121
『回廊』
それは今回発見された白い『ダンスホール』へと通じる道だ。
ブラックホールが構成する銀河中心部の降着円盤。
高エネルギー渦巻くその場に伸びる一本の道。
正に神々の場へと通じる回廊としかいい様がない光景であり、この場へと通じる恒星系にまで辿り着かなければ殆ど見えないという工夫まで為されている。
「……いよいよだな」
既に四隻全ての内部は臨戦態勢に突入している。
何時襲撃があってもおかしくない。
「全員の準備は?」
「完了しています」
二度目の確認。
抜けている箇所があったりするので、念の為に二度目の確認を行わせたが、どうやら問題はなさそうだ。
その上でちょっと困った表情で艦長を呼ぶ。
「……あの件はどうだろうか?」
「……詳細が公表されている訳ではありませんからな。様子見しかないでしょう」
あの件……。
それは恋人がいる者の死亡率の低さ、というものだ。
ここがややこしい所で、妊婦自体の死亡率は低くても、その旦那までは死亡率は殆ど変化していない。なので……。
恋人を作るのは問題ない。
愛を育むのも分かる、最後の機会となるかもしれないから。
が、子供は作らないように。大量の妊婦や子供が生じたら戦力や帰りの食料などに問題が生じる可能性がある。
そんな話になっている。
理由自体は真っ当なので艦隊内では誰もが承知している話であり、と同時に本気で「この戦いで永遠の別れになるかもしれない」「告白出来ないままに終わるかもしれない」という思いからか告白などが頻発、一方の女性にした所で「これが最後かも」と思えばそれを受け入れるケースも案外多いらしい。
案外な年の差カップルもお陰で誕生したりしてるようだ。先だってなど、肝ったま母さんといった風情の機関科の中年女性に、若い美少年の艦載【オーガニック】パイロットが告白などという話まで三番艦『イデア』ではあったらしい。告白した当人曰く『母のような感じがして落ち着く』のだとか。尚、当人は孤児であるそうで、この告白女性の『あたしみたいなのでなくても幾らでもあんたなら相手がいるだろうに』と笑っていたそうだが、真剣な思いに受け入れたのだとか。
「とりあえず恋人関係にある者が増えているなら問題はない」
「そうですね。生存の可能性が少しでも上がるというならやってしかるべきです」
まあ、司令官にせよ艦長にせよ彼らも正直妙な気持ちというか、半信半疑というか数字で実際に効果を示されてもはっきり口にするのには何か抵抗がある。
だが、彼らは司令官であり艦長だ。
部下を無事に帰還させる責任があり、その可能性が少しでも上がるというならばそれを否定する理由はない。結果として、現在の艦隊では恋人関係にある男女があちらこちらで……いや、実を言えば同性によるものもいるのでとにかく多かった。お陰で、未だ独り身の者とか結婚してるが家族が地球という者には結構毒だったり、辛かったりする。
司令官も艦長も後者の側なので時折辛い時もあるが、そこは我慢するしかない。
その一方で犯罪レベルの事態は発生していない。全員軍人な上、ここは最終決戦間近なと思われている人類最精鋭の艦隊。
そんな中で犯罪でも犯そうものなら、それこそ人類が生き残れば人類史上に残る犯罪者として記録される事になるのは間違いない。無論、口論レベルや小競り合い、例えば同じ女性を巡っての争いなども発生はしていたが、事件レベルになるのは周囲も軍人だらけ、という事もあり抑えられていた。
「……『回廊』に突入します!」
「……うむ」
そうして跳躍を行った先で彼らは仰天する光景を見出す事になる。
……周囲は悪魔艦隊だらけ。
しかし、それらは整然と一方向に切っ先を向け、彼らに襲い掛かる様子はない。
「こ、これは……」
誰かの戦慄したような声が響く。
尤もそれは誰だって同じだ。数十程度なら遭遇した事はあっても、ここに見える艦隊の規模はとてもそれで現せるようなものではない……正に「宇宙が一に、悪魔が九」といった風情。万、下手すれば億にも達するかもしれない膨大な規模の悪魔の群れ……。
逆にそれが彼らの引き金を引く行為を推し留めていた。
こんな規模の悪魔達に一斉に襲撃されたら助からない事ぐらいは誰だってわかる。如何に熟練の兵士といえど拳銃一丁で最新鋭戦車含む機甲師団と隠れる場所のない平地で出くわしたらさっさと降伏するだろう。
と、同時に反転する事は出来ない。
人類の艦隊は改めて決意を固めると、無数の悪魔の中を進んでいくのだった……。
無謀な真似をしようとする者はさすがに出ませんでした
まあ、憎しみから撃ちたいって奴はいると思いますが、行動する前に周囲に止められるでしょう、どう考えても勝ち目ないので…




