四時間目
「以上~この教室は~この45人の~皆で1年間、すごしま~す」
緩すぎて脳みそが溶けてしまいそうになる喋り方で始まったホームルームは、たった45人の点呼を取るだけで10分も消費をしてしまい、1-2の生徒だけ走って保健室に向かった。
「なな、なんだか、今日僕、走って、ばっかな、気がする」
息が切れてしまい普通にしゃべれない。すると当然ミヨからの罵声が飛び交う。
「男ならもっとしっかり走りなさいよ。息まで切らせて、だらしない」
言い返す言葉も無く、火音に助けを求めてみて見ると、
「うわー、あの胸で走れるのか~」
揺れる酒刃先生の大きな胸を見て関心しながら見蕩れていた。
「イメージ崩れるは、結構いい顔してるのに。私の好みではないけど」
「ご、ゴメン、最後の方、なんて言ったか、きき、聞こえなかった」
息が切れながらでは、うまく聞き取ることが出来なかったので、恐る恐る聞いてみると、
「いいわよ、別に、あんたに聞いて欲しくて喋ってるんじゃないし」
何か怒ったような口調で答えが返ってきたので、
「ごごご、ごめん、なさい」
いちよう謝っておく。なぜかも分からずに。
やっとのことで保健室に到着。
「ひ、広いのも、いいけど、い、急ぐ、時には、困るね」
完璧に肩で息をしながらそうつぶやく。
「確かに結構キツイよな」
火音は全くしんどそうな顔をせずに言ってくれた。
「しょせんこの程度の距離で何を言ってるんだか」
どうやらミヨに、『人への優しさ』と言う言葉は無いようだ。
「まぁそう言わずに。マサもそこそこ頑張ってるようやし」
『やっぱり火音は優しいなー』
的な感動に浸っているとミヨが
「何やってるの、早く来なさいよ、そこで一生立っときたいなら話は別だけど」
棘のある言い方で僕を我に返してくれた。
「ご、ゴメン、考えことしてて、気がつかなかった」
すっかり治まった息を唾ごと飲み込み、保健室にゆっくり入っていった。
中にはすでに、武帝学部である全4クラスが椅子に座っていた。2組を除いて。
「みなさ~ん、早く出席番号順で座ってくださ~い、お喋りしないでね~」
相変わらずの口調で生徒を席に座らせている・・・ように見えるかもしれない。
しかしそれは全く違う。実際1-2の生徒を座らせているのは、1-1担任 小蓑 雄二である。
正確には彼の目線である。
彼はこの学校で5本の指に入るぐらい厳しい先生として有名であり、その事はこのヘタレでさえ知っているほどである。
そんな彼が1-2が遅れている事によりすでに怒っているのだ。
『急がなければ殺られてしまう』
そう本能が感じるほどに。
その中に僕は一番最後で入ってしまったのだ。
『なるほど皆急いでるわけだ』
なんて思いながらそそくさと自分の席に着く。足をガクガク震わしながら。
「ようやく全クラスがそろいましたね酒刃先生」
イヤミっぽく小蓑が言う。
「すいませ~ん、出席とるのに~時間かかって~しまいまして~」
それをまったく気にせずに酒刃先生は答えた。
「はぁー、あなたと居てはこちらがなぜか疲れる」
小蓑はため息を大きくひとつしてからさらにイヤミっぽく言う。
「ほんと~にすいません」
やはり気にしない。
「それでよく教師になれましたね」
止めればいい物をさらにイヤミの連打。
それを見かねた1-4担任の 池崎 名越が
「まあまあ、そろそろ始めないともっと遅くなってしまいますよ」
と、仲介に入る。
「それもそうですな」
小蓑の納得で今回の勝負は幕を閉じた。
「えー、ごほん」
と小蓑の咳払いから説明は始まる。
「難しくアビリティーの検査と言っても、君達の血液を採取してそれを機械にかけるだけなので、君達は血を抜くだけだ」
後ろの席から、
「ようする採血だよな」
と火音の声がした。
「そ、そそ、そう、だね」
やばい。
注射なんかしたことない。
小学校の強制予防注射は風邪とか何とか言って休んだ覚えがある。
裁縫の時でさえ針を指に刺したことがないぐらいだ。
つまり、物心ついた時から針を体に刺されたといえば、蚊ぐらいしか思いつかないのである。
「ん?どうした?顔色悪いぞ」
火音が優しく聞いてくれるが、いくら火音とは言え採血が怖いなんて言えない。
「いい、いや、だだだ、大丈夫、だよ」
言うってしまった。
ここで『怖い』と言っておけば、火音が助けてくれたかもしれないのに。言うってしまった。
「そうか、ならいいけど」
火音は心配そうに背もたれと背中を合わせた。
やばい、やばい、やばい、
心が『やばい』一色になったところで僕の番がきた。きてしまった。
「おい、マサの番だぞ」
火音が方をポンポンと叩きながら教えてくれる。
「う、うん」
椅子からゆっくりと立ち上がる。
覚悟を決め、保健室の先生に向き合う。
「そこに座って、袖をまくってね」
言われたとおり、椅子に座って袖をまくった。
なおも心臓はバクバク言っている。
「腕をここに置いてね」
と言いながら台をポンポンと叩く。
「は、はい」
そこで保健の先生の手元を見てしまった。つまり、注射器を見てしまった。
「ねえ、大丈夫」
どんどんと先生の声が薄れていく。
視界がぼやけ真っ暗になっていく。
採血が怖くて失神か・・・クラスの笑いもの決定だな。
薄れていく意識の中、心でつぶやいた。
ようやく更新です。やっぱり遅いですね。すいません><
次もがんばって書きますので応援よろしくです。