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軍学校。
幼年学校とも士官学校とも防衛大学とも異なる新たな学校。
その学校では教官達が頭を抱えていた。
校長らも含め全員現役の軍人である彼らの気持ちを表せばこうなる。
『どーすんだよ、こいつら』
いや、実は現状は「いつかは起きる」と予想されていた。
しかし、想定以上に早すぎた。
今の世代は生まれながらにして【オーガニック】を持つ者達だ。
現在軍の主力を担っている大人達は【オーガニック】という存在に対して、突然与えられた道具、という認識を持っている。
これに対して子供達は生まれた時からある、あって当然のものだという認識がある。
この認識は小さいようで大きい。
道具として認識している大人達は「もし、なくなったら」という認識を持つ者も多い、特に年配者に。突然与えられた物なのだから、突然なくなるかもしれない、という認識だ。
しかし、腕や足が突然なくなるという事がないように、現在の子供達にはどうにもそういう認識が薄い。と、同時に最近、稀にだが【オーガニック】召喚に目覚める子供が出現している。【オーガニック】の召喚にははっきりとその姿を意識する必要があり、これまではそんな事はなかった。
だが、最近それが出てきた。
それはすなわち【オーガニック】が精神的な干渉を行っているのではないか、自らがいるのだと訴えているのではないか……そんな疑いを彼らに抱かせるのだ。一見すると大した事ではないように思えるかもしれないが、実際には結構大きな意味がある。【オーガニック】にも意志があるのではないか、というのは昔から言われてきた事であり、もし、子供達の覚醒が【オーガニック】からの働きかけによるものであればそれがある意味証明された事になるからだ。
まあ、それは今はいい。
今の問題はそうした覚醒した、【オーガニック】にコネクト出来る人材が今年はやけに多かったのだ。
これまでコネクト可能なレベルにまで到達した人材は旧来のそれに比べれば中学生に入るばかりの年代、という事もあり、さすがに殆どいなかった。精々、生命の危険レベルを味わった人間(大抵は悪魔との不運な遭遇によるものだった)が結果として【オーガニック】との初コネクトを果たした、というものだった。……念の為に言っておくが、そういう状況になった場合、百人中九十九名は死ぬ。ほんの僅かなそんな状況でも助かろうと足掻く鉄の意志を小学生以下の子供が為し得て、初めてそれが起きる訳だ。
結果として、これまで【オーガニック】への初コネクトを達成している者は学年ごとに精々一名程度だった。それも、基本的な事は全く理解していない程度のものでしかない。
このため、そういう人間でも基本的な事を勉強させる意味は大きかった。けれど……。
「いきなり、いきなりこれですか……」
「十名を越すコネクト達成者……しかもポイントを稼いでいる者が全員……想定外だな」
「稼いでいるといっても僅かなポイントを稼いだのみの者はまだ、いい。だが……」
100を越すポイントを稼いでいる者が四名もいる。
しかも、最大の者に至っては500を超えている。
記録によれば傭兵出身、という事のようだ。
この時代、傭兵というのは日本でも極当り前に存在している。元々は平和憲法の改正前の一時、戦闘への部隊派遣に噛み付いた政党があった為だ。
ただでさえ、緊急事態で相互援助して何とかやっていかないといけなくなったというのに、同盟関係のある国への援護さえ噛み付かれた結果、当時の政府が苦肉の策として他の政党への協力要請と切り崩しで憲法改正を図るまでの間、法律で傭兵部隊を設定し表向きは「傭兵部隊が個々の契約の範囲で行った事」として強弁した訳だ。もちろん、実態は軍関係者がごっそりいたというか、看板を一時的に架けかえて支援を行ってただけな訳だが。
この時の法律が憲法改正のその後もそのまま残った結果、民間人にも傭兵部隊を結成する者が現れた。
これで問題が発生していれば騒動も起きたのだろうが、そこまで大規模な部隊が次から次へと成立する、などという事にもならず、軍がすぐに動かせない事態において緊急に派遣する事が可能な戦力として何かと重宝された為にそのまま法律が残っている。
日本国内で活動する限りは年齢制限などがあるのだが……海外に雇われている時などにおいてはどうしても目が行き届かないというか、現場上仕方ない事態があるというか、とにかく色々な理由で子供が【オーガニック】を用いて参戦する事もある。結果として、こういう子供でありながらポイントを稼ぐ、という事もある訳だが、通常そうした子供の場合そのまま傭兵部隊に所属したり、或いは学習の為に一時的に民間防衛隊に入るといった事が多く、軍に入る事は滅多にない。
傭兵独自のカラーリングを変えたくない、とかだったり、色々な理由がある訳だが、この年齢で500ポイント以上を稼いでいるとなると立派な戦力の一環となっていたはずだ。
それなのに軍に入る理由は、と確認してみれば何のことはない。海外派遣時の戦闘の結果、所属していた傭兵部隊が壊滅した結果だそうだ。
この時の戦闘に関しては色々と疑問点の残る問題の多いもので今も色々と訴訟も発生しているのだが……とにかく、これで父を失った子が入学、という流れな訳だ。それはいい。
問題はこうした実戦経験を積んだ者を普通の生活を送ってきた人間と一緒に教えていいものか、という事だ。
『意味ないだろ、実際』
経験が違う。
機体も違う。
スタート段階からかつての中学生と大学生ぐらいは差がある。ましてや、彼らは全員『外部記憶機能』を取得している。
これだけで、二年時に取得予定の一般学生とはとんでもない差が出る事は確実だ。
結果、教官達は最終的に結論を下した。
『特別学科を設定、一部を除き特別科所属は別個の授業を受けるものとする』
西坂弘智にその通知が来たのは入学一週間前だった。
『現在の成長』
本日は成長なしの為省略
学生編、ですが!
機能に最初から差があるので特別科に放り込まれました
まあ、一人ぐらいならともかく、十人ぐらいいれば…
同じ勉強させてもえらい事になりますし




