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(……………暇だな)
内心で思いつつ、西坂は口にはしない。
今、軍学校の派遣部隊は戦線の後方の一角を担当している訳だが、仲間の一人黒田は現在、必死に画面を睨んでいるのがちら、と向けた小さな画面でも確認出来た。
軍から新種のステルス型悪魔に関する情報が入ったのが学校出撃後十五分後。
錯綜した情報の結果、軍から移動型のレーダー車を一台回してもらい、更に(旧式の)学校配属の本来は仕組みを学ぶ為の車両二台をも引っ張り出してパッチを噛ませ、更に黒田機が今回の強化でステルス悪魔を感知出来る可能性がある事を知り、合計四基の探知網でもって万が一接近してきた場合に備えている訳だ。
他の機械に関しては交代で詰める事も出来るが(そして実際そうしているが)、【オーガニック】はそうはいかない。その探知システムを監視出来るのは搭乗者だけ。せめてデータリンクシステムでもあればまた話は別なのだが、そこまでの余剰は誰も取っていない。
かくして、黒田清美が一人で画面を睨むという状況になった訳だ。
現在、レーダー車両の周囲は教官と新米達(卒業間近な生徒達)が固めている。
最悪、新米達が盾になってでも止めなければならない。そうしなければ最悪全滅する。
「俺達に死ねって言うのか!」と同じ立場に置かれたら思う者もいるかもしれない。だが、そう問われたならば「そのとおり」と答えるしかない。必要なら部下に「死ね」と命じるのが上官の役割であり、それに従わねばならないのが軍という存在である。
新入生ならばそれでも尻込みしたかもしれないが、さすがに卒業間近、配属間近な生徒達は内心の恐怖を噛み殺しつつ、命令に従っている。その点はさすがだ、と西坂も思う。
最も、自分達も似たり寄ったりだ。
現在黒田の周囲は自分と笹木、それに南宮が固めている。
更にその周囲を同級生のエリート組(?)が固めている状態だ。
彼らだって本音ではやりたくないだろうが、それでもやらないといけないのが辛い所だ。というか、ちゃんと青い顔をしながらでもそれでも逃げずにいるだけ十分ほめられるべきだろう。何せ、彼らは入学したばかりの新入生なのだ。
そうした彼らの命もまとめて預かっているのが黒田だ。
その小さい肩に本来はまだ担うはずのなかった重い荷物を突如として背負う事になっている。そんな仲間が傍にいる状況で「暇だ」などとアクビ混じりに言える訳がない。
それに、自分だってこうして黒田の周囲に立っているのは、最後の盾の役割を担う為に立っているのだ。それを考えればやはり……。
(やはり暇だ)
訂正、どうあっても暇なのは変わらないらしい。
まあ、実際やる事なく、今はただぼーっと突っ立っているだけなのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが……。
「今の所は異常なし、か……」
「今の所はね。でも、前線の状況を考えると、実際には既にある程度抜けてても不思議じゃないね」
「残念ながら、数と範囲双方が想定外でしたものね……」
気を散らしてはいけないと黒田からの通信を受信オンリーに設定して、他の面々と会話する。
全員、暇してたのは同じらしく、結構あっさりと話に乗ってきた。
「今回は宇宙でも戦闘が勃発してると聞いたけど」
「らしいですわね。教官達が深刻そうな顔でお話されてましたわ」
「宇宙軍までか。神々は余程何かしらでお怒りのようだね」
今回の大侵攻は地球各地で起きているが、それだけではない。
衛星軌道上、月面、更に木星軌道上に展開する太陽系駐留艦隊総司令部に、確認出来ている所では外宇宙輸送艦隊にまで襲撃が起きているらしい。正に、現在の人類圏全域で攻撃が発生していると言えよう。そして、それぞれに少なからぬ損害が発生しているらしい。
再建には相当な時間がかかるだろう、とは誰もが予想している嬉しくない未来予想図だ。
「……!反応あり」
それぞれがそれぞれに考えていた時、黒田が鋭い声を上げた。
直後にレーダー車両からも各機に連絡が飛び、一斉に緊張が走る。
どうやら幸いな事にステルス悪魔ではないようだ。最も、ステルス悪魔の恐ろしい所は、こうして侵入している悪魔に混じっていれば識別がつかない所なのだが……。
『確認した。数は十一。下位級機械悪魔だ。第八から第十二小隊対応せよ』
下位級機械悪魔とは要は旧式の機械で作られた悪魔だという事だ。
最低でも現在の最新版とは五世代以上の差があるという事になり(三世代以内ならば中級となる)、そこまで落ちれば生き残っていても少なからぬ磨耗や故障を抱えていてもおかしくはない。逆に言えば、もっと優先して撃破すべき相手がいた場合に後方の予備部隊に任せて、自分達は優先目標に集中し、旧式部隊は敢えて通過させるといった事も起きる訳だ。今回はそれだろう。
その為に、教官達も二年生から構成される、まだ十分なポイントを得ていない部隊に任せるようだ。
大多数の部隊はこうした数字分けされた部隊配属で、一部の西坂達の部隊のような学生としては強い集団はコールサインを与えられいる。西坂達はミラー1から4までの数字をあてられている。もっと格好いいものがないのか?と思うかもしれないが、格好いいのは大抵既に存在する正規軍が取得している。場合によっては同地域にいる可能性があるので、混在しないよう事前に割り当てられたまだ使用されていない適当な言葉からこうして選ばれる訳だ。
どこか鈍い動きを行う機械悪魔に対して、小隊ごとに集中射を与えて倒してゆく。
時折反撃を行ってくるが、旧式は数が揃えば危険なものの、この程度の数ならばそう危険でもない。教官達が注意を払っている事もあり、危険と感じれば即座に警告を飛ばして小隊も回避行動へ移り、危なげなく数を減らしてゆく。
問題はこの後だ。
さて、幾つの部隊が抜けてくるか……。
「新たな敵影。数八」
どうやら、おかわりが登場したようだ。さて、次はどの小隊が任されるのか……。
宇宙戦闘場面もその内書きたいですね
序盤はまだ余裕があるけれど……?




