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■視点:西坂


 世の中上手くいかない事も多い。

 けれど、上手く行く事もある。

 あれからおよそ一月後、俺達は再び南宮の所を訪れていた。


 「という訳で辞令」

 「……訳分からないのだけれど」


 困惑する南宮と、書類を差し出す清美の姿があった。


 「正確には辞令の前段階。申請書」

 「……申請書?」

 「そう、普通なら通らないか時間がかかるけど、今回は別。了承すればまず間違いなくすぐ通る」


 ますます疑念を持った顔で首を傾げる南宮。

 まあ、そりゃそうだろう。普通は分からない。

 辞令というものは「下さい」「はい、どうぞ」と出るものではない。どの組織であっても異動の希望を出す事は出来ても、それが通るかは疑問だ。何年も何年も出し続けても希望の場所に異動出来るかはわからず、その反面希望していない場所へ唐突に異動になったりする。

 巨大な組織は各個人の希望などお構いなしに一個の歯車として扱い、動く。

 そうしなければ、一人一人の細やかな希望を聞いていたらそれこそきりがない。今は宇宙軍では学校の一期生という事で、将来の幹部候補生として重視されている面々でも卒業の後はあっちへ、こっちへと上層部の判断に従って異動となるはずだ。今、彼らが重視されているのは各国との関係の象徴としての立場があるからでしかない。

  

 「……順を追って説明する」

 「……そうして」


 日本の場合、実は近接戦闘を行う部隊、というのは一定数存在している。

 原因は単純、日本の地形の関係だ。

 日本は山岳地帯や丘陵地帯が多く、森林も比較的広い。海岸沿いの都市部に多くの人口が集中し、それ以外の密度は存外低いのだ。

 結果として、そうした地域に入り込んだ場合は近接戦闘になりやすい。

 山岳地帯にせよ森林地帯にせよ遭遇戦闘になりやすいからだ。この為、一定数の近接戦闘を得意とする部隊の需要は常にある訳だ。


 「……でも、希望したからってそんな部隊に配属される訳じゃ」

 「普通はそう」

 

 ただ、今回の場合は事情があるんだ。

 まず、俺達が注目されてる状態にある事。

 一期生が卒業して配属が行われ、二期生が正式に学校に入学するまでは俺達の注目度は極めて高い。それこそ上層部も本来目を通すはずのない、俺達レベルの階級の報告書に目を通すぐらいに。

 早い話、彼らも知りたい訳だ、「ベテランすら圧倒する一期生の視点」って奴を。

 そんな中、俺達は先日、一つの報告書を上げた。


 【戦力の有効活用について】


 何せ暇な上に、今は無駄にあちこち行ける権限というか誘いがあるから、この機会にと二人で分担、徹底して可能な限り調査を行った。

 その結果判明したのが予想以上に技能の有効活用が出来ていない、という事。

 接近戦苦手なのに接近戦の部隊に放り込まれてる人間も結構な数がいた。

 性格的な問題もある。やっぱり至近距離に踏み込んで直接悪魔を殴る、ってのは得手不得手が生じるもんだ。如何に白兵戦が昔から得意と言われる日本軍であっても、近年は若い人間が多数入隊している。自分達もそうだけれど、中には「無謀だ」とか「もう少し踏み込めれば」と近接戦闘部隊の隊長クラスからの苦い気持ちも結構あった。

 何でまあ……俺らがあげたって事で上から「これは本当なのか?実際はどの程度なのだ」と質問された事務方が体面取り繕うのと、面倒省く為に俺らに連絡してきた訳だ。


 『何人か候補を挙げろ』ってね。


 彼らが探すのは手間がかかる。

 クソ忙しい時に書類を作るのも面倒。

 けど、俺らはこの後一年か二年を目処にまた正式に宇宙軍に戻る(それまでも短期にちょくちょく戻るだろうけど)。そこで俺達が「こういう事があったんだけど」と洩らしたりして、軍が何ら対策を取っていなかったら上が恥をかく、って事になるかもしれない。そうなった時責められるのは間違いなく、俺達の報告書を上からの質問もあったのに握りつぶした事務方だ。なんで、面倒ごと丸ごとこっちに投げてきた訳だ。……この状況作ったのはそっちなんだから、そっちが何とかする基準を作れ、ってな。

 早い話、一部の人間の異動による効果。

 近接苦手な奴の精神的な部分だとか、近接得意な部隊の能力向上だとかその辺をきっちりリポートにまとめろ。

 或いは、今後どうやってそういう人材を拾い上げるかの方策を形にして出せ。

 そういう事だ。

 丸投げだろうが何だろうが、対策を取ったという形をきちんと取れば面子は立つ、俺らが対策を出さなければ「行おうとしましたが、彼らも宇宙へ戻る事になった為に実際の形としては上がって来ず」と俺らの意見を尊重したけど時間とかの関係で駄目でした、と上と俺ら双方に言い訳は立つ。

 別に某国だけじゃなく、官僚だって「それまでと同じ」「新しく面倒な事」を嫌う面はあるんだ。たらいまわし、とか前例がありません、なんて言葉が存在するのは伊達じゃないのさね。まあ、下手に新たに前例を作るとなると、失敗した時の責任はそいつにかかってくる可能性がある。前と同じ事をすれば責任を問われる事はないからな……。


 「だから貴方が同意してくれる事は私達にも得がある」


 そう清美が告げる。

 黙っていた南宮だったが、ポツリと「ありがとう」そう呟いて、書類にサインを行った。

 

前例がありません

お役所仕事の例としてよく上げられる言葉ですが……前例作るって事はその事に対して責任を持つ、って事ですからねえ

「俺が責任を持つ」

って言葉は格好いいですが、彼らにも生活がある訳で……一概に責めるのも間違いなんですよね

……念の為に言っておきますが、私は公務員じゃありません

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