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『それじゃあ頑張って行って来い……孫の顔見せるまで死ぬんじゃないぞ』
「当り前だろ」
西坂は通信ブースで地球圏を離れる前の最後の会話をしている。
交信相手は地上軍の将官として今回の遠征にも参加しない父親……。
ポイントだけならば彼も十分なポイントを得ている。だが、これまで一度も宇宙での戦いの経験がなく、またそもそも年齢的にも今更、という部分がある。幾ら【オーガニック】の力を借りようとも一部のスーパーエースを除けば普通の航空機パイロットがそうであったように彼らもまた第一線からは引退するのだ。
これが最後となるかもしれない。
間違いなく、地球圏へと帰ってくるのはこれが最後、宇宙のいずこかで果てる者が少なからず出る。
それ故の最後の会話。
一期生達は事実それで何人もの仲間を宇宙で失った。当時の彼らより腕の優れた先輩や隊長がほんの些細な不運で命を散らすのを見てきた。だからこそ、限られた時間の中、話をしておきたい一人に連絡を取り、こうして話をしている。
西坂はこうして父と。
黒田は孤児院でお世話になった先生と。
他の者も或いは妻と我が子、或いは両親や祖父母、親友。それぞれ様々だが、皆真剣だ。
本当を言えば他にも話したい相手は一杯いる、という者もいるだろうし、誰しも戦友がいる。
しかし、時間制限なしでは幾ら時間があっても足りないのも事実であり、一人辺り三十分という制限がある。制限があれば、これが最後かも、と思えば制限のギリギリまで一番話したい人と話をしておきたいものだ。
一期生の今回出撃に同行しないセシリアやラービフはその辺りを理解しているから、彼らはビデオメールに相当するものを全員分送ってきている。
「じゃ、行ってくる」
『おう』
共に何年も戦場を駆けてきた親子だ。
最後はあっさりした態度だった。
通信ブースを出て、受付に終了を告げる。それを受けて受付が次の通信ブース使用者を呼び、当人が小走りにすれ違い入っていった。
年齢は同年代に近いように思うが階級は下だ。
もっとも、これは別におかしな話ではない。正式な任官こそ遅かったが、それは宇宙軍学校の立ち上げの為の異動や、正式卒業前の恒星間航行などによるもので、特に宇宙での実戦経験などは地上軍で経験を積み、宇宙へと上がって来た人間よりも遥かに多い。
そして、地上と宇宙では戦死者数が段違いだ。
この為、地上から上がって来た人間にはそうした戦死への不安がまだ拭い去れていない者も少なからずいる。
おそらく彼もそんな一人なのだろうか、と思いつつラウンジへと移動する。
現在通信ブースをフルに活用して最後の通信を行っている訳だが、何しろ今回の全参加人数は千五百を超える。
一度に百人を通信ブースで対応出来るとしても十五回に分ける必要があり、一人三十分とすると呼び出しの時間なども合わせれば全員が終わるまでに八時間ぐらいは覚悟する必要がある。そして、隊長の一人である西坂は一番最初のグループだった。つまり、この後は延々待つ必要がある。
船に乗り込むにせよ、彼も大隊長。一人でさっさと乗り込んで寝てる訳にもいかない。
「……終わった?」
「ああ。そっちも終わった?」
「……うん」
そっと隣に座ってくる。
「何か飲み物でも飲む?」
「……じゃあ、ココア。あったかいので」
「了解」
少し席を外し、黒田の為にココアを、自分用にミルクティーを取ってくる。
ちびりちびりと飲みながら、特に話しをするではなく、ただ静かに二人でそこにいた。
時折、笹木や南宮、一期生のメンバーも見かけるが彼らもそれぞれに思い思いの時を過ごしているようだ。
新人や先輩達の中には地球を見る事の出来る展望ラウンジへと移動した者もいるようだ。
途中で一旦互いに部隊の確認の為に離れ、荷物を取ってきてまた戻る。
二人は同じ『アライアンス』乗船の為に一緒に出発するとか、そこら辺は割合融通が利く。
やがて時間が過ぎ、そろそろ部隊全員の通信時間が終了する時間になる。
「行くか」
「……うん」
それぞれの部隊の集合地点へとそこで一旦別れ移動する。
「全員揃っているか?」
「間もなく……いえ、今到着したようです」
「よし……」
最終確認の為点呼を取り、全員が揃っている事を確認する。
全員を見回し、号令をかける。
「これより『アライアンス』に乗艦する!各員港へ移動、【オーガニック】召喚後移乗開始せよ!!」
そして、これを最後の戦いとせんとする人類の戦いが始まる。
死ぬかもしれない、ってなった時誰と話したい?って言われたら迷わず言える人もいれば、迷う人もいると思います




