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■視点:黒田清美
機体を一度引き、踏み込み直す。
ガトリング砲を鈍器として扱い、わざと速度を落としてスイング。
それに南宮は空間から引き抜いた武器で防ぐが、そのまま吹き飛んでしまう。
その光景に僅かに清美は顔を顰める。
(……やっぱり)
吹き飛ばされる瞬間に同方向へと跳んで威力を殺しながら、南宮は続けて空間からビームマシンガンを引き抜く。
サブマシンガンのような形状を持つそれからビームの弾幕が飛んで来るが、それを上下の空間も利用し、小刻みに跳ね飛び回避してゆく。
回避しながら僅かに眉を寄せる。
そこには僅かな苛立ちがある。鋭い視線を向ける先は南宮機。
(……そうじゃない)
今度は先程までの速度重視の短調なものとは異なり、最小限の小刻みな動きで距離を詰めてゆく。
それに南宮機は的確に武器を持ち替え、射撃を繰り返し、距離を維持しようとする。
その姿に更に苛立ったように加速する。
「終りにする」
瞬間取り出したガトリング砲。
それに意識が移った一瞬、両足を揃えた兎キックで吹き飛ぶ南宮機だった。
「……一旦降りる」
そう声を掛けて、機体を反転させた。
その様子を西坂機がじっと見つめていた。
……隙有と思ったのか、背後から奇襲をかけた新人の機体が僅かに横に避けられた事で攻撃を外して、そのまま投げられていたりしていたが些細な事だ。
機体を戻し、南宮が戻ってくるのを待つ。
「いや、やっぱり強くなったわね」
そう言って苦笑する南宮に強い視線を向ける。
「……さっきのアレは何?」
「……アレ、って?」
………。
じっと南宮に視線を向ける。
誤魔化しは許さないとでも言いたげに、きっと気づいているはずだと信じて。
……その視線に少し視線を落としてから南宮も口を開いた。
「……接近戦、よね」
「そう」
かつて南宮は接近戦を得意としていた。
それが久しぶりに会った彼女は射撃戦に徹し、近接戦闘に移行すべき場面でも……。
「……自分の配属先が、ね」
軍隊というのは基本的に集団行動だ。
そして、部隊によっては接近戦闘に慣れていない、或いは射撃戦闘を基本とする部隊もある、というかそちらの方が圧倒的に多い。接近戦というのはやってみると分かるが射撃戦闘より難しい、というか【オーガニック】が弾数無制限なせいで引き金を引きっぱなしに出来るからこその強みでもある。
宇宙だとそうも言ってられない。
何しろ、宇宙では弾が延々、少なくとも地上より余程遠くまでひたすらに飛ぶ。
お陰で場合によっては近距離戦闘を余儀なくされる。私はまだ射程が決まっているエネルギー系のガトリングだから気楽だけれど……。
地上では仲間が接近戦を苦手とする場合、それに付き合わないといけない。
そして新たに隊長になった部隊を見る限り……おそらく彼らを接近戦に連れて行ったら死ぬだけなんだろう。でも……。
「…だからって……自分の得意分野を潰したら」
「分かってる……分かってるの。けど……!」
強く手を握り締めて俯いてしまった……。
どうしよう……。
という訳で、接近戦しようにも下手に突っ込んだら孤立する為に出来ないでいる南宮さんでした
もちろん、地上でも近接戦を好んでやる部隊はあるんですけどね
そこら辺は部隊の性質や隊長の気質、後は隊員の技量の問題です
ちなみに中には「全機抜刀!とっかあああああん!」なんてやる部隊もいます
……まあ、野中五郎みたいな人が率いる部隊みたいなのもこの時代存在してたり




