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 宇宙空間を高速で動く物体があった。

 デブリが多数漂う空間を動く機影が二つ。前を行く片方はその挙動に僅かなカクカクとした動きが見られ、追う片方は……。


 『何をやっておるか!!まだ動きが硬いわ!!』

 「くッ!」


 後者より怒鳴り声が響く。


 『動きの無駄をなくせ!動きを滑らかに、とまるな!!初めて見る人間ならばともかく、同じ動きが可能な「悪魔」にはその僅かな角張った動きが致命傷となりかねんのだぞ!』


 追われる側は西坂、追う者は教官。

 激しいチェイスは僅かにまだ動きに堅さの残る西坂と教官の距離が縮まってゆく。

 そうして遂に……。

 

 「くそっ!!」


 射程内に捕らえられた。

 教官の右腕に持つペイントガンが撃たれる。

 下手な回避は周囲のデブリにぶつかりかねず、微細な回避を繰り返して回避してゆく。それでも弾一発分に必要な回避より大きくなるそこを追い詰めるような狙いを容赦なく教官は放ってくる。

 事実、この三年弱は西坂に宇宙軍の精強っぷりを実感させるには十分すぎた。


 最初の頃、学生達はいずれもそれなりに自信を持った人材達だった。幸いなのは彼らが気に入らない相手がいたとしても、それなりに抑えて行動出来る、少なくとも他の者を巻き込んで一人二人を迫害するようなそんな人間ではなかったという事だろう。勿論、彼らとてまだまだ子供の年齢であった為に喧嘩は起きたし、生徒の中にもお互いに嫌っていて挨拶はするけど会話は極力しない、という関係の者だっている。

 だが、それだけだ。

 必要なら嫌っている相手にも必要事項はきちんと伝える。少なくともわざと知らせず困っているのを嗤うなどといった陰険な真似はしない。

 彼らの嫌っている者同士の因縁は模擬戦や試験での成績で「あいつにだけは負けん!!」といった形で発散されており、喧嘩に至った時とて一対一で深刻な怪我にはならないよう中立的な立場の人間に立会いになってもらうといった事までしている。

 もちろん、これらは出身国のお偉いさん達が厳選に厳選を重ねた結果だ。

 加えて、生徒にも散々に教え込んだ。ここでもし、事実上の宇宙訓練校において一期生となるべき人材が宇宙軍に採用されずに帰国、といった事態に陥ったらそれこそ国として恥を晒す事になる。

 各国にしてみれば、注意に注意を重ねてもまだ足りない。……某国?それはもう、最初の段階であの国に送る資格なし、と最初から無視されていた。


 一方の宇宙軍においても今回の件は宇宙軍のこれからを担う話だった。

 一期生は各国選りすぐりの人間を送り込んでくる。それこそ、成績面でも性格面でも、だ。

 そんな人材を用いての今後の教育体制の構築を行うのだ。下手な教官を送り込んで問題が発生しようものなら、今後の教育体制自体に問題が生じる事は確定だった。何しろ、最高の学生達を使って変な結果が出ようものなら、それこそ各国からの干渉が強まる事は避けられない。そして、「宇宙軍に教育を行う資格がない」という苦情に同意する意見は今度はこれまでの友好国からも噴きあがってくるだろう。それに、微妙な結果が出るという事は今後の宇宙軍を担う人材を自らの手で育成していく事で、これまでのスカウトの難易度が劇的に下がるかも、という宇宙軍内部の期待への裏切りにもなりかねない。更に更に、ここで下手を打てば教科書すらまともな物が仕上がってこない危険性すらある。

 結果として、宇宙軍も最高の教官陣を揃えた。

 揃えた上で総司令官らが立ち会う場で直々に今回の話の重要性を説明し、彼らにも全力で取り組んでもらったのだ。

 

 結果として、教官と生徒達双方が全力で教育と実験と教育体制の確立に走った結果として、一期生の生徒達の教導はとんでもないものになった。

 それこそ各部門のウルトラエース級が全力で教え、それを戦績は劣っても人の教育や何やかやでは優れた人材が緩衝材として間に入り、生徒達も名前をよく知るエース達の教導に奮い立った。いや、もうそれこそ空戦ではハルトマンやバルクホルン、坂井三郎なんかを動員し、地上攻撃にはルーデル大佐を動員してるようなものだ。贅沢というにも程がある。もちろん、この一期生の後はここまで豪華な人材を動員したりはさすがにしない訳だが。

 エース達を動員するにあたって、総司令部も餌として「これは、と思う人材がいたら一人までなら部下に引き抜くのを認める」としており、余計に厳しくなったりしてるのはご愛嬌だ。

 尚、西坂も教官の一人から誘われ実質的に内定しているが、当人は「同じ日本人だからじゃね?」とは思っている。まあ、当たらずとも遠からずというか、そう大きな差がない者がいればその中でも母国の言語が使える母国の人間を選ぶぐらいはそう珍しい話ではない。

 まあ、最高の腕を持つ現場の人間に、選べる限りでは最高クラスと判断された教官らの元に引けない立場の人間が送り込まれたのだ。おまけに少数精鋭に三年弱みっちりと。これで腕が上がらない方がどうかしているというか、これで腕が上がらなかったら諦めた方がいい。

 なので、今の西坂は当人は意識してなかったが(教官達が凄すぎて)、文句なしに現役兵士の中でさえ精鋭に分類されるような腕を身につけていた。

 今も、濃密なデブリの中を殆ど直感ですり抜けながらペイントガンをかわしてゆく。この時に万が一デブリに当たろうものなら、後で鉄拳が飛んでくる事確定なので注意しなければならない。

 

 (ってか、教官隙なさすぎ!!)


 極力滑らかな動きを心がけても、それをあっさりと上回った動きを教官連はしてくる。

 この点に関しては学生達は全員似たり寄ったりで、教官らを相手にする時は「何分生き残れるか」が勝負の種になり続けてきた。

 まあ、教官らにしてみれば、「ガキ相手にあっさり上回られたら俺らの立場がない」という事になる訳だが。

 

 「っとしまった!」


 遂に避けそこなったペイントガンの弾が当たってしまった。

 まるで避ける先を先読みしているように弾が飛んできて、よけれなかったのだ。もっとも教官達にしてみれば「最後は避けれないように撃った」というのが正しい訳だが。弾というものは相手も動く以上その動きを先読みして、避ける先に弾を置く感覚で撃たねば当たらない。相手だって自分から当たりに行こうとしてくれてる訳じゃないのだ。

 ましてや、ここはデブリ地帯。

 避ける先は限定され、当然避ける位置も自然と予測がつく。つけやすい位置でやれば余計に簡単な事になる。

 とはいえ、最初から潰しては自信育成にならない。

 そこら辺の線引きが難しい所であり、苦心する所でもあった。


 『よし、お前は撃墜された!ただし、予定時間三分はきちんと達成したな。後できちんとレポートを提出するように!では次!!』


 ハードな教育は今日も続く……。

 だが。

 彼らの実戦はもうすぐそこまで迫っていた事を生徒達はまだ誰も知らなかった。


 


エースに関しては「あれ?ドイツ軍の比率が高すぎない?」と思われるかもしれませんが、まあ知名度の差と思って頂ければ……

アメリカなんかは人材豊富な為にエースになったら後方に下げる余裕があった為に何十機も落とした、って人いませんからね。まあ、エース級でも酷使しないといけないってのは不利な国じゃないとなかなか出てこない訳ですが

尚、多分知名度高い人達なんですがご存じない方の為に一応


【ハルトマン】:エーリッヒ・ハルトマン。通称黒い悪魔。352機という人類の歴史上最大の、そしてこれからも抜かれる事がないであろう撃墜数を誇る

【バルクホルン】:ゲルハルト・バルクホルン。総撃墜数は301機。人類の戦史上においてわずかに二人しか存在しない300機超えの撃墜数を誇る

【坂井三郎】:いわずと知れた日本のエース。「大空のサムライ」という有名な著書を持つ

【ルーデル大佐】:ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。通称スツーカ大佐など多数。撃墜数は9機だがこの人はあくまで爆撃機乗りであり、史上最大の戦車他の撃破数を誇る。スターリンに名指しで「人民最大の敵」呼ばわりされて莫大な賞金を賭けられた人物でもある。あんまりにも笑うしかないような逸話を多数持っており、公式記録を厳密に調査して推定される本当の撃破数が二割方増えるのはこの人ぐらいではなかろうか(普通減る)

 

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