表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/144

78

 それは静かに動いていた。

 静かな事もあったが、それ以上に大地の奥深くに普段は眠り、時折移動するそれに気づく人類はいなかった。

 ただ地下を移動するだけならば振動を感知する事もあったかもしれないが、それが移動するのはマントルの中。高熱のその中を常時探る機械など人類はまだ得ていない。かといって【オーガニック】で確認しようにも単体で出くわせば死ぬだけ、追尾するにしても一人だけでは限界がある。

 かくして、それはゆっくりと流れに乗って移動する。

 どれだけの時がすぎた頃だろうか?それは僅かに身じろぎすると思い出したように浮上を開始した。




■視点:西坂


 最近はシミュレーターが多い。

 というか、感覚を鈍らせない為には現状これしかない。

 こうして地上に降りて初めて、これまでの宇宙での教育が常識はずれのものだった事に気がついた。周囲の基準が高すぎた上、なまじついていけた為にあれが標準と化していたらしい。

 偶に地上で実際に【オーガニック】を動かしはするものの、殆ど西坂が教官役となってしまっている状態だ。

 仕方がないので、宇宙の教官に連絡を取ってシミュレーションデータを送ってもらった訳だ。

 連絡を取った時、教官曰く。


 『お前もか』


 どうやら、同期生達も同じような悩みに陥っているらしい……。

 なのであの後一期生全員宛でシミュレーションデータが送られてきている。念の為に言っておくがこの世界、インターネットではないが似たようなものはある。世の中、効率や便利さを追求すれば似たようなものが出来上がり、似たような発想が生まれ、似たようなシステムが出てくるようだ。それを通じてデータが送られている。

 幸い、教官が使っているデータをそのまんま送ってくれたらしく、なかなか攻略出来ないので至極役立っている。

 ちなみにそのシミュレート、現在の部隊の人間からすれば「あれは人間のやるもんじゃねえ」「人間やめてる」「なに?お前Mなの?」という感想だったりする。

 今日も今日とて何時もの訓練をやるかと足を運びかけたが、それは唐突に遮られる事になった。

 ……基地に鳴り響く非常警報の音によって。

 

 急いで集合場所となるミーティングルームへと駆け込む。

 一番遅かったのは純粋にまだ基地に他の連中程慣れていないからだ。それでも指定時間内の五分には十分余裕を持って滑り込む。自分のいる場所からの最短ルートを即座に割り出してショートカットが出来る程慣れてこそいないが、基地内で迷子になるのは冗談ではすまされない。

 漫画やアニメの世界でなら「遅刻」も許されるのかもしれないが、現実で軍人の「遅刻」は絶対に許されない。

 かつて、ナポレオンがワーテルローで砲兵部隊の遅れが敗北に繋がったように、想定外の遅れは時に致命的な結果を生む。その結果、仲間が同僚が民間人が死ぬ事になるかもしれない。基地が大きすぎる?道が迷うような道筋?まだ来て間もない?どれも言い訳にはならない。迷う可能性があるのなら迷わないよう対策を取る必要がある。

 まあ、幸いというか西坂の【オーガニック】なら外部記憶機能がある。

 あれがあれば、一度辿った道を完璧に記憶する事も、基地の地図を丸暗記する事も、その記憶からルートを割り出す事も問題はない。

 さすがに全員が揃っている場所に最後に入るのは気が引けない訳ではないが、こんな時の迷いもからかいも不要だ。

 誰もがチラリと視線を向けただけですぐに前に視線を戻すし、西坂もすぐに空いた席を見つけて座る。

 隊長もそれで全員が揃った事だけを確認する。五分を超えたなら叱責も必要だろうが、規定時間内に揃ったのなら最後だからといって怒鳴るのも間違いだ。

 

 「よし、全員揃ったな。では状況を説明する」


 そして説明された理由は極めて単純。「名付き」が出た。

 その言葉に一気に緊張感が高まる。西坂もだ。

 どんな相手であっても、大抵の相手は自分を殺す刃を持っている。例えそれが一体の生まれたばかりの悪魔であったとしても油断は禁物だ。ましてや、「名付き」であれば。

 

 「相手はわかってるんですかい?」

 「キャットフィッシュ、だそうだ」


 全員の顔が渋い表情になる。

 キャットフィッシュ。日本名なまず。

 日本に最初に出現したのと、その時の事態からそう名付けられたその意味する所は「地震」。

 地磁気の異常を感知して動くのか、それとも大地の弱そうな場所を好んで上がってくるのか、或いはそれ以外のまだ人類が理解出来ない何かが影響してくるのかわからないが、一つだけはっきりしているのはこの「名付き」の悪魔が出現する際は必ず地震が起きる。

 それも、これまで地震が起きていないような安定した地盤を持つ大陸側のプレートでも大規模な地震が発生する。

 お陰で、有史以来地震の記録が存在しなかった都市近郊に出現した時はとんでもない被害が出た。……地中深く、地殻の更に下、マントルを普段たゆたっているせいで、居場所が掴めず予兆を掴んだ時には既に手遅れというのも、この「名付き」の悪魔が嫌われている理由だ。

 

 「で、どこに出たんです?」

 「半島、その先端付近だ」

 

 それで全員が大体の所を把握した。


 「……地震被害でかそうですね」

 「気にするな、俺達の守らねばならん地域じゃない」


 完璧に割り切る必要はない。だが必要以上に気に病んでも仕方がない。

 どうせあの国に支援に入るのは無理だ。救援物資は送られるだろう、受け取るかどうかは相手次第だが、それを手配するのは国。

 せいぜい自分達に出来るのは奴がそこから南下して来ないか、してきた場合の迎撃任務。もっとも……。


 「うちに来る前にどうせまた潜ってしまうだろうがな」


 誰かがそうポツリと呟いた。

とはいえ、世の中予定通り、想定通りに終わる程甘くない訳で

実際には想定外の事、起きて欲しくない事ほどよく起こるんですよね、マーフィーの法則の通りに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ