幕間:宇宙
緊急警報が艦内に鳴り響く。
「各艦武装配置急げ!!」
艦艇はいずれも人類製だ。
宇宙艦艇の内、【オーガニック】を用いた船は貴重な為にいずれも外宇宙航行に回されている。太陽系内に回す余裕は、まだ人にはない。
しかし、それでも十分過ぎる発展を遂げていると言えるだろう、本来の歴史を知るならば……。
艦艇は早期警戒網にかかった悪魔達の襲来前に陣形を整えてゆく。
重装甲な艦艇が前へと出ると同時に、輸送艦を思わせる艦艇は後方へと下がる。最も、輸送艦に見えても実際にはかつての空母に相当する艦船だ。【オーガニック】の内、宙間戦闘をこなせる者が乗り込み、出撃する。整備空間などが連絡用シャトルなどを除き必要ない為に人の為の居住空間を広く取り、長距離航行に耐える艦となっている。
一方、前進した装甲艦からも幾機かの【オーガニック】が発進するが、明らかに動きは鈍い。
当然だ、これらの【オーガニック】は空母における戦闘機を担う存在ではなく……。
「武装接続開始せよ!」
艦長の指示の元、出撃した【オーガニック】の形状が砲を思わせる、正確には砲身そのものというべき形状へと変わる。
ゆっくりと装甲艦がカバーを開いた部分に納まり、カバーが閉じる事によって前衛艦はそれまでの装甲した艦から戦艦へと姿を変える。
無論、人の手で構築された機械に【オーガニック】と有機的な結合が可能な訳がない。これは【オーガニック】が必要な変形を行っているのではなく、船の方が【オーガニック】の変形する砲に合わせて造られているのだ。
「ふん……まだ武器は【オーガニック】に頼らんといかんからな……」
そんな光景をやや不機嫌そうに見ながら、そう呟き、艦長は艦後方へと視線を向ける。
動力炉の方だ。
そこには核融合炉がある。人類の開発した核融合炉だ。まだ【オーガニック】が変形する【常温核融合炉】、更にその先の炉などには遠く及ばないが、それでも人類が手引いてもらいながら、自らの手で作り上げたエネルギー炉だ。……悪魔が出現して20年でここまで来た。
そう思いながら、周囲を見回す。
……かつては人類の宇宙への進出など端緒についたばかりだった。
悪魔の襲来は1960年。人類が初の人工衛星であるソ連のスプートニク一号の打ち上げに成功したのが1957年。
これに対抗するべくアメリカがNASAを設立し、衛星打ち上げを行ったのが1958年。本来ならば翌年にはアポロ計画が、人類を月面に送り込むという計画がスタートするはずだたらしい。
……それがどうだ。
悪魔の出現、反攻作戦という名の宇宙への進出。
宇宙にあった拠点と思われる場所は至れり尽くせりの新たな人類の拠点となりうる月面施設。一時は米ソによる睨み合いに発展仕掛けたようだが、どうにも宇宙で対立しかけると即座に悪魔が襲撃してきた、らしい。噂ではそれぞれの破壊工作なんかの任務を与えられたCIAやKGBの要員に至っては無事基地まで辿り着ける人間が一人もいなかったともいうし、逆にこっそり一部を盗んで持ち帰ろうとしても地球まで辿り着けなかったともいう。
いや、初期を知る者はこぞってこう語る。
当時は神々は宇宙に上がった者を選定していた、と。
事実、対立を煽る者、宇宙で共に頑張る者を陥れてでも母国に利益をもたらそうとする者、暴力で権力を奪おうと企んだ者、宇宙の独立を企んだ者、果ては人種差別を明白に行う者までそうした人間は皆死んだ。
彼らの通信は地球へと届かず、群がるように悪魔が彼らに集中し、全て食い尽くされた。
馬鹿を何度やって、そうして遂に人だけじゃなく国レベルで諦めた。宇宙に上がったからには地上の揉め事を持ち込む事は一切許されないのだと。少なくとも、それを表に出さず、行動に移さないだけの精神力が必要なのだと。
逆に言えば、それが出来ない、すぐ暴発してしまうような国の人間は未だ宇宙には出てこない。出て来れないでいる。
ある国の人間などは何度言い聞かされても、すぐに対立国の人間を悪し様に罵り、影で工作しようとする。無論、誰も付き合わない。誰だって巻き込まれたくない。一方、対立国の連中はさすがに顔を歪める事はあってもぐっとそれを我慢して黙っている。
結果として、前者は敬遠され、後者はこれなら大丈夫と自然と関係が構築される。それを見て、更に前者は火病って結果、すぐに悪魔に群がられて死ぬ。
あんまりに死ぬ者だから、前者の国からは後者の国の陰謀だ!調査しろ!いや、悪魔自体が後者の国の秘密兵器で、人類の敵だ!と喚いているらしいが、無論、宇宙では誰も相手にしない。
先だっても「優秀な人材」が今度こそとばかりに送られてきたらしい。
問題は技量優秀なだけでなく、「思想的」にも優秀だという事か。お陰で、早々に「こいつも駄目か」と見切りをつけられて今は確か友人の一人が艦長をやっている空母「アブソリュート」(名前で推測出来るかもしれないがイギリス製だ)に艦載機乗りとしているはずだが……幾ら悪魔が艦まで集中して狙う訳じゃないと知っていても気持ちのいい思いはしていないだろう。まあ、ああいう奴が来た時は順番に空母の連中が担当しているので順番が回ってきただけ、とも言える訳だが。
……別段、特別な事を要求している訳ではないのだ。誰だって嫌いな奴、どうしても虫が好かない奴、気に食わない奴というものはいる。そんな時にそういう人間にまで愛想良くしろと言っている訳ではない。仲の良い奴に愚痴る事だって仕方ない。けれども、最低限の礼儀ぐらいは守れというのだ。
……やめておこう、これ以上考えると余計な方向にどんどん進んでいってしまいそうだ。それに……。
「艦長!敵艦隊確認しました!」
「よろしい、こちらの砲撃準備は?」
……ツギハギだ。
この艦はまだまだツギハギの艦だ。砲だけではなく、センサーは別の【オーガニック】が変形して担当しているし、結果としてそれらを結ぶ事で一隻の戦艦として運用するにも訓練が必要、場合によっては配属されて間もなく戦闘になった為にまともな戦い方が出来ないまま沈んだ船だっている。
けれど、最初は全てが【オーガニック】だった。
こうして艦橋なんて設けられていなかったし、船体だって、炉だって、エンジンだって、重力発生装置だって、医療その他全てが【オーガニック】だった。
今では砲とセンサーだけ。ここまで来た。
「砲撃準備よし!」
「射程まであと4宇宙キロ!」
「うん、まだ撃つなよ」
整然たる人類側の艦隊行動。
雑然と向かってくるのがスクリーンに映し出される悪魔艦隊。
……神々はこうして【オーガニック】を用いずに戦いに望む俺達にまで撃破に成功すれば艦自体にポイントを与えてくれる。地球の撃破した当人にしか与えられないような戦いとはそこが違う。そう、地上ではバラバラに戦っていても許すが、宇宙では人としてそれを許さない、そう言いたげなやり方が細かい所で目立つ。神々からの神罰という名の修正の結果とはいえ、国の欲望は抑えられ、宇宙に上がった人間は国という認識を薄れさせなければ生きていけない。生かさせてもらえない。
……子供なんだろう、奴らにとってはまだ人類というのは。そこまで強制しなければ内で互いに争い、滅びてしまうような。
否定はしない。
あの小さく青い世界でさえ、何千年と互いに争い続けてきたのが人類だ。
それでも――何時かは赤ん坊とて立ち上がり、歩き出す。何時までも人がこのままでいると思うなよ――或いはこれもまた神々とやらの思惑通りなのかもしれないが、それでも思う。人類をなめるなよ、神々ども。
旗艦より連絡が入る。
「砲撃用意――」
だが、今は忘れよう。
今は、ただ生き残る為に眼前の敵に集中しよう。
「――撃て!!」
そして、戦いが終わったら、また進もう。
今日より明日は更に一歩先へ。
ちら、と宇宙艦隊光景
外宇宙輸送艦隊って言ってもまだ僅か三隻wまだまだ名前負けですね
太陽系駐留艦隊なんて言ってますが、駐留というか艦隊を設置できてるのは太陽系だけ……でも、それでも進んで行ってる人類です。次第に地球とは乖離しつつあるのが実情ですが




