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「……それで連合赤軍って一体何でこんな事を?」
見張りと一緒だとどうにも気がめいる。
装備一式取り上げられて、小屋の一室に押し込められた西坂は見張りに話しかけた。【オーガニック】というものがあるせいで、見張りなしで部屋に閉じ込めても意味がない為にこうなっている訳だが、銃を持った相手にずっと監視されているのは落ち着かないという程度のものじゃない。
多少なりとも気が紛れればと思い、話しかけた訳だが、向こうとしてもさすがに子供は想定外だった事もあったのだろう。或いは、こういう事をやらかしてる人間だからこそ同意が欲しかったのか。案外、すんなり且つ熱心に語ってくれた。
連合赤軍。
史実ではあさま山荘事件など凶悪事件を引き起こした集団だが、この世界でも少なからぬ事件を起こしていた。彼らの行動は非合法だ。正確には非合法にならざるをえなかったとも言う。
この世界においてもスターリンが存在し、共産主義は一時大きな勢力を誇ったのは確かだ。
だが、神々の出現と悪魔の襲来が全てを変えた。
肝心の共産主義の本山であったソ連は分裂し、現在では旧ロシア共和国の三分の二程度を抑えるだけだ(残りはシベリア共和国)。おまけに、優秀な将官らを大祖国戦争終結後、再び多数消してしまったものだから、彼らが追放された先で成立したシベリア共和国の軍に比べるとどうも数はともかく質の面で劣るのは否めない。優秀だからと怖れたからこそ殺害したり、シベリア送りにした訳で当然彼らはソ連に対しては恨み骨髄。その危険視された才を全力でもって対ソ連の為に使っているのだから当然だが……お陰で寝返りすらまともに出来ていないどころか、下手に接触すれば潜入したスパイがあっさり罠にかけられて突き出される始末だ。
まあ、ドイツの奇襲で大打撃を受けた為に、(冤)罪を許すから祖国の為に戦ってくれというので戻って頑張って、終わったら用済みとばかりに処理されれば再び甘い言葉で囁いた所で信じる奴がいないのは至極当然の話だとは思うが……。
まあ、確かなのはお陰でソ連の国外への影響力は大幅に削られた。毛沢東主義も肝心の中国が南北に分裂して睨み合いの状況では影響力は史実より低い。
おまけに、悪魔の出現の為に安保反対は盛り上がりに欠けた。
結果として、彼ら連合赤軍という存在はその設立当初から「はみ出し者の集まり」という形となってしまった。
おまけに活動しても無防備都市宣言事件という前例が起きてからというもの、それに賛同していた政治家などもごっそり失ってしまい(一部は物理的に)、どうにもならない。結果として「ならば革命だ!」とばかりに軍事的に動こうとしても、今の日本は正式に軍隊が復活した上に悪魔との戦争の真っ最中。そんな中で、テロをやらかして「人の命は地球より重い」などと暢気な発言していられない。
おまけに……。
「我々は弾圧する軍に対して正当なる反撃を行った。だが、【オーガニック】を倒した途端に我々の【オーガニック】は次々とポイントを失い、最後は遂に初期状態にまで戻ってしまったのだ」
「……ええっと、軍に真っ向から襲撃かけたんですか?」
普通、それは返り討ちに合わないだろうか?と思っての質問だったが……。
「いや、悪魔から逃げる素振りを行って油断させて、背後から天罰の一撃を喰らわせたのだ」
「……そうですか」
要は騙し討ちしたらしい。
と同時に……。
(……【オーガニック】って同じ【オーガニック】倒したらポイント減るんだ)
と長々と熱の篭った話をする男を西坂は適当に相槌を打ちながら聞いていた。
さすがに、ここで「いや、それはそっちが悪いんじゃ」と言える程、西坂は空気が読めない子ではない。
一般には知られてはいない事だが、【オーガニック】が【オーガニック】を倒した場合どうなるかは実の所やってみないと分からない。
神々による即決裁判に似たものが発生するらしく、その結果として有罪であればポイントが減り、双方問題ありならば増減なし、正当性ありならば倒した【オーガニック】のポイントの一部をその度合いに応じて手に入れる事が出来る、と推測されているのだが、人の側から見れば完全に殺した側が悪いのにポイントを得た事例があったなど、全てを知った上で行動する側と、全てを知る訳もなく行動している側では判断に差が出ているのだろう。
何せ、神々は【オーガニック】を人それぞれに与えたと言えば聞こえはいいが、逆に見れば人類全員に【オーガニック】という監視装置を取り付けたとも言える。
当然、殺した側、殺された側双方のその前に実情など把握済みだろう。
これらが表に出されないのは、下手にこれが表に出ると死刑囚が暴れだした時、警官や軍に躊躇いが出るケースなどを考えての事でもある。
もし、死刑囚が「俺はやっていない!俺を殺せばポイントが減るはずだから実証出来るはずだ!」とはったりをかましたとして、やはり「ひょっとしたら…」という思いは避けられないだろう。
まあ、他にも色々あるのだが、大抵の場合、「我に正義あり!」と思い込んで暴走する奴に正義がある事は滅多にない。
かくして、彼らの【オーガニック】は有罪としてポイントを失い、真っ白な【オーガニック】が誕生したという訳だ。
(けど、どうすっかなあ……)
教官達に期待するしかないか……。
下手に自分が動いた所でどうにもならない。そう思いながら、熱を込めて語る男に表面だけでも真剣に聞いているように頑張る西坂だった。
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その頃、教官達は真剣な顔つきで話し合っていた。
「……新入生の西坂からの連絡が途絶えた」
「真っ白い【オーガニック】を確認してから、だったな」
「はい」
この場合、幸運だったのは憲兵隊出身の引退したばかりの老少佐がいた事だろう。
叩き上げの憲兵であり、定年は近いがその分経験と知識は群を抜く。
不運だったのはもちろん、最初に通信が入った時にはちょうど席を外していた事だろう。
「……まず間違いないだろうな、連合赤軍だ」
少佐の断言に最後に西坂との通信を受けた教官が悔しそうな顔になって俯く。
あの時自分が気づいていれば、そんな思いからだ。もちろん、あの時忙しかったのは事実だが、それでも【オーガニック】というものは一般人は大抵シェルまでで、【オーガニック】を起動させられる事は極少ない。だからこそ、今年の新入生の起動させた数に教官達も驚く事になったのだ。
それを動かしているという時点で、疑念を抱くべきだったと思っている訳だが、実際にはそういう人間は案外いたりするのでそこまで落ち込む必要はない。本人からすれば何の慰めにもならないだろうが。
「……ステルス悪魔に奇襲を受けた、という可能性はありませんか?」
「可能性は低いだろうな。その後、上空を通過した部隊に確認を取ったが爆発痕は発見出来ず。戦闘があった痕跡もない」
あの瞬間まで西坂は忙しい事に文句を言いつつも懸命に動いていた。
それが突然嫌気が指して脱走という事もあるまい。まだ、そんな時期ではない。どちらにせよ……。
「憲兵隊に連絡を取る。……奴らが動いている可能性があるのならば、憲兵隊は動く」
対悪魔ではなく、純粋な対人部隊、それが軍内部の警察組織というべき憲兵隊。
故にこの侵攻でも前線にはいない部隊が今、動き出した。
理念や信念を持つ事は立派なんですが、そもそもが間違っていたら……
なまじ、自分達は排斥された!なんて思い込んでる為に、「間違っている道を正す為に」テロ活動をやったりしてます
で、当然、容赦なく追われて、山とかに逃げ込んでると
史実でもそうなって、総括という名のリンチを繰り返した訳ですが、この世界ではそこまでは至っていません




