五時間目
「あれ、ここどこ」
目が覚めてまず初めに見た物が真っ白な壁だった。
「まだ寝たままなのかな」
静かな中で、自分の声と時計の動く音だけが聞こえる。
「なんだか疲れたな、今日は」
とか言っているうちに意識がはっきりしてくる。
それと平行して自分の今置かれている状況がわかってきた。
「あれ、ここ保健室のベットの上か」
重い体を起き上がらせると
「おう、目が覚めたんか」
と火音が花の入った花瓶を持って入ってきた。
「なな、なんで、花瓶持ってるの」
病院ならまだしも、ここは保健室だというのに、火音は花瓶を持ていた。
「あーこれか、保健室の先生に頼まれてな、しかたなく水変えをしてたとこや」
確かに火音の手は濡れていた。
「にしてもマサ、注射が怖いなら俺に言ってくれれば何とかしてやったのに」
火音がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「そそそ、そん、そんな、恥ずかしい事、言え、ないよ」
思わず周りをキョロキョロしてしまう。
そして気がついた。
「あ、あの、ミヨは?」
小さく首を傾げながら聞く。
「あーミヨなら先に帰っていったぞ」
確かに時計を見てみると、僕が倒れてからもう4時間経っている。
「ここ、こんな時間まで居てくれてたの」
もうすっかり日が沈みかけてしまっている。
「ああ、ちょうど校長との話もあったしね」
火音は優しさか、ホントなのかわからないがそう答えた。
でもなんだか疲れた感じがするのでホントなのだろう。
しかし、問題はそこではないのである。
「ぼ、ぼぼぼ、僕、このまま武帝部に居ていいのかな」
注射器を見ただけ気を失う様な人間、読んで字のごとくである武帝学部にこのまま居て大丈夫なのか
そこが問題だった。
「別これからなれていけば良いよ」
火音は考える間もなく言った。
「でで、でも、うまく戦えないだろうし」
自分で話しておきながら悲しくなる内容だ。
「ききき、きっと、ぼぼ、僕がリングに入っても、みみみ、皆の迷惑になるだけだし・・・」
そこで言葉が途切れてしまう。
正確には、視界を歪ませようとしている原因を必死にこらえているのだ。
「そんなに自分を責めないほうがいいよ」
俯いているマサに火音が話かける
「接近以外でも戦う方法なんていっぱいあるし。それに、もしかしたら魔法の才能があるかもだよ」
マサのテンションを上げるためか、いつもやり明るく話してくれている。
「う、うん、そうだね、あり、がとう」
嗚咽が漏れないようにこらえながらしゃべる。
数秒なのか数分なのかは分からないが、沈黙としては結構の時間が過ぎた。
「ぼぼぼ、僕は今日は、か、かか、帰るね」
ついに沈黙に耐えられず立ち上がった。
机の上に置いておいてくれた鞄を持ってダッシュで保健室を出た。
「ふーふーふー」
どれだけ走ったのかわからなくなるぐらい走った。
だが、まだ結構家には遠いことから、ただの緊張で距離が長く感じるだけだろうと思う。
その証拠に、少し深呼吸するとすぐ楽になった。
「あーあ、何気ない高校生活を送りたかったな~」
ため息混じりに愚痴を漏らす。
父が武帝学部を好成績で卒業したのと、強気な友がいる。
この二つの理由だけで俺の日常は崩されたようだ。
「この先どうするかな、真面目に勉強して卒業するかな・・・とは言っても勇帝学園で頭悪いの武帝学部だけって聞くしな」
「確かに勉強で卒業は武帝の人間には無理すぎるかな~」
気が付くと隣に火音が居る。
「うぉぁ」
よくわからない声が出てしまう。
「面白い反応するね」
はははと笑いながら笑顔を見せる。
「でも武帝学部の人間が勉強で卒業なんてめったにないケースってのはホントだよ」
火音の顔が真剣になる。
「だって後遺症が残るから世の中にはまだ発表してないけど、初めて人間の蘇生に成功したのは勇帝学園の医療学部なんだから、そんな人間と同じテストで卒業しようなんて無理だね」
分かってはいたことだが、その現実をさらに強く突きつけられ、言葉を返せなくなる。
「それに、リングに入っていれば絶対進級特許なんか取らなくても、ある程度の功績があれば進級できるらしいしね」
確かにその通りだ。
なぜなら、テストは共通、つまり勉強での進級は不可能になる、
しかし絶対進級特許が与えられるのは1つのリングのみ、
それしか進級する方法が無いとすれば、今頃武帝学部は留年生の集まりになっているはずだからである。
「で、どうするの」
火音の声がした。
「な、何が」
ホントは分かっている、何を聞かれているか分かっている、
しかし、『この話をしたくない』
そんな感情が無意識のうちに言葉を発していた。
「まぁ俺はこのままをお勧めするけど、止めはせんからな、それに・・・」
そこで火音の声が止まった。
一瞬の間があいた後重そうに口を開いた。
「あんまり逃げないほうがいいぞ」
そう言って走り去って行ってしまった。
火音の言葉を受け、自分はどんな顔をしていたのだろう、
そんな事を考えても今は卑屈な答えしか出てこなかった。
その後はトボトボと歩いて帰るしかなかった。
「ただいまー」
誰もいない部屋に自分の声だけが響く。
バフッっと、いかにもフカフカそうな音を立ててベッドに寝そべる。
「逃げないほうがいいぞ、か・・・」
もう結構暗くなってきているのに電気も点けず、一人天井を眺めながら自分はどうすべきか、考えていた。
「考えても仕方が無いな」
自分の現実から逃げるように明るく言い放ちベッドから背を離した。
「そういえばまだ夕刊読んでないな」
帰ってきてずっとベッドの上に居たので、一回もポストの中を見ていなかった。
足を玄関の方に向け、動かしながら電機のスイッチも入れた。
「ん?」
ポストの中に夕刊以外の物が二つ入っていた。
一つは紙切れだが、もう一つは何かが入った箱だった。
「よいっしょ」
と声を発しながら、ドアのに低めの位置でくっ付いているポストに手を伸ばし、近くにあった紙切れを手に取った。
そこには
「請求および寮長指導について」
と書かれており、ドアの修理費で2万5千円必要になった、指導ポイントが今回の件で5溜り、それが20溜まると指導対象になることまで書かれていた。
「今回の件は俺じゃなくてミヨの仕業だろ」
と呟いても今更だった。
「あともう一つはなんだ」
と気を入れ替えて手を伸ばした。
それは驚くべき人間からの贈られ物であった。
家でもほとんど話さず、居ても居なくても同じそんな人間の名前が送り主の欄に書かれてあった。
「お、親父」
更新遅くてすいません><
もっと早くなるよう努力はしますので応援よろしくです