のものです)。
一般的な宇宙飛行と看做されるのは高度100キロ以上なので、理屈の上では5秒も空間上の絶対座標基準でじっとしていれば宇宙へと放り出される事になる。
と、まあややこしい話は置いといて、とりあえずさっさと宇宙へ上がった二人。
もちろん、二人はこの後で笹木が話した内容などは知らない。
「新たに連絡入ったな」
「……月面基地へ最大速度で向かうように、と」
とりあえず命令なので向かってみれば……。
「おいおい……あれって」
「……まさか……アライアンス?」
もちろん、ここで言っているのは単なる「同盟」の意味ではない。
彼らの視線の先に見えるのは巨体。
悪魔のそれではなく、人類の【オーガニック】よりなる巨艦の一番艦。
人類初の恒星間航行船「アライアンス」。
ちなみに、英語なのは矢張りアメリカの影響が大きかったからだが、さすがに他国人も多数混じって構築する艦なのに特定の国の人名は拙いだろう、と判断された事から名称自体は当たり障りのない単語が選出されている。ちなみに二番艦は更に当たり障りのないようにラテン語から「グローリア(栄光)」、三番艦は「イデア(理想)」となっている。
戻っていたのか、そう思っていた二人だったが、更に仰天する通信が入る。
「…………はい?」
「…………えッ?」
「「アライアンスに着艦せよ?そのまま所属艦載部隊司令部へ出頭せよ?本艦はあと三時間で出航するから急げ?」」
一瞬の間を置いてその意味を理解して、二人は混乱した。
当然だろう、着替えとか私的な品だってあるのに何もかも無視していきなり、だ。
いや、荷物自体は一時地上へ出向する際に宇宙軍の事務所に一部の地上へ持って行った品を除いて預けてあるから移されたのかもしれないが、それにしたって……。
と、頭では思いつつも体はこれまでに仕込まれた訓練の賜物か殆ど反射的に動いて、「アライアンス」へと着艦する。
さすがに地球人類の精鋭部隊というべきか。
もっとも、動かされる二人にとっては「訳が分からないよ!」なままあれよあれよという間に司令部へ。
案内された部屋にやって来た二人はノックを行う。
「は、入ります」
「……はいります」
『おう、入れ!!』
あれ?この声は?
などと思いつつ入ってみれば……。
「「……教官?何故ここに?」」
そこにいたのはゴットフリート大佐であった。
「おう、来たか。間に合ったな」
「……すいません、事情を説明して頂いても?」
いともあっさりと説明は為された訳だが、それによれば緊急事態が発生したという。
実は恒星間航行船の運行は厳密に日程が決められている。太陽系外に滞在する人類、特に生存の厳しい環境にいる者達にとっては正に命綱だからだ。最悪の事態を想定して三隻が次々と航行して三隻の内に一隻が到着すれば維持可能なだけの物資が搭載・栽培されている。おり緊急時には合流が義務付けられている。
なので、「アライアンス」号も発進日程は決められていたのだが、何と……。
「……集団食中毒?」
「うむ、どうやら久方ぶりの地球の食事を食い過ぎて腹を壊した、と当初は思われていたのだが……何かが拙かったようでな。結果、搭載機部隊の司令部が壊滅、更に暇なので参加していた部隊メンバーの一部がそのまま入院した」
「……どっかの国のバイオテロじゃないでしょうね?」
「その可能性もあるので一応そちらも調査はされている。まあ、しばらくすれば全員復帰は可能なのだが出航は猶予がない。なので急遽月面司令部の一部と入れ替えが行われてな、それはいいのだが」
本来なら直属の部隊を連れて行くのだが何しろ教官をしていたのでゴットフリート大佐には直属部隊がいない。
かといって部隊がいないのは困る。結果……一期生達が急遽宇宙へ上がらせられたという事らしい。
「おっと、次の奴らが到着したようだ……下がっていいぞ」
かくして、訳が分からない内に外宇宙航行に組み込まれた二人……だけでなく一期生達であった。
集団食中毒って怖いよねー
……が
勿論、現実はそんな単純な話ではなく……




