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世の中、色んな考えの人がいるものです…
『第209小隊、右へ向かえ!新たな悪魔が来る!抑えろ!!』
『第115から117は209の援護!急げ!』
『305!左を頼む!五分でいい!!』
通信はひっきりなしに入る音で一杯だ。
最初こそ落ち着いていた戦線は次第にその忙しさを増し、軍学校部隊もまた一時後退、補給(という名の乗り手の短時間休息)を取った後、部隊を再編。
別に100も200も部隊がある訳ではなく、209小隊は2年生の第9小隊を指す。
最前線の軍とて泥縄状態だ。神出鬼没のステルス悪魔が時折現れて撹乱を行ったお陰で、増援部隊の到着タイミングもバラバラになった。お陰で逐次投入という軍にとっては眉をしかめたくなるような状況に陥っている。それでも未だ崩れていないのはさすがと言えよう。
しかし、その分というか小規模の群が抜ける事も増え、その分、落穂拾いをやっている生徒達への負担も増える。
既に、疲労や追加で来襲した悪魔によって逆にやられた部隊、戦死者も出ているし、当初はステルス悪魔に集中していた黒田も(そして実際、二体は彼女が感知した)現在では人手が足りない為に戦力として動かざるをえない状態だ。
そして、一番忙しいのが……。
『ミラー2!今度は今の位置から4時方向!十五キロだ!急げ!!』
「了解!!」
飛行可能な機体を持つ西坂だった。
当り前だが、空を飛べるというのは大きなアドバンテージだ。ただ空を飛ぶだけならばともかく、三次元機動での戦闘を可能とする事の出来る人間は矢張り相応の訓練を積むか、天性の才能を持つかのいずれか。そして、その中で敵を何機も落とせる「エース」と呼ばれるような人物は更に少ない。
西坂がエースと呼ばれる存在になるかどうかは未だ分からないが、それでも彼はやれるだけの事はやるつもりだった。
「?」
彼がその姿を見かけたのはそんな時だった。
「……ミラー2より司令部へ。現地点より右方に合図を送っている【オーガニック】がいるんだけど、いえ、いるんですが……」
『こんな所へか?どこの部隊所属の機体か?』
こんな所というのは最もな話だ。現在の位置は戦線の後方とはいえ間違いなく交戦地域であり、戦闘の可能性がある地域だ。民間人にはとっくに避難命令が出ているし、こんな所にいるはずがない。しかし……。
「いえ、色は白、です……それも全身」
『白一色だと!?民間人だというのか!?』
白の【オーガニック】は悪魔と戦いポイントを稼ぎ、成長させた機体にはありえない色だ。白という色が最低でも半分以上を占めているというのは逆に言えば、全く戦闘を経験していない戦闘処女の色だという事だ。それは軍所属の機体にはありえない。すなわち、民間人。
「……どうしましょう」
『……やむをえん。民間人を見捨てる訳にはいかない。別部隊を増援に向かわせる。君はそちらの民間人に退避するように伝えてくれ。もし、助けが必要なら再度連絡を』
「了解です」
助けか、その必要性は高いかもしれない、と思う。
シェルに篭って大人しく隠れていればいいのに、わざわざああやって手を振って合図しているのはきっと助けが必要な何か、ひょっとしたら怪我人がいるのかもしれない。そう思ったからだ。
……【オーガニック】を出現させる事が出来るのに、戦闘に関わっていない機体。
その意味する所を、まだ彼も教官も知らなかった。いや、軍の一般将兵の大半は知らない。知っている者は極一部……。
「大丈夫ですかー?」
白い機体の前に着地させる。
予想通り、白い【オーガニック】の前には倒れた人間がいる。赤いものが散らばり、包帯が巻かれている。その包帯も赤く染まっている所を見ると、避難中に怪我をして動けなくなった所で自分の機体が見えて、助けを求めた、という所だろうか?
そう思い、白い【オーガニック】の搭乗者が【オーガニック】を解除し、しきりに倒れた人間の傍で合図をしているのを見て、助けを求めようとしてちょっと手が止まった。
現状ではどの程度怪我が重いのか分からない。本当は軽いのかもしれない、少なくとも確認してからでないと司令部としても困るだろう。動かせるような状態ではなく、医療班を送ってもらうよう連絡する必要があるのか、それとも出血は派手でもたいした事はないのか、或いは手に乗せて運ぶ事が可能なのか……。
何しろ、前の大戦で軍における兵士の扱いに問題があったとして(赤紙一枚でホイホイ熟練技術者さえ招集されていたりした)、民間人の安全などに関しては痛い程に教育されていたお陰で、西坂はそう考え、彼もまた【オーガニック】を降りた。
大地に降り立った西坂を見て、驚いたのは向こうも同じだったらしい。
「子供!?何で!?青い機体って空軍所属じゃ……!」
「えっと、俺、学校に入る前に偶然ポイント得ちゃったから……あ、でも今は軍学校にいるし、連絡すればすぐ救助が来るよ!」
「……だったら、予定外だが君には一緒に来てもらわざるをえないな」
第三の声は背後からだった。
えっ?と驚いて後ろを向けば……林の中から姿を現す三人の若い男達。その手には……銃。
「え?え?えっ??」
「まさか軍学校の生徒とはな。さすがに子供を手にかけるのは我々も本意ではない。それに……いや、これは後だな。連絡が途絶えたら向こうも何か起きたかと疑うだろう!すぐ移動するぞ!……大人しく来てもらおう。君が【オーガニック】を呼ぶより、この状況では我々が君を撃つ方が早い」
さすがにそれぐらいは西坂にも分かる。
素直に両手を挙げたが、これだけは確認しておきたかった。
ちら、と見ると先程倒れていたはずの人物も起き上がって動き出している。普通に動いている所を見ると、怪我しているように見えたのは嘘だったらしい。血と思ったのもよく見ればどうも明るい赤だ。おそらくは染料だったのだろう。
「えっと、一ついいですか?」
「……何だ」
「貴方達はなんなんです?何でこんな事を?」
ちょっと考えたが、すぐに頷いて言った。
「そうだな、我々は……連合赤軍。それが我々の名だ」
史実では1971年ぐらいから存在した組織です
実際に原型となったのは1960年からの安保闘争の中で成立したそうですが、この世界では色々と異なっています
何せ、安保自体が悪魔が出現した事もあって史実のような盛り上がりが発生しなかったので……しかし、無防備都市事件が発生したように世の中、色んな考えの人がいて、衰退したとはいえそうした考えを捨てていない人もまたいるという……
傍から冷静に見れば馬鹿げた事にしか見えないような事でも、本人にとっては至極真面目な命を賭けるべき事であったりという事もまたあるんですよね……
それが他者に迷惑をかけない事だったらいいんですけど




