92
恒星間航行船『アライアンス』の航行中の訓練はシミュレーターで行われる。間違っても実機で行われる事はない。
理由は単純についていけないからだ、『アライアンス』に。
何しろ超光速航法中は勿論、通常空間を航行中とて凄まじい速度で移動している。そんな中、飛び出した所であっという間に置いていかれるだけだ。
「という訳で搭載【オーガニック】の戦闘となると、基本足を止めての殴り合いになる訳だ」
一期生は現在講習中。
まあ、いきなり恒星間航行船に乗せられた訳だから、そこでの戦闘方法なんて一から学ばないといけない。
もちろん、通常は事前に研修をしっかり行ってからやる。しかし……。
「撃ち合い、ですか」
「しょうがない、何せ宇宙では距離と速度が違いすぎるからな」
地球では海を航行する艦船の速度は軍艦でも100Km/hを超える事はない。
航空機の方が圧倒的に早い。
しかし、宇宙では違う。宇宙ではサイズの違いがあれど全てが宇宙船であり、大型船であってもその最高速度は桁違いになる。
まあ、ある程度加速中の船から射出されれば船自体の速度が射出された船にもついているし、そこから更に加速すれば飛び出していく形になる事にはなる訳だが……それはあくまで星系内の航行であって、そっちなら精々光速の2パーセント程度の速度だが、通常空間でも亜光速で進むとなると単機の【オーガニック】ではとてもついていけない。
……よく考えてみれば、相手は数十数百の【オーガニック】の集合体なのだから当然かもしれないが。
シミュレーションとはいえ、亜光速航行中の『アライアンス』から飛び出して、一瞬で遥か彼方に置いて行かれた際の不安は誰もが持っている。
何しろ、宇宙空間にたった一人置き去りにされる訳だ。荒波の中、たった一人大海原に捨てられたのと……いや、あちらの方がまだ外に食えるものがあるだけマシかもしれない。
いや、あれは精神修養と呼ばれるだけの事はある……。
喚いても泣いても返事も返ってこない、宇宙空間に一人ぼっち……シミュレーションの中だと理解してたからこそ我慢出来たが、そうでなかったら狂うかもしれない。
「で、戦闘だが……」
何せ、相手も巨大悪魔がゴロゴロいるので非常に激しい。
実は俺達が動員されたのもそこら辺に理由があるらしい。既に巨大悪魔との実際の交戦経験があるから、と。
「でも、あんなもの真っ向対峙出来ませんよ」
前回は一隻だから何とかなっただけだ。
あんなのが艦隊になって襲ってきたらどうにもならない。
特に上位悪魔。
更に上の魔王級となったら到底人のどうこう出来る領域ではない。
「いやいやいや、さすがにあれは例外だ」
実際は大抵の悪魔艦の中心にいるのは頭でっかち。
人のそれに例えるならメインコンピュータとでも言うべき頭脳型の悪魔。
それ単体では戦闘力皆無だし、そいつらが構成する悪魔艦は普通の艦艇と変わりないらしい。
つまり……。
「前回の上位悪魔が核となっていた悪魔艦は例外中の例外だと」
「大抵一隻や二隻は混じってるがな」
しかし……。
「数十の悪魔艦隊と撃ち合い出来るって【オーガニック】艦が高性能と思えばいいのか、悪魔艦が低レベルに抑えられてると思えばいいのか……」
「後者だろ、絶対」
まあ、そうだろうな、と同意する一期生達だった。
もちろん、教官も。
さて、この後は再びシミュレーターで特訓である。
艦隊戦は悪魔も多数、場合によっては悪魔艦に攻撃を行わねばならない時も多い。
上位悪魔がいる、いわば旗艦を早々に見抜かないと何時まで経っても終わらない。
現実に何時かは相対せねばならず、その為にはひたすら訓練あるべし、そんな日々だった。
……女性に誘われてる奴は結構いるようだったが。
閉じた社会な上に二年はこの船の面子だけ、というのが基本だから、やっぱりそんな中に混じった未婚者ってのは貴重らしい。
体が重い……
立ち仕事なので、膝が……




