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物語中の現在の状況

……地味だ

 唐突だが、尾行というのは存外手間のかかる作業だ。

 例えば、完璧な尾行を行うにはどれぐらいの人員が必要だと思うだろうか?

 歩いて追跡する人員、自転車や車に乗った時に対応出来るようそれぞれに別個に乗っている人員が必要だし、当然途中で尾行しているとばれないよう交代する者だって必要だ。それらを統括する者や場合によっては盗聴などを行う人員も必要で、そう考えるなら一人の尾行にだって十人やそこらは最低でも必要になると分かるだろう。

 さて、ここまで何を言いたいかと言うと、一口に暗殺の阻止と言われても人員を特定するにはそれなりの手間がかかるという事だ。

 某国が暴挙に出ようとしている。

 その情報は割とすぐに手に入った。というより、密告や他の国からもそれとなく流れてきたりと情報部が「確実な情報」だと断定したのは早かった。

 しかし、厄介なのはそこからだった。というのも如何に潜在的な敵国と言っても入国するだけなら何とでもなるという事だ。何しろ、幾ら国家の仲がはなはだよろしくないとはいえ、一応は、本当に一応は同盟国という事になっている。正規の手続きで入ってくる限りは、そしてそれが「ペルソナ・ノン・グラータ」、好ましからざる人物として入国拒否でもない限りは普通は受け入れとなる。かといって、特に犯罪歴やその国にとっての暴言の記録がある訳でもない一応は同盟国の人間を全員片端から拒絶という訳にはいかない。

 かくして、一定数の入国者は必ずあり、その全員を事細かに監視するのは実質上不可能だ。

 何せ、監視対象となるのは某国のみではないので、その全員に必要なだけの人員を貼り付けたら予算と人が幾らいても足りない。

 しかし、今回は急を要する案件。

 直接的な暴力に出ようとする以上は、これをきっちりと防がねばならない。だからこそ、特に人員が配置されていた。


 「ったく、余計な仕事増やしやがって……」

 「まあまあ」


 警察の私服刑事がぼやき、それを苦笑して同僚が宥めている。

 警察にしてみれば、前回は情報をわざわざ流してもらったのに一部を取り逃がし、その結果として憲兵隊が出動という事になった。

 詳細は明かされていないし、完璧を求めるのは無駄だと下は理解しているのだが、上の一部はとにかく面子に拘る。別に軍からも憲兵隊からも苦情を出した訳ではなく、「これこれこういう事があったのでこちらで解決した。相手はこれこれこういう連中だった」という連絡をしただけなのだがそれを問題視する輩は何時の時代、何処にでもいる。 

 なので、今回動員された警察の数はそれなりの数であったりする。

 さすがに当初は制服警官を大量動員しようとして、軍情報部の方から苦情が来た為に私服刑事を動員したようだが。 


 「しっかし、奴さん達が狙うにしても軍学校の生徒だろう?」

 「そうなってますね」

 「軍学校っていや敷地は広い。普通の銃器じゃ無理じゃねえか?」


 軍の基地を考えてもらえれば広いのは理解出来るだろう。

 普通の学校ではなく、訓練で【オーガニック】を動かし、分野によっては車両ぐらいは実際に動かしたりするのだから広くて当たり前だ。

 更に、その敷地に無断で入り込めば当然不審人物として追われる事になり、壁にはセンサーやカメラが設置されている。かといって、その更に外から狙撃ライフルを用いて狙うなどどこのゴルゴだというような神業的な狙撃能力が必要になるだろう。はっきり言って論外だ。

 かといって、【オーガニック】を用いて乱入なぞ現役の軍人が多数いる場所なのだから多少腕に自信があっても無茶にも程がある。となれば……。


 「矢張り、爆発物か毒物ですかね?」

 「ま、その可能性が高いわなあ」


 それならば事前に仕込んでおいて、爆発或いは毒が騒ぎを起こした頃には犯人は悠々と国外へ、という事だって出来るだろう。

 そもそも、刑事達にせよ情報部にせよ憲兵隊にせよ今回の一件では狙われているのは一人二人の学生ではなく、軍学校そのものだと認識している。

 別に某国の指導部は一人二人だけを狙って殺せ、他は殺すなという命令を出している訳ではないだろう。多分、単純に目標を殺害出来ればそれで良し、としているはずだ。当然、そこに巻き込まれる人間が多少増えようとも気にしないだろう。証拠さえ握られなければ少なくとも同じ人類からは表立っての非難は難しい事もある。

 

 「……お前はどっちだと見る?」

 「自分は爆発物ですかね?毒物だと無差別に過ぎます。そりゃあ学校内に潜入出来れば話は別でしょうけど」

 「ま、そうだよな」


 目標の近くまでいけるならば話は簡単だ。

 かつてのように長期的なものならば目標が普段使うドアノブなどに毒物を吹き付けて少しずつ弱らせたり、遅効性の毒物を飲食物に混ぜ込んだり、すれ違いに毒を吹き付けたりと方法は色々あるだろう。

 ところが、場所が軍学校な上に、【オーガニック】には一定レベル以上の生命維持機能が備わっている。

 軍学校では外部の人間が内部をうろちょろするのは難しい。外部の業者を装った所で一定の場所以外への侵入は厳禁だ。必要な場所まで入り込むのは難しい。やるなら、教官や職員をたらしこんで殺害させねばならないだろうが、情報を売るぐらいならゼロとは言えないだろうが、そこまでの事をやらかす者はさすがにいないだろう。ゼロ、とは言わない。世の中金や女に目がくらむ者は必ずいると思っていた方がいいからだ。

 しかし、殺害までやれば幾ら金を貰っても軍も面子にかけて犯人探しを行うであろうし、それで死刑にでもなったら割に合わない。そもそもそこそこの情報だからこそ「これぐらいならいいだろう」と言い訳して小遣い稼ぎをやらかしたりする訳で、そこまでの話を持ちかけられたらさすがに断る可能性が高い。下手に脅しても場合によっては司法取引を狙って軍にばらしてしまう可能性だってある。

 しかし、だからといって飲食物に遅効性の強力な毒物を仕込んでも効果を発揮するまでに体内で解毒されて、死なない場合があるのだ。かといって、一口で即死するような毒を仕込んだらさすがに事前にばれる危険性が高いというか、まずばれる。

 つまり、毒物ではリスクの割に成功率が低い訳だ。


 「……爆発物だとして、持ち込んだと思うか?」

 「……さすがに潜水艦なりで潜入ってのはやってないと思うんですけどね。潜水艦が下手に侵入してるのが見つかったらそれこそ国際問題ですし」


 この世界の日本軍は領海内に入り込んだ相手を政治のしがらみでただ追跡するだけで終わらせる程甘くはない。 

 無論、常に特殊な潜行艇などで潜入する可能性はゼロではないが……。

 

 「まあ、そっちは軍にお任せだ。俺らは日本国内で手に入る伝手を潰していくぞ」

 「こっちで素直に足取り分かれば有難いんですけどねえ」

 

 まったくだ。

 年配の刑事は若手の同僚にそう答え、まずはあそこから行くか、と目処をつけて歩き出した。

 裏のブローカーやヤクザ、情報屋などを虱潰しに潰していく。

 何時の時代だって、地味で目立たなくても、そうした地道な作業が消える事もなければ、それが事件を解決する糸口になる事もあるのだから。


「ペルソナ・ノン・グラータ」は外交官だけの適応じゃなく「本来は入国が許可されるべき要人であってもその言動が相手国に問題視された場合には到着地の国際空港から出場することが認められず、帰国を求められる措置をも指す」ものです


という訳で、現在の調査状況

古今東西暗殺の案件には事欠きませんが、ゴルゴ13みたいなやり方の有名な暗殺って余り見ないですよね。まあ、ケネディなんかは長距離狙撃ですがあれだってオープンカーで街中をパレードしてたからこそですし、大抵は鉄砲玉的な現場に乗り込んでの殺害が多いような気がします

でも、場所が場所なのでそれは難しいですからね、ええ

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