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 「ふざけるな!!」


 太陽系木星の衛星軌道上にある太陽系最大の衛星ガニメデ。

 そこに太陽系駐留艦隊の本拠地がある。

 正確には駐留艦隊を構成する家族の暮らす居住地や艦船の生産施設などを含めた巨大都市というべきか。

 こうした都市クラスの基地は他にも幾つか存在している。

 今しがた怒声を上げたのは駐留艦隊の司令官であり、宇宙軍の最高責任者を務めるアメリカ出身のバーナード・ウォルター大将だった。

 彼が怒鳴り声を上げた際の被害者となったのは彼の副官であったが、平然とした様子を崩さなかった。というか、事前に既にどういう内容か知っていた為に彼が怒鳴るであろう事は理解していたし、自分に対して怒鳴っている訳でもないと理解出来ていたからだ。

 それでも、まだ彼との付き合いが短い人間なら怯えていたかもしれないが、生憎ウォルター大将とは自分が子供の頃からの長い付き合いでもある彼女としては別に怖いとは感じなかった。

 ……念の為に言っておくと、彼女は父親がウォルター大将と高校・大学とクラブも一緒だった親友だった為に幼少時より彼の事を知ってはいたが、今の立場に関してはそんな事を知らなかった人事部が文官としても成績優秀だった彼女をウォルター大将の副官に配属させただけの偶然である。


 「……すまん、つい怒鳴ってしまったな」

 「いえ、お気持ちは分かりますから」


 現在、地球では某国が活発な動きをしており、それに合わせて世界各国も活発に動いている。

 宇宙軍は幾つかの国が大きな割合を占めている反面、別の国は殆どいない、といった具合だ。

 無論、そうなった理由は初期の一番大変だった時期に人を派遣しなかった、する余裕がなかった、神々の罰を喰らったといった類のものであり、苦労して宇宙軍を今の状況にまで持ってきたのは紛れもなく初期に人を派遣して、例えそれが神々の掌の上であろうとも悪魔達と宇宙という未体験の場で戦って、神々の用意していた場所を得る資格を勝ち取り、発展させてきたのは彼であり、彼と共に戦ってきた仲間達であり、部下達である。

 当然、その結果として初期に協力してくれた国に若干優先的に資源を降ろすのも、一番大変だった時に手伝ってくれた事を考えれば当然の話だ。

 【オーガニック】の存在故に確かに生身で宇宙服を着込んで作業するよりは楽だったのだろう、それは否定しない。

 だが、だからといって宇宙という過酷な場で全てが楽だったとは言わせない。断じて、だ。それなのに……。

 改めて、思わず握り締めて皺くちゃになった書類を伸ばして読み直そうとして、すっと差し出された同じ書類に思わず苦笑する。さすがに長い付き合いだけあって、完璧に自分の行動を読まれていたようだ。

 ありがたく副官が差し出してくれた報告書を受け取り、それと共に彼女に一旦下がるように伝える。

 一礼して退室した彼女を見送ってから、改めて報告書を渋面のまま読み返して、対策を考えるウォルター大将であった。


 一定の割合で自分達の兵士を入れろ。

 そんな要求は本来馬鹿げている。

 だが、今回の話がややこしいのは宇宙軍が形としては国連の直属組織という立場にある事だ。だから、国連を通じての命令であれば、それは正式な命令という事になる。 

 安保理は何とかなる。

 現在の安保理のかつての常任理事国の内、アメリカ・イギリス・フランス・中国そしてソ連。この内最後の二つは絶賛分裂中。特に中国はやっと国民党を追い出したと思ったら内ゲバを開始してしまった為に一時的に拒否権を凍結させられてしまっている。無論、共産中国としては不満だったが、下手に北に握られては堪らないと本来それを持っていたはずの国民党に南中国が一致協力してそれを認めさせた。次に凍結が解除されるのはいずれかの勢力が再統一を成し遂げた時だ。

 ソ連は未だ拒否権だけは維持しているが、宇宙軍に比較的大きな割合を持つアメリカとイギリス双方が今回の決議に賛成するとは思えない。

 まず間違いなく、安保理では否定されるだろう。

 問題は全体としての総会だ。

 そもそも一部の国を除いて、殆どの国は何とか宇宙軍に自分達も一定の発言権を持ちたいと考えての行動だ。

 ここでややこしいのは比較的仲が良い国同士でも宇宙軍の事に関しては敵対国と似たり寄ったり……言い方を変えると利という面では違うケースが多々ある、という事だ。

 例えば、シベリア共和国は比較的日本と仲が良く、ソ連とは不倶戴天の敵同士だが、宇宙軍に関してはソ連と一部協力する事が出来る反面、宇宙軍に少なからぬ人材を派遣している日本とは意見が合わない面がどうしてもある。

 欧州だってこの点に関しては同様だ。

 イギリスからすれば自国が苦しい時に意地を張った成果が今、実を実らせているに過ぎない。

 だが、フランスやドイツからすれば今が輝いて見えるだけに、かつての苦労を見ない。知らないではなく、見ようとせず、今果実を食っているように思えるイギリスに不満を持つ。

 それ故にソ連や他の不満を持つ国と連携する。

 報告書からは、少なからぬ数の国が宇宙軍への干渉を正式に国連を通じて命令として下そうと動いている事がありありと見えた。

 その内容が最初に動いた某国の予定通りのものになるかは甚だ怪しいが。

 何せ、最初は「宇宙軍に自分達の兵士を一定の割合で入れろ、あ、最初は不慣れだからきっちり守ってね。守れなかったら責任問うからな。それと、お前らが開発した分、あれ地球が出してやった金で開発したものだろ?一部我が国に寄越せ(世界にではなく自分の国に、なのがミソ)」という恥知らず極まれリという内容だったのだ。無論、実際に書かれている条件自体はもっとまともに見た目だけは見える内容だったが、要約すればそんなものだ。

 次に腹が立つのがソ連などが中心になって動いている内容。「第二宇宙軍とでも言うべきものを作ろう!もちろん、そっちは自分達が中心で。あ、今の宇宙軍には教導とか資源とかで初期は無償で支援してね?」といったもの。こちらとて、第二宇宙軍の内容次第だが、もし、宇宙軍が流している神々の罰というものを甘く見ていたら、そしてソ連のやり方を宇宙にも持ってきたら……どうなるかなど想像するのは容易い。そして、宇宙軍に比べて壊滅的な損害をこうむった結果として宇宙軍に噛み付いて来る可能性は重々ある。

 それに、新規に彼らが駐留する為の基地建設とか全てノウハウを持っているのは宇宙軍なのだから、そこらへんの建設もこの案が通れば当たり前のように要求してくるだろう。無論、代金こちら持ちで。

 最後はまだ真っ当というか穏当だ。

 ここら辺は付き合いのある相手との兼ね合いを考えてのものだろう。

 つまり、自分達の所の人間も宇宙軍にもう少し入れてくれ、というものだ。もちろん、訓練条件とかはこれまで通りで構わないし、戦死しても文句は言わない。ただ、結果として彼らが一定の役割を果たせるようになったらうちにももう少し便宜図って欲しいんだけど、というものだ。


 「……最後はまだ飲める。手間はかかるが……」


 宇宙では空気すら自力で作り出さねばならない。住む場所だって適当に家を作って「はい、どうぞ」とはいかない。

 急に人が増えるとなればその分の居住コロニーなどの建設が大変だし、それを訓練するのも、或いは騒動を起こす馬鹿は絶対混じるだろうし、人数が増えればその数も比例して増えるのは確実だ。

 最悪対処が間に合わない危険すらあるが、それでもまだ「マシ」と言わざるをえないのが現状の苛立たしさを増幅している。

 神罰を受ける人間が増加した結果、悪魔艦隊がこれまでにない規模で押し寄せてきたらどうなるだろうか?……ろくな事にならない結果だけなら幾らでも想像がつく。したがって、最後の案も出来れば認めたくない。

 一番宇宙軍にとって理想的なのはこれまで通り少しずつ数を増やしていく事な訳だが……おそらく、各国の審査体制が整うまで待ってはくれまい。今の宇宙軍に中心になって派遣している国だって審査体制を作るにはずいぶんな時間と手間と金がかかっているのだ。まあ、個人レベルでやって来ている所はまた別だが。

 

 「……こちらも動かねばならんな」

 

 最終計画案はあるにはある。

 だが……。

 今はまだ早いかもしれない。それでもその発動も考慮に入れて動かなければならないかもしれない……。


 「……立場が上がれば、責任も増える、か……全く政治の事なんか放っておければどれだけ楽か」


 そう呟いて、ウォルター大将は副官に招集を伝えるよう命令を下したのだった。

 


   

動いてる国だって内実はばらばらです

でも、一部協力出来る部分があるから、そこでは協力する……結果的に総会で決議を出せば、某国の思惑通りではないけれど宇宙軍に干渉してくる内容が出そう……

世の中、感情だけでなく共通の利でも人は動きますからねー

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