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 「……疲れた」

 「……同感」


 一期生達全員が食堂で久々に集まり、ぐったりとしていた。

 戦闘は終結した。

 後になって教えられた上級悪魔という存在に一同は自分達が気づかぬ間に天狗になっていた事、そしてその鼻をへし折られた気分だったが、世の中上には上がいるという事は重々理解していた、というかさせられていたのでショック自体は余りなかった。

 

 あの後、戦闘は急速に終結した。

 それまでは一部の圧倒的強者はともかく他はそれなりに梃子摺っていた。しかし、その最大の原因はといえば、上級悪魔という指揮官の存在があった。

 逆に言えば指揮官が最後にひたすらに突撃を命じて、自身はとっとといなくなってしまったのだ。おまけに残っていた悪魔達に自我と呼べるレベルのものはなく、ただ命令に従うだけ。

 統率の取れた軍と、ただ闇雲に突き進むだけの群れ。勝負は見えていた。


 しかし、だ。

 本当の意味での彼らにとっての地獄はその後にやって来た。

 古今東西、戦闘集団を動かすにはそれを支える膨大な後衛が必須である。例えば、この世界ではない我々の世界の米軍の場合前線で戦うのが三割、後方支援が七割の人員配置であるという。

 軍というものは最前線で戦う兵士だけが全てではなく、補給の手配、補給物資の運搬、整備、調理、建設様々な分野に渡る。

 例え弾薬が不要であり、その分軽減出来るとしても食料や移動用のシャトルや艦船の燃料は必要で、それを運ぶ必要がある。

 シャトルや艦船はメンテナンスフリーという訳にはいかないので整備の人間が必要。

 食料を運んできても、生を丸かじりする訳にはいかないので、数千数万の人間の腹を満たすべく調理を行う人間が必要。ちなみに第二次大戦時のドイツ軍には製パン中隊とか屠殺中隊という前線でパンを焼いたり、精肉やソーセージの作成を行う部隊が実在した。

 基地などを建設する工兵も必要。

 そして忘れてはならないのが……書類だ。

 不正を防ぐ為にはどうしてもきちんと形を残さないといけない。

 どんだけの物資を運び、どれだけ消費し、どれだけ残っているのか。

 どれだけ残ったから次回に備えて、どれぐらい必要なのか。

 物資だけではない。今回の損害がどれぐらいだったのか、何人が怪我をして何人が無事で、この内死者は何名で名称か階級は、重傷者は。

 死んだ人間が出れば補充の願いを出し、重傷者はどれぐらいで復帰可能なのか、復帰は不可能なのか、長期に渡るならそちらもまた補充を申請する。

 面倒だからといって怠れば後になって困るのは自分達だ。だから、大変でも面倒臭くてもこれだけは怠れない。

 後方は後方で、これらの送られた報告書に基づき必要な物資を手配し、それを輸送する手はずを整えなければならない。

 「どこそこ隊宛」という張り紙を張れば勝手に飛んでってくれるというならともかく、そうではない以上彼らがどの船に載せるかを手配しなければならない。船は無限に存在しないし、時間もかかるから余裕を見て何時まで着くから必要な船は何隻で、人事は今回の損害ですぐに動けない人間はこれだけ、物資の補給が終わって動けるようになるまでにかかる時間はこれだけで、そうなると補充の人員はこれこれこれだけは必要だから辞令を発して……。

 まあ、長々と書いてきたが、何が言いたいかといえば、戦闘が終わったからとて終りではない、という事だ。

 将来的に指揮官などにもなっていく事を期待されてる一期生達はそちら方面でも良く言えばみっちり勉強する事を求められており、普通に言えば都合の良い手伝いとしてこき使われている。

 文句を言いたい所だが、ちゃんと別に給与が出ている上、自分達の立場が立場。立場が弱いとかそういう意味ではなく、純粋に将来必ず必要になる事が分かっていて、今なら他の部署のやり方なども学び放題。もし、実際に配属になったらこんなに書類ばかり見ていられるのは後方の人間だけで、それも自分のいる部署に回ってくる書類だけになる事は確定。

 見聞を広げる、経験を積むという意味合いでは正に宝の山のような経験だ。

 だからこそ、彼らは頑張って勉強していた訳だが、ようやっとそれも一息つく時が来た。

 結果として、彼らもお役御免、言い換えるとやっと暇な時間が取れた為に部屋へと戻ってはいたものの、誰ともなく食堂へと一人二人と集まり、何時しか全員が集まっていたのだった。


 「正直、頭が煮えくり返りそうだよ、あたしは……」

 「む……普段なら情けない、それでも…と言いたい所だが気持ちは分かる」

 

 普段は元気なもの、こうした書類仕事が得意な人間でさえ目の下に隈を作っている有様なのだから、どれだけ今回の戦闘が今までにないもので、結果として必要な書類が増大したのか考えたくもない、というのが本音だろう。そして、そうやって上がってきた学生達では手を出す事自体させてもらえない書類の山と今頃、上層部は戦っているはずだ。


 「後方の戦い、か……あんなに大変だったんだな、後方の書類仕事って」

 「計算に次ぐ計算、必要な物資がどこにあるか、どこに持っていけばいいのか、何時までに運べばいいのか、前と後ろから挟み撃ちにあっての「無理だ」「早く寄越してくれ」の大合唱の抗議……本気で精神がグラインダーで削られる気分だったよ、あれは……」


 聞いてはいても、実感してみないと分からない事もある。

 傍目からは楽に見えても、実際はそんな楽なもんじゃない仕事なんてのは山のようにあるのだった。


 「……まあ、俺らはやる事やっておこう」

 「何だよ、まだ何かやらないといけない事があるのか?」

 

 西坂の言葉にうんざりしたような声がカルロから漏れた。

 同感だと言うように顔をしかめている者もいたが、こればかりは自分達でやらねばならない。


 「そりゃそうさ。ポイントを使った進化ばっかりは自分でやらないとな……」

 「「「「「「「「「「「「「………忘れてた」」」」」」」」」」」」」


 今回の戦闘は極めて大規模だった。

 激戦であり、それだけに生き残った彼らが得たポイントも非常に多かった。

 ……本来成長というものは楽しい作業のはずなのだが、頭が疲れきっている事もあって、溜息の漏れた一同であった。


戦闘ばっかりしてはいられません……

終われば書類との戦争が待ってますw


良さげに見える仕事でも実際は死にそうなぐらい大変……そんな事は多々あります


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