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基本形態の【オーガニック】は余り戦力にならない。
数が揃えばそれなりの戦力になると思いがちだが、最大の問題は「通信機能」を未だ保持していないからだ。
これまでは主任教官が拡声器を機体に直に取り付ける事で対応していた。
だが、その主任教官はもういない。
では他の生き残った教官は、といえば拡声器がない。下手に複数の声が入り混じれば、自動的に取捨選択を行ってくれる「通信機能」と異なり、単なる拡声器では声は誰彼構わず響き渡る。当然二年生達は混乱するだろう。だからこそ、予備の拡声器すら彼らは持っていなかった。
結果として、今戦場にいるのは僅かな「通信機能」を持つ機体と、一切の通信が不可能になり混乱する者達だけだ。先程は基地へと通信を繋いで、拡声器から声を流してもらったが、生き残ったそれらも今も尚体勢を立て直して降り注ぐ「悪魔」の攻撃に単なる道具でしかない拡声器は吹き飛び、先程と同じ事は出来なくなっている。
お陰でやむをえず教官が取った手段はといえば、適当な鉄板に墨と化した木材を用いて原始的なボードを作成し、誘導している有様だ。
そして、そうした誘導ボードを上げたような機体を今の「悪魔」達は優先して狙ってくる。回避しても、ボードを上げ続ける事は難しい。
「くそ……一体何が起きている!」
一人の教官が罵り声を上げた。
「本来の悪魔どもに戻ったというだけだ!うろたえるな!!」
生き残りの教官の中で最先任の人物がその声に怒鳴り声を返す。
その声に「確かに」と思いつつも、最悪の状況の戦場には誰もが歯噛みするしかない。
いや、無論怒鳴った当人も理解してはいるのだろう。「悪魔」との戦闘自体は彼らとて経験している。だが戦況は最悪の部類だと言っていい。経験豊富な人物でもこれ程の最悪の戦場はそうそう経験はあるまい。敵の数はただでさえ自分達より多く、こちらで真っ当に戦力として数えられるのは極僅か。むやみやたらと一部でマシンガンを撃ち出した二年生がいるが、それは更なる混乱を招いている。
問題はそれを止めるにも直接教官や落ち着いている者が傍まで行って強引に止めなければならないという事だ。
通信がまともに通じない、というのはそれだけ状況を難しくさせる話なのだ。
……とはいえ、ここで彼らが焦った所で状況がもっと悪くなっても、良くなる可能性がない事もまた事実。
少数の連絡が通じる者に連絡を取って「悪魔」への攻撃と足止め、可能ならば混乱させる事を頼むと共に、近隣の部隊へと緊急救援要請を飛ばす。そして、自分達はといえば戦力になりえない二年生達を一旦安全圏に逃がす。その上で、「通信機能」を得られる程にポイントを稼いでいる者がいれば、それを取らせるのだ。それさえ出来れば、まだ二年生達も僅かながら戦力化出来たと言える。
「一人でも生き残らせて、戦力化を図るのが俺達の役割だな」
誰も残った全員を生き残らせて、とは考えない。そんな事は不可能だからだ。
弱気な事を呟いてもそれが洩れる心配がない事だけが救いか。通信機能がない事に何とかそんな感謝を見出すが、そもそもあれば最初から戦力化が可能なのだ。
けれど、そうでも考えないとやってられなかった。
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笹木は機を見て、装備を切り換えた。
最早近接防御がどうとか言っている場合ではない。
肩部の浮遊砲台を帰還させ、肩の両用砲も帰還させる。
代わりに呼び出すのは地上攻撃に特化した重砲が計四門。更にロケットランチャーも呼び出す。
無論、これらも現実に存在したかつてのそれより遥かに性能がいい。
詳しく調べてもらえば、何故そうなるのか理解出来るかもしれないが、傭兵であった笹木には心底どうでもいい。直撃でも食らわない限り破損もせず、焼け付いたりもせず、弾詰まりも起こさず、無論他同様弾切れすら起こさず安定した砲撃を可能とする重砲。
精々ペットボトルサイズのロケットでありながら悪魔を撃破可能なだけの破壊力と限定的な追尾能力(さすがに空を翔るような相手には無理だ)を有するロケットランチャー(こちらはさすがに弾切れがある、というか一定数撃ったらしばらく撃てなくなる)。
どちらも現実の自分達には作る事すら不可能なものだ。
現在連絡を取り合い、かろうじて連携らしきものをこなしているのは教官グループ、二年生の攻撃参加グループ、そして新一年の例外グループの三つだ。
この内、最初と二番目はそれなりにそれぞれ同士では連携のとり方を知っているが、そこへいきなり余所が参加すれば混乱しかねないので、とりあえずとばかりに一年は一年で当座のパーティを組む。
指揮官役は笹木。
これは一番経験が豊富という事もあるが、同時に支援役でもある為、一番余裕があるからだ。
まあ、「悪魔」との至近距離で絶えずやりあい続けている西坂や南宮は論外だし、黒田も常に移動して、南宮をサポートする必要があるとなれば、複数の画面を見て危険そうなら指示を下す、という余裕がある訳もなく、反対に比較的後方で砲撃を行う笹木に余裕があるのは当然の話だ。
もちろん、逆に言えば笹木にこのグループを生かす責任がかぶさってくる訳だが。
「とりあえず今の所、空はこれまでと動きに大差はない……となれば」
地上に何か異常が起きたと考えるのが一番だろう。
おそらくは指揮官クラスの何かが今回出現した、という所か。これが試練である以上、何ら対処が不可能な事、例えば今回の「悪魔」がいきなり全部賢くなったとは思えない。どこかしらに突破口が用意されているはずだ。そうしてみるに、空がこれまでどおりなのは、空の戦力が限られているからだろう。
(……そうはいっても、いきなり大型が出現しないとも限らない訳だけど)
それまでは上空から適時地上の映像を確保してもらわないといけない。
砲撃を撃ち放ちつつ、笹木は自らが生き残る為にも全力を尽くし始めた。
……事が終了した後に何故この時にこのような事態が起きたのか、という疑問点が挙がる事になる。
この時代には現代のような誰でも使える高速回線、いわゆるインターネットのようなものは存在していない。
というより、各国家元首同士を結ぶ直通電話すらまともな維持が出来ていない状況だ。宇宙空間で、世界のどこかで突然戦闘が起きたりする訳だ。電話回線だけは必死に人類は通信衛星を維持して、各国の連絡を保っていたが海底ケーブルなんて破損したらいちいち修復している余裕はない。
ただでさえ、海の中というのは最も「名付き」が潜んでいるとされる領域だ。
結果としてかつてのような「事件が起きた=即世界中に広まる」というのは今では過去の話。
しかし、それでも。
この被害が判明した後、急ぎ照会が行われた結果、昨年9月の段階でアメリカから同じく入学式の際に急襲があった事が判明し、外務省が一連の報告を受け取っていた事が明らかになった。が、これを防衛省へと迅速に渡す事を怠っていた事が判明し、大問題となる。
もちろん、外務省からすれば当時は「単発の事例」「他に緊急とされる用件が重なっていた」という言い訳はあったが……世の中、こんな事件が起きれば誰かが責任を取らねばならないのだった。そうして、この後色々と連絡体制に関して改革が推し進められる事になるのだが……それは後の話。
次回もまだ戦闘です
「現在撃墜数と稼いだポイント」
西坂:27機=135ポイント
笹木:18機=90ポイント
南宮:13機=65ポイント
黒田:17機=85ポイント
空はこちら側の機数が少ないので稼ぎ時
大変な分、ポイントはおおいに稼げてます
……とはいえ、現実で言えば休みなしに仕事が大量に延々来るようなものですからね。嬉しくないでしょうけれど




