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■視点:西坂


 巨大な悪魔。

 これが地球上ならば数Kmという構造体はそれこそ「リヴァイアサン」「ベヒモス」といった名付きの悪魔ぐらいだ。

 しかし、宇宙空間では違う。


 宇宙空間では根本的にスケールが異なる。

 例えば地球と月までの距離はおおよそ38万Km、これに対して地球の赤道一周距離がおおよそ4万km。地球ならば赤道の間に幾つもの大地が存在し、最悪でも海への着水は可能だ。だが、宇宙空間には通常そこには何もない。中継ステーションの建設は幾度となく構想されてはいるが、ステーションを構築した瞬間からそこは悪魔の襲撃を警戒せねばならない場所となり、一定の戦力を置かねばならない。中継の役割を果たすには小規模なものでは意味がない。最低でも地球―月の往還を可能とするシャトル十隻規模の修理や補給を可能とするレベルでなくては、まさか毎回毎回補給を行ったのと同数規模の補給部隊を送り込む訳にもいかない。

 必然的に求められるステーションの規模は巨大化し、結果として求められる駐留部隊の規模も巨大化する訳だ。そして、それを維持する余裕は今の宇宙軍にはない。

 だからこそ必然的に一定規模のシャトルが必要となり、しかし巨大すぎるシャトルは必然的に地上からの打ち上げが困難となり、かといって軌道エレベーターなんてものを建設しようにも理論上は可能でもあれは破壊される危険性が高い。何しろ地上と衛星軌道上を結ぶのは頑丈なシャフトではなく、カーボンナノチューブを用いたケーブルなのだ。無論、悪い事ばかりではなく質量的に小さい為に大きな被害をもたらす可能性は低いとされてはいるものの、その構造上脆弱なのは否定出来ず、一発の流れ弾で崩壊しかねない。

 結果として、効率が悪いのは承知の上で、現在はマスドライバーと化学ロケットを用いた打ち上げが行われている訳だが……。

 いずれにせよ現在、人類が運用している軍艦は、宇宙戦艦や大型輸送船に分類される宇宙船、宇宙空間での運用のみを前提としている艦船でも500m程度。余り小型に過ぎると今度は地球圏から木星圏への航海に耐えられなくなる。将来的には1Km程度の惑星間宇宙船も考えられているようだが、そのサイズのドックの建設がというよりこちらもまた当然なのだが、そんな大型船を動かすにはやっぱり人手が足りない。極力省力化して対応してはいるが、地球上で戦艦と呼ばれていた艦種の乗組員は第二次世界大戦末期のそれで言えば最低でも1500名を超え、戦艦によっては2000名を超えた。

 空母に至ってはこれより更に巨大で第二次大戦後に建造されたアメリカの空母に至っては最大で5000名を超える乗員数を誇った。尚、現在は大分減少しているがそれでも3000名を超える。

 当然ながら、それを更に上回る巨体の軍艦を運用するにはそれなりの人員が必要になる。

 航海部、機関部、食事に医療、整備……【オーガニック】の整備に人が不要だとしても、人類が建造した艦船の維持には整備が不可欠なのだ。戦闘に突入する以上ダメージコントロールも必須であり、全自動化するという事は艦の破損による断線が起きればそれでコントロールが不能になる危険性が発生する。損傷が大きなものとなれば幾ら分厚い装甲に覆っていても回路が途切れる危険は避けられず、それを防ぐには最後は人の手がどうしたって必要なのだ。

 輸送船なら超大型タンカーでも20から30名程度で済ませる例もありだが、軍艦はそうはいかないのだ。

 だが……。


 悪魔は違う。


 悪魔達はいずれもが自律稼動型の艦船規模であり、生体型のみならず機械型であっても自己修復機能を持つ。おまけに搭載されているある種の生体型か機械式かはさておき自律思考型のコンピュータが艦の全てを束ねる形で航行に必要な要員を持たず、食事も不要。

 唯一、艦内に侵入された際に出現する整備と艦内防衛戦闘を併用して行うと思われる小型種系の悪魔のみをその体内に抱えている。

 そもそもの前提として恒星間航行を可能としたその体格は全長でおおよそ3km。これでもまだ小型な部類に属し、太陽系外艦隊との戦闘では最大で月などの大型衛星サイズの存在が確認されている他、惑星サイズ、最悪の場合恒星サイズの悪魔すら想定されている。まあ、逆に言えばそんな巨大な相手と真っ向砲撃戦を可能とする太陽系外艦隊がどれだけ現在の地球表面に生きる人類の想像を超えた世界にいるか、という証明でもあり、またそんな相手を知っているからこそ人類同士の騒乱や地球上での権力争いに宇宙軍が興味を持てない理由でもある。そりゃあ、下手をしなくても本気で介入すれば地球の一つや二つ、人類の生存圏である地表面を焼き払う事ぐらい容易い相手がいるのに、それらが何時まで猶予を与えてくれるのか分からないというのに争っている気には到底なれまい。

 そして、遂に彼らが恐れていた事。

 これまで恒星間戦闘のみに出現してきた超大型の悪魔がその姿を見せたのだった。

 

 「でかい……!!」


 通信回線に誰かの声が、いや自分の声かもしれないが声が響いた。だが、それを咎める声は聞こえない。誰もが映像ではともかく初めて見る実物に圧倒されていた。

 幸い、一体のみだ。

 しかも機械型で、あちらこちらに損傷の修理痕が見られる辺り旧式なのは間違いなく、恒星間悪魔としては小型なのも間違いない。

 しかし……それでも人類の如何なる建造物より巨大なそれは人類の目を圧倒する。

 最も、総司令部からすれば別の意味合いで苦々しい思いを抱えてもいた。

 機械型の悪魔は生体型のそれと異なり多数のパーツを残す。

 復元にさえ成功すれば機械型の悪魔は多数の有効なパーツを残すのだ。人類の科学技術の発展にそれが極めて大きな役割を果たしてきた事は間違いない。地球上の国家には秘匿されている事実だが、太陽系外艦隊との交戦で得られた機械型悪魔のパーツから対悪魔戦闘用に使用可能な人類開発の兵装も着々と設計・製造が進められているのだ。

 ましてや、恒星間航行型の悪魔のパーツがこれ程地球近傍で得られる、という話は非常に美味しい話だ。

 ここで奴を破壊する事が出来れば月面基地にその大半を運び込む事が出来る。解析は大幅に進み、おそらくは一年以内に人類による悪魔に打撃を与える事が可能な兵器の製造が可能となる可能性すら見える。

 が、ここでその出現というのは正に倒せるかどうかのギリギリの、けれども倒せれば更に有効な人類の発展が見込める物資を与えようというある種の報酬の意図が見えて、事情を理解出来る者には腹が立つ。

 だが、と彼らもそれを頭を一つ振ってそれを拭い去る。

 それは全ては相手を倒せての話だ。

 逆にここで倒す事に失敗すれば、一気に地球そのものが窮地に陥る。だからこそ、彼らは全力での攻撃を命じる。

 幸いある種のイベント戦闘によるボス戦の如く通常ならばその周囲に飛んでいるはずの小型船、それでも100mを越えるが……それらはいない。単艦だ。

 

 『おーし、ガキ共。今回はあんまし余裕ねえからお前らも動いてもらう事になる。いいな?』


 通信から教官の声が聞こえる。

 この声はゴットフリート大佐。教官達のボスとでも言うべき人物であり、本来は太陽系防衛艦隊総司令部で一個航空団を預かり、太陽系外戦闘も体験したという実力も経験もたっぷり持っている人物だ。

 本当に余裕がないんだろうか?そんな風にも思ってしまう。或いは倒せるけれど、自分達を育てる為に敢えて任せる気なのか……おそらく後者だろうと思う。

 この人物の人外っぷりは幾度となく見せ付けられてきた。

 そんな人物に本来なら部隊を率いているような教官達が複数いるのだ。果たしてそれなのにたった一隻の旧式超大型悪魔が落とせないという事があるのだろうか?いや……。


 落とすのだ、自分達が。


 そう決意して眼前の敵を睨みすえる。 

 視界を埋め尽くす程に巨大とも思える巨大な姿を……。

 だが、そんな思いは次の大佐の言葉で一瞬にして吹っ飛ぶ事になった。


 『よーし、それじゃまずはお前らだけでやってみろ。艦隊も手出し無用だぞ。隊長は西坂。お前に任せる』

 「………は?」


 一瞬の沈黙。そして。


 「「「「「「「「「「「「「「ええええええええええッ!?」」」」」」」」」」」」」」


 一期生全員の思わずと言ってもいい驚きの声が宇宙に響き渡った。

 

 

という訳で今回遂に出現しました超大型悪魔というか、恒星間航行を可能とする駆逐艦です、このサイズでも

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