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■西坂家


 「え、転属?」


 まだ地上に降りてきてそんなに経っていない。

 なのに転属?

 そう思うのは無理もないし、と同時に弘智がこうして砕けた口調で確認しているのは、今が私的な時間というか実家で、相手が少将閣下とはいえれっきとした父親だからだ。

 さすがに家の中で父親に対してまで上官に対する言葉遣いをする気にはなれない。母が亡くなってからは父一人子一人の家でもあるし。

 ……こうしてみると、父は前より痩せて小柄になった気がする。

 家の中もどこか埃っぽく感じてしまう。

 ……母もあんだけ忙しかったのに、きちんと家の片付けをしてたんだな、とふと実感してしまった。

 

 「けど、父さん。俺、まだ地上に降りて配属になって三ヶ月経ってないんだけど」

 「分かってる、お前に問題がない事は他ならぬ配属先の隊長がわざわざ強調してた」


 二人して飯を食いながら話す。

 折角だから、と男二人で台所に立って作った飯だ。これでも軍人、幾らレーションが普段は用意されていると言っても戦場では何があるか分からない。現場で食えるものを使ってとりあえずの飯が出来るぐらいには知識はあるし、刃物の扱いだって慣れてる。

 ……まあ、俺の場合宇宙へ出たら完全に死にスキルなんだが。

 自然の豊かな日本ならともかく、いや、とにかく地上でなら何かしら口に入れられるものの欠片ぐらいは余程の場所でない限りあるだろうが(毒性があるかどうかは置いといて)、宇宙空間ではそんなもの手に入るはずがない。というかあるなら教えて欲しい。

 かといって基地ではわざわざ専門の技能を持った調理する人間がいるというのに、自炊するなんて滅多にない。

 必然的に料理技能を使う事もない訳だ。まあ、俺がやったのは皮むきぐらいで調理自体は親父がやったからいいんだが。

 母が忙しい時など替わって作ってあげれるように、それなりに腕を磨いてたらしい。予想以上に美味い。


 「ま、ただ、な?幾ら【オーガニック】に差があるのは当然とはいえ、ジェット機とレシプロ機を一緒の部隊に置いとくのは色々と面倒なんだ」

 

 幾ら何でもジェット機がレシプロ機と同じ速度で飛べば燃費が悪い事甚だしい。

 例えば、我々の世界を例に取ればジャンボジェット旅客機でさえ巡航速度はマッハ0.8を超える。時速にしておおよそ900Km。逆にレシプロ戦闘機を例に上げれば零式艦上戦闘機いわゆるゼロ戦の場合最高速度が500km台の前半から後半。

 F8Fベアキャットで600km後半、最高のレシプロ戦闘機の一つに数えられるP51ムスタングでも700kmちょい。

 もちろん、最高速度で飛び続ければレシプロ機側の燃費が悪化する。

 これらは【オーガニック】にも当てはまる。

 別に燃費とかは関係ないが、やっぱりレシプロ機ではジェット機についていくのは色々と無理があるのだ。

 ましてや、弘智の【オーガニック】は更にその上。

 宇宙ロケットレベルには到達している。そんな機体を燃費を無視出来るのと、重力・慣性制御が出来るのに任せて無理やり部下の機体に合わせていたというのが正しい。

 

 「何で、隊長達の方が折れた。まともについていけん単なる足手まといにしかならん、という気持ちを味わい続けるのは辛いんだと理解してやれ」


 父親の側としても複雑な心境ではあった。

 ほんの数年前に初陣を強制的に迎える事になった息子が今では地上部隊のベテランでさえついていけない程になっている。 

 その事を父として喜べばいいのか、悲しめばいいのか。

 強くなったという事はそれだけの激戦と訓練を経てきたという現われであり、同時に今後もそうした激戦地区にあり続けるという事も意味している。

 かくして、差は更に広がり、そこについていける者、共にあれる者は更に限られる。内実は第二次世界大戦末期のウルトラエースのそれと変わりはしない。どんどんついていける者が減っていく為に、彼らしかいない為にひたすら出撃を繰り返し、そこで生き延びた為に更に出撃を繰り返す……。

 その結果がウルトラエース達の200だの300だのといった撃墜スコアだ。本当ならばアメリカのようなトップエースでも10機ちょいが当り前のような方が軍としては望ましいに決まっている。それはそれだけ余裕がある事を、そんなエースに頼らずとも彼らを後方に下げれるだけの余裕がある事を意味しているからだ。

 しかし、【オーガニック】の戦闘はそんな感傷を無視する。

 機能が充実した【オーガニック】は肉体の過負荷ですら癒し、精神をもすり減らす事を保護する。

 何度も何度も使い、研ぎ続ければどんな刃物でもやがては磨耗しきってしまう時が来る。

 なのに、【オーガニック】はそれすら許さない。

 まるで倒れるその瞬間まで最高の状態を保っておくかのように、いや、或いは必要なその時まで維持し続けるかのように機能を充実させ、万全の状態で戦える状態を維持し続ける。父である自分さえも遥かに超えて行った、短い間にそれを為す為にどれだけ過酷極まる状況にあったか想像もつかないが、それでもこうして目の前に座る息子からは狂気を感じさせない。 

 

 (【オーガニック】とは一体何なのだ?)


 改めてそう思う。

 かつてはその理不尽な性能に関して、だった。

 今は違う。

 人を大事に手入れし、研ぎ澄ませ、更に上のレベルへと引き上げていく。そんなようにも見える【オーガニック】に対して不信感ではなく、恐怖のようなものを覚える。

 無論、より正確には【オーガニック】ではなく、それを与えた神々の思惑が何なのか、という事になるだろう。

 自分が考えた所で思いつくならとっくに誰かが明らかにしているのだろう、そう思いつつもそんな思いを拭い去れないのだった。


久方ぶりに会った父が何だか小さく見えてしまう

「親父ってこんなに小さく感じたっけ?」

亡くなった父に生前最後に会った時、妙に強くそう感じたものでした

あの頃はあれが最期になるだなんて思わなかったからなあ……

「親孝行 したい時には 親はなし」、亡くなって初めて実感しました

  

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