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最近の女性陣の朝は早い。
さすがに軍学校、その新入生に特別生といっても一人部屋が与えられる事はない。ここら辺は今後共同生活が必須となる軍隊に慣れてもらう、という意味合いもあるのだが、現在南宮の同室は黒田清美。幸いというか同級生で突出しているのが男女二名ずつだった事もあり、あっさりとこの二人が同室とあいなった。
当初は未経験者(【オーガニック】の、である。念の為)や、経験者(同省略)と組ませて、という事も考えられたのだが、それを行った場合同室になった者が有利すぎるのではないか、そんな意見が出てきたのだ。分からないでもないし、下手をすれば特に未経験者の場合、その人物だけが他の未経験者を差し置いて【オーガニック】召喚に目覚めるといった事態が起きないとも限らない。それでは他の者と著しい不公平感が生じるのは避けられない。
そして実の所、他の者であっても不公平感が生じるのは避けられない、というのが教官達の結論だった。
何せ、部屋にいる間中、詳しい話を聞く事が可能になるのだ。最悪、同室の人間が他の同級生から孤立しかねないという懸念もあると判断され、最終的に西坂と笹木、南宮と黒田という形でまとめられた、という訳だ。
「ふう」
一足先に目覚めた南宮は日課の素振りを終えて、部屋へと戻る。
戻れば、部屋にはいい匂いがしていた。
「……おかえり」
「ただいま」
南宮は武術家の家系の出身だ。
と、同時に茶道の家系でもある。
まあ、そうは言ってもただ単に武術の家門の長男が茶道の大家の娘に一目惚れして大騒動の末に婿入り(ただし、子供にも武術を継がせる事が条件)となっただけなのだが。
彼女当人は体を動かすのが好きで、どうにも茶道は苦手だった。
無論、それでも幼少時より教え込まれてきた為に茶道の技術自体は修めているものの、当人は武術が好きで……けれど祖母と母からは「女の子なのに傷がつくのは」と武術には反対している、というのが実情だ。軍に入ったのも、二人の反対を押し切ってという面が強い。
……まあ、同時に弟が彼女とは真逆に武術にまるで興味がなく、茶道に熱心で才能もある、というのも大きい訳だが。
なら、何でメイス?と思うかもしれないが、これは仕方ない。彼女の家の武術とは柔術、素手格闘の類だからだ。
今のメイス中心の戦闘に関してもこのままでいいと考えている訳ではなく、剣を扱う為にここ最近は素振りを毎朝行うのが日課となっている……刀ではないのか?と思うかもしれないし、当初はそれも考慮に入れていた。が、盾を正式に取得する事になった為に盾を用いた剣による戦闘を考えている訳だ。ただし、素振りは足腰、姿勢や体力にも関係してくる為に通常の剣道などで行われるものを使っている。今の所は。
一方、黒田は孤児院の出身だ。
一応分かっている範囲では両親は一般人だったらしい。が、どうもかつての無防備都市宣言事件(無防備都市を宣言した結果、悪魔の無差別攻撃を招き甚大な被害を受けた)で両親を失った。
この時、生き残った中には子供が多かった。
というより、一定年齢以下の子供に対しては「悪魔」が攻撃を仕掛けなかった、という話も多数寄せられており、この時の「悪魔」の行動から戦う意志を持たず、ただ逃げるだけの行動に対して「悪魔」が拒絶反応を示すのではないか、と推測される原因となっている訳だが、結果として多数の孤児が生まれた。
この孤児らをどうするかが大きな問題となった。
最終的に軍が孤児院を運営し、将来軍に入隊する事でかかったお金が帳消しとなるという形式だ。
もちろん、軍に入らず一般人として歩む事も可能だが、その場合はかかった経費に対して返済の義務が生じる。借金で子供を縛る気か!という批判が出てもおかしくない所だが、今の世界の実情だからこそ現状が容認されていると言っても過言ではない。事実、返済を必要とする金額は結構な額であり、大抵の子供はそれまでの教育の事もあって軍へと入隊する。別に【オーガニック】を用いての戦闘に長けていなくても、軍においても書類の処理や機械整備などは不可欠。余程の事がない限り、どこかに雇用の余地がある。
それでも、軍にかかる費用は決して国庫にとって楽な負担ではない。ある議員が「これで主力装備にも金がかかっていたら破産に怯えていただろう」と発言した事があるが、【オーガニック】という自己進化能力を備えた兵器であり社会を動かす工場ともなりうる存在は国の財政にとっては不可欠な要素となっている。
そんな環境であったから彼女はペットという存在に憧れつつも、ペットを飼う事は出来なかった。
それが現状の彼女の【オーガニック】に対して発揮される凝った趣味の発露となって現れている訳だが、彼女は孤児院で料理も行っていた為に現在、目覚めた後は南宮が素振りをしている間に朝御飯を作っている訳だ。
尚、当然軍学校では朝食がバイキング形式で用意されているのだが、こうして自作しても良い事になっている。大抵の学生の場合は朝はギリギリまで寝ていたいという者が多く、結果として部屋に設置された簡易キッチンはお湯を沸かしたりするぐらいしか使われていないのだが。
この時代にも既に出現していたインスタント食品は更なる進化を遂げたのは日本人の食の拘りというべきだが、小腹がすいた時などに常備している者も案外いる(尚、史実のチキンラーメンの登場は1958年なので悪魔出現時には既に誕生済み)。
さすがに昼食や晩御飯は全員で取るのだが、というか作っている時間がない。
お弁当も考えたが、痛む危険性を考えるとそれも厳しいというか訓練で行軍する場合はお弁当なんかより持ち運び前提で製作されたレーションの方がいいに決まっている。
おまけに食に拘る日本人の凝り性のお陰で、このレーションに関しては他国との合同作戦時に提供されたりして評価が高かったりする。それでも朝だけは作るのは彼女なりの拘り、という奴だろう。
ちなみに南宮に関しては可もなく不可もなく、という所。
別段壊滅的という訳ではないし、彼女は当初黒田に負担をかける気はなかったので食堂に行くつもりだったが、黒田にとって孤児院時代からの習慣であり趣味とも言えるものだった為に一手に引き受けているというだけの話だ。
「「いただきます」」
本日は純和風。
炊きたての御飯に豆腐とわかめ入りの味噌汁、海苔と焼き鮭、お漬物なり。
彼女らが朝御飯を取る時間の前後ぐらいから他の者も起きて朝食をとりに食堂に向かったりして賑やかになっていくのを南宮は感じる。
今日もまた訓練の日々が始まる。……天気は少々曇り気味なのでこのまま降らないで欲しい所だとふと思った。
本日の平和な光景
……けど、悪魔はこのまま黙って見守ってくれたりはしません
次回は悪魔達との戦闘は普段はどんな始まりとなるのかを描写出来れば
幕間:架空の歴史に関しては次回は35の後あたりに欧州編予定です




