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異変は突然だった。
それまでの「悪魔」の動きは良く言えば自由、悪く言えば無秩序で行動は適当、相互援護もろくに行われず、自由気ままに動き回り結果として数では圧倒的に軍学校メンバーを上回りつつも、次々と撃破されていた。『獅子に率いられた羊の群は、羊に率いられた獅子の群に勝る』というが、正にそれを示すかのように今回が初陣の新米がその大半で構成された軍の部隊は「悪魔」の群を次々と撃破し、新米達はポイントを稼いでいったのだ。
何年か続いていた。それ故にそれはある種の作業と化し、特に教官達は毎年の事な為にマニュアルが設けられ、教育すら受けていた。
だからだろう、それが起きた時に咄嗟に反応出来なかったのは……。
「ん?」「なんだ?」「あれ?」
突然、雑然とした動きをしていた「悪魔」達が前進を停止した。
攻撃を加えるべく砲列を敷いていた二年生達は訝しげな声を上げた。
もっとも、それは教官達とて同様。突然の「悪魔」の動きに疑念を抱く者は多かった。
この時はある意味チャンスでもあった。
もし、この時総攻撃を行っていれば別の結果もあったかもしれない。だが、急な停止の為にこの時行動し、攻撃を行ったのは高速戦闘を常時行っているが故にそのまま動いた空の三機に幼いながらも戦場で砲撃を行い続けた経験を持つ笹木、そんな事お構いなしに暴れ回っていた南宮のみ、黒田は他同様疑問を抱いて停止した。
僅かに五機ではあったが、その攻撃によってようやく再起動した教官達が、砲列の前進を考えた時だった、「悪魔」達が後退を開始したのだ。
「な、なに!?」
焦りの声が上がった。
だがそれは戦術を変えた事に対するものではない。まだ学生が必要なポイントを稼ぎきれていない!という焦りに対するものだ。
本来あってはならない事だが、この瞬間、主任教官は思わず叫んでいた。
「い、いかん!逃げられるぞ!追え!!ポイントをちゃんと稼ぐんだ!!」
そして。
咄嗟に学生達はそれに従ってしまった。
軍人と一般人の一番大きな差、それは軍人は上官の命令に従う義務がある、という事だ。
古強者の煮ても焼いても食えないような古参兵なら、ある程度自分で状況を判断して、命令に従う振りをして言葉巧みに上官を誘導したりも出来るだろう。だが、ここにいるのはそうした軍人の基礎「命令には従う」という事をまず叩き込まれた二年生が大部分であった。
ゆえに彼らは反射的にその命令に従い……乱雑な隊形のままに前進した。
そして、それこそが地獄の釜の蓋が開いた瞬間だった。
後退した「悪魔」達は何時しか整然とした横一線の隊形を構築していた。
一番前には大型の「悪魔」が。
わざと隙間を開け、そこに見えているのは……。
一番前を走っていた学生は気づく前に事態が起きた。
教官になって日が浅く、それだけに主任教官の戦場ではありえないような言葉に呆気に取られていた新人(教官としては)はそれに気づいて慌てて叫ぼうとして、間に合わなかった。
そして、生徒達と一緒になって追っていた教官は気づいた時には遅かった。
まるでそれは盾を構えた重装の兵士の隙間から弓を構えるかのように。
或いは大型の「悪魔」を柵に見立て、そこから銃を構えるように。
脆くとも、確かな破壊力と遠距離攻撃の手段を持つ「悪魔」。先程までは味方との混戦状態になっていた為にまともに放たれる事のなかったビーム砲が戦線が整理された事によって遂に撃ち放たれた。
最悪な事に、この最初の攻撃で集中的に狙われたのは白一色の【オーガニック】、つまりはまるで成長していない生成りの機体ではなく、そこに混じっている色のついた、純白の雪の中に一点の墨が落ちていれば目立つように、酷く回りから浮いていた機体だった。すなわち、教官達の機体である。
無論、攻撃を受けたのは教官だけではなかった。
何しろ元々数の上では「悪魔」の方が多い。
当然、彼らの放ったビームの本数も生徒達のそれを上回り、或いはせめて頑強な防御能力を持っていれば、咄嗟の判断が出来るだけの能力か機能を持っていればそれを防ぐ事も出来たかもしれないが生憎彼らの機体は生まれたてのそれと同じ【オーガニック】、そんな機能も何も持ってはいない。
更に隊列は今も尚最前列の様子が見えない後方から雪崩を打つように前へ前へと駆け出しており、いわばラッシュアワーの際の最前列であった。
教官達がまとめて失われた事も拍車をかけ、戦線は大混乱に陥った。
「う、うわあああああ!」
「押すな!押すな、押すなあああ!押さないでくれえええええっ!!!!!」
「死ぬ、死ぬ!このままだと死ぬ!助け、ぎゃああああああ!!!」
「さがれ、さがれ、さがれ!!やられちまううう!」
通信回線は一気に大混乱に陥った。
支離滅裂な叫び声が回線を満たし、後方もさすがに止まろうとしても更に後方から走っていた勢いのついた機体がぶつかり、諸共に転倒する。
文句をつける暇もあらばこそ、その転倒した両機の上をお構いなしに前後から押し合いへし合いする【オーガニック】の脚が踏みつける。一度だけならまだしも二度、三度、四度……やがて幾度となく踏み潰された【オーガニック】は残骸と化す。
混乱が尚も続こうとした瞬間。
轟音と閃光が響いた。
西坂が上空から通信機能を用いて状況を送信し、それを受けた笹木が弾種を選択。本来暴徒鎮圧用に用いられるようなスタングレネード弾を上空へと撃ちこんだのだ。こうした弾種も生体型の悪魔には案外と有効だったりするのだ。彼らの感覚機能は音や目も含まれている為に。
一瞬の停止の後、そのままなら再び砲撃が始まっていただろう。
そうなっていれば再び混乱が始まっていたかもしれない。
……けれどもそうなる前にレーザーバルカンが「悪魔」最前列をなぎ払う。更に「悪魔」達の最前列が内側から吹き飛ぶ。
光学迷彩をかけるだけでなく、反発フィールドで一斉砲撃をかわした黒田清美。
更に、「悪魔」の中に突貫をかけ、「悪魔」達の後退に合わせて自らも突撃した南宮千代。
彼らは戦場を知り、けれども軍人ではなく。命令というものに対して、そこまで反射的な反応をする事もなく、いや、正確には笹木は思わず反応しかけたのだが、ここで彼の機体が変形し、後方支援に回っていたのが幸いした。要は出遅れた為に我にかえる時間があったのだ。
これによって「悪魔」達の砲撃が一時的に止んだ。
これを好機と見た、生き残りの突貫をかけなかった教官達が指示を出して、生徒達を後退させていく。
「下がれ!焦るな!」
「授業でやっただろう!部隊全体の後退だ!焦れば却って遅れるぞ!!」
整然と、とまではいかないにせよようやっと全体が後退を開始する。
その後退を支援するように或いは砲撃が、或いは上空から、或いは「悪魔」達の最前線で四機の一年生達が暴れていた。
一時の大混乱は収まりつつあったが、一度人類側に不利に傾いた天秤は未だ傾きを戻してはいなかった。
それを彼らはこの後、改めて思い知る事になる。
まだまだ地獄の釜は生贄を逃さないとばかりに閉じる気配を見せてはいなかった。
これは神々の「加護」ではなく「試練」なのです
ポイント稼ぎの場と思い込んでた為にしっぺ返しを受けました
ルーチンワークと思い込んでると突発的な事態に対処遅れますよね
現在撃墜数と稼いだポイント
西坂:21機=105ポイント
笹木:12機=60ポイント
南宮:11機=55ポイント
黒田:14機=70ポイント
南宮が一番少ないのは敵の真っ只中で白兵戦の獲物振り回してぶちのめしてるからです




