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「ふむ、順調だな」


 某国の首脳陣は笑みを浮かべてそう言った。

 無理もないだろう。宇宙軍にはどこの国も何かしらの不満はあったらしく、順調に総会決議案として宇宙軍に新たな命令を下す為の賛同者が集まっているのだ。

 

 「既に半数は超えたか、問題は……」

 「ええ、発言力のある国、ですね?」


 そう、それには複数の意味合いがある。

 如何に利が一致したといえど、小国では単なる数でしかない。必要なのは発言力の強い大国、最低でも中堅以上の国家だ。……無論、彼らは自分達の国が大国の一角だと信じている。

 しかし、同時に発言力の強い大国を引き込むという事はそちらに主導権を握られる危険性が常につきまとうという事でもある。

 一番美味しい所は当然だが、自分が持って行きたい。

 それは、どこの国だって思う事だ。最初に動いたのは自分達であるのに、後から乗ってきて図々しい!という苛立ちをこの国のトップ達は多かれ少なかれ持っている。……もちろん、客観的に見れば、彼らが宇宙軍に後から割り込んで美味しい所を持っていこうと動いている、という現実は丁寧に無視されている訳だが、いずれにせよ折角頑張って動いた以上は自分達が一番良い所を持っていく権利がある。

 誰もがそう思い、その為の工作も怠ってはいない。

 

 「……そういえば、宇宙軍が先だっての損害を補う為にスカウトを派遣しているようだが」

 「そう、それだ」

 「学生にも見込みのありそうな者をスカウトしようとしている、と聞いているが……何故我が国には来ようとしないのだ!!」


 それはもちろん、この国の軍学校が訪れるレベルではないからだ、と宇宙軍のスカウトがいたら断言するだろう。

 最も、それを責めるのは酷だろう。

 軍の学校というのは長年の経験の蓄積でもある。

 無論、敵が悪魔となって色々と試行錯誤をする羽目には陥ったが、アメリカにも日本にもイギリスにもドイツにもフランスにもソ連にも軍人を育成する為の名高い教育機関が存在していたし、今も存在し続けている。

 では、この国はどうだったか?

 ……昔はそんなものはなかった。

 おまけに、日本で軍人教育を受けた人間がその時の知識や経験を元に教育組織を立ち上げようとしたのだが、これもまた潰された。

 ぶっちゃければ、最初はまだ採用されていたのだが、【オーガニック】の出現に伴う日本との対立激化の中で日本的なものを排除する!という動きが広まり……しかし、それは「日本の軍教育機関での経験」を元にした「日本の旧軍の教科書を元にした」教科書や「日本の軍での教育を元に育成された」教官らの排除にまでいたったのはやりすぎだった。

 結果として、十年以上の月日をかけて築き上げた教育体制がその後の数年で崩壊した。

 おまけに、大抵のものは日帝云々で絡んでしまう為に「我が国独自の我が国の知識に基づいた」軍人教育が行われている。行き過ぎると、ろくな事にはならないといういい見本だろう。

 結果として、現場は試行錯誤を行いながら教育をやっている状態だ。こんな状態の学校の生徒を連れて行っても、それまでの教育を一旦全部白紙にして一から教え直すような事になるのは目に見えている。それでもまだ、現場を経験した人間なら戦力としてはまだ使える可能性があるから受け入れていた訳だが……。

 しかし、この場にいる人間達にとっては関係のない話だ。


 「いかんな。それは警告しなければ」

 「口で言っても分からんだろう。やはり実力を示さないと」

 「……宇宙軍にはいずれその報いは受けさせるとして、今は日帝だろう」

 「……そうだな、まだアメリカやイギリスはいいとして、日帝にスカウトに行くなど!日帝も我が国に慮って、断るのが礼儀というものだろう!!」


 念の為に言っておくが、これらは全て彼らの頭の中では完璧な理論のつもりなのだ。

 

 「……少し、思い知らせてやる必要があるだろう」

 

 我が国の意思という奴を。

 宇宙軍の横暴も、日帝の横暴も許さないという断固たる意思を。


~~~


 「……という事になっているようですな」


 別の国の別の場所。

 そこに集まった男達は情報部から上がってきた報告に苦笑せざるをえなかった。

 

 「全く能天気な奴らだ……まあ、いい。既にアメリカや日本に薄々掴んではいるだろうが、こちらの伝手を用いて知らせるように」

 「そうですな。こちらも奴らの同類と神々に看做されるのは御免こうむりたい」

 

 ここにいるのは複数の国の首脳達だ。

 彼らは彼らで全員宇宙軍干渉に関わっている訳だが、いずれも大国からそれに準じるだけの発言力を有し、既に某国の知らぬ所で大勢は決まりつつある。

 そう、取引をする以上、美味しい所全てを自分一人ですすろうなどという真似は許されないのだ。

 ただでさえ、見下されていたのにその行動をもって某国は完全に彼らの振り付けに合わせて踊る哀れなピエロと成り果てていた。

 ……もちろん、彼らとて自分達の手が完璧だとは思っていないが、重要な部分はまず思い通りに推移している。


 「して、それでは宇宙軍への要求は前のように?」

 「ええ、最初から弱腰ではいけませんからね」


 彼らに言わせれば、強欲に過ぎる某国は論外だ。

 交渉の卓にすらつく気をなくさせるような身勝手極まりない要求を出すのは、こちらが一定以上の優位を確保出来ている時に限る。

 それでも周囲からの視線という事を考えれば、やりすぎは良くない。

 とはいえ、そういう案件を出すスケープゴートは常に必要だ。自分達の案が過激すぎる、という印象を薄めてくれる。

 かといって、シベリア共和国などが出した案も論外だ。

 最初から譲歩していては相手はそこから更に譲歩を引き出そうという動きをするに決まっている。

 交渉とは落とし所を探る作業。

 相手に話しても無駄だと思わせて席を立たせるのは三流もいい所、粘り強く席につかせたまま少しでも自らに優位な条件を勝ち取るのが交渉だ。

 その為にはむしろ最初はやや過剰に過ぎるぐらいの要求ぐらいでちょうどいい。

 後はそこから優先順位の高いものをどれだけ生き残らせられるか……その為には優先順位の低いもののみで済ませる事が出来れば最高だが、仮にも相手にはこうした交渉には百戦錬磨のイギリスもついているのだ。並大抵の苦労では勝ち取れまい。 

 だが……。

 それこそが交渉という名の戦争でもあるのだ。


という訳で、主人公の周囲に怪しい影が……

まあ、既に正体も何もかも暴かれまくった影じゃありますが


状況の裏、でした

ええ、百戦錬磨の二枚舌どころか何十枚の舌持ってるか分かんないような経験を持つ欧州の面々を相手に裏交渉なんて……

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