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恐ろしい程の速度で飛ぶ、というより吹き飛ぶ感覚。
小さなスペースデブリ程度は【オーガニック】の自己防御機能に任せ、ひたすら前方に集中する。
余りの高速度の為に一度すれ違ってしまえば、後は後方からの追撃など気にしなくて良いからだ。
意識の端に一瞬のメッセージ。
母艦への攻撃。
瞬間、スロットルを緩め――
『速度を落とすな!!『アライアンス』はあの程度じゃ沈まん!!』
――る前の怒鳴り声に動かしかけた手を止める。
周囲を見る余裕はない。
おそらく、というか間違いなく既に編隊はバラバラになって動いているだろう。ペアすらまともに組めている自信はない。
……悪魔の群れを抜けて一番近くにいた僚機とペアを組む、というのが精々か。
!
一瞬、爆炎が見えた。
撃破した光か?それとも……。
互いに高速で飛ぶ同士が激突した場合、悲惨な事になる。
今の所自分は無事だが、前の方を飛ぶ先輩の【オーガニック】の一機が悪魔の一つと接触、双方とんでもない勢いで弾き飛ばされ……立て直す間もなく別の悪魔と激突し、チリとなった。
一瞬の操作ミスが命取りになる。
前に進む、悪魔が現れる。
回避。
また、悪魔が出現し、回避。
ベテランは通り過ぎる一瞬の間に攻撃を仕掛ける者もいるようだが、恐ろしくて出来ない。
というか、下手に攻撃して仕留め損ねて、軌道が想定外の方向へと変わった残骸が後方から来る味方に激突したらと思うと、とても手が出せたものではない。
一瞬のような、酷く長い時のような――時計を見る余裕などなかったが、突入前に見た光景からして、あの群れをあの速度で突破したとなると……僅かな時間だろう。
事実、ちらりと確認すればほんの五分程のものだった。
『ようし、全員無事か?』
「こちらレイダー9、無事です』
現在の自分の配置はゴットフリート大佐が指揮するチャージャー連隊を構成するクレスト大隊、その大隊を構成する三個中隊の一つレイダー中隊九番機。
さすがに、みっちり訓練を積んだ一期生とはいえ、外宇宙での戦闘経験はゼロ。そんな連中同士を組ませるような事はしないし、隊長的な事を任せたりもしない。太陽系内でのアレはあくまで例外中の例外。というか、毎回やられても困る。
他からも次々と返事が返ってくる。
……次々と聞こえる声からすると、同期も全員無事なようだが……問題は。
ゴットフリート大佐の僚機と、自分が組む予定の先輩の声が聞こえない。
……そうすると、あの爆発の一つは……。
『ようし、仕方ない。レイダー9は俺と組め』
思わず息が止まった。
『どうした、レイダー9、返事は』
「りょ、了解!!」
……まさか、大佐と組む事になるとは。
確かに既に組んでいるペアを変更せずに済ませるには互いにペアを失った者同士が組むのが一番手っ取り早い訳だが。
それに、大佐とならばついていくのは大変だし、まだまだ「ついていかせてもらってた」状態ではあるが幾度かペアの練習の際に教官として一緒に動いた経験もある。
『ようし、きちんと返事してる間はまだ生きてる証拠だ!いくぞ、ボーイズ&ガールズ!!』
加速して、ゴットフリート大佐の僚機の位置につけたのを確認した後、そう合図がかけられ、一斉に散開する。
ここからは大佐と二人だけで奴らに切り込む。
……中隊の端っこで先輩にくっついていればいいと思っていたら、いきなりとんでもない場所に配置されたものだ。
まさか、連隊長機のペアとは!
というか、普通はベテランをくっつけるか、そもそも連隊長は後方にいるべきとかいう事は黙っておく。
とんでもない勢いで飛び出したゴットフリート大佐に……こっちがついていけるギリギリと確信しての行動だから性質が悪いというか、何と言うか……懸命に追随する。
しかし……。
大佐のペアとなれば、当然ベテランだったはずだ。
いや、戦死したのであろう自分の本来のペアとて十分な経験を積んだベテランだった。……それでも一瞬で命を落とした。
戦場で最後に生き残れるかを決めるのは運。
ふと、そう思った。
今回敢えて名前を出さずに書いてみました
あ、一応西坂君視点です




