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断罪なき日常の始まり -断罪イベントが成立しない世界で、悪役令嬢は語らないー  作者: 南蛇井


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第4話 正義を行わなかった者の罪

王宮前広場。

かつて断罪を「見上げる」ための場所だったそこに、

今、人々は王子を見上げていた。


違和感は、最初は小さなものだった。


「……説明がない」

「なぜ断罪が行われなかった?」


誰かが疑問を口にし、

それが次の疑問を呼ぶ。


「王子は何をしていた?」

「神官は? 宰相は?」


そして――

矛先は、自然と一人に集まっていく。


アルグレイト王子。


彼は壇上に立っていた。

だが、そこは“正義を宣言する場所”ではない。


説明を求められる席だった。


「逃げた罪人を、なぜ追わなかったのですか」


民の代表として前に出た老商人が、

丁寧だが鋭い声で問う。


「断罪とは、王家が保証する正義の儀式」

「それを成立させられなかった責任は、どこにある?」


王子は答えられなかった。


逃げた?

違う。

彼女は逃げていない。


だが、その説明をした瞬間、

王家が断罪を“不要”と認めることになる。


それは――

制度の否定だった。


沈黙。


その沈黙が、

民衆にとっては何よりの答えだった。


「……王子は、迷ったのでは?」

「情に流されたんじゃないか?」

「貴族同士で庇い合った?」


声は徐々に、

問いから糾弾へ変わる。


王子は、かつて断罪の場で

罪人に向けてこう言う役割だった。


「沈黙は、罪の証だ」


今、その言葉が――

自分に返ってくる。


「王子!」

若い男が叫ぶ。


「あなたは正義を選ぶはずだった!」

「それをしなかった!」

「なら、誰が責任を取るんだ!」


責任。


それは今まで、

常に“断罪される側”が負うものだった。


王子が責任を問われる世界など、

誰も想定していなかった。


「私は……」


声が、かすれる。


「私は、正義を……」


言葉が続かない。


なぜなら彼は、

初めて理解してしまったからだ。


断罪とは、

選択ではなかった。


王子である以上、

やるしかない行為。


正義を演じることで、

王権を維持する装置。


だが、それを行わなかった瞬間――

王子はただの「判断を誤った一人の人間」になる。


「王子は間違えたんだ!」

「断罪を行わなかったせいで、街が不安定になった!」

「責任を取れ!」


その声に、

もはや“反逆”の色はない。


要求だ。


王に、

王子に、

制度の保証人に対する。


王子は、ゆっくりと顔を上げた。


民衆の目には、

期待と怒りと恐怖が混ざっている。


彼らは問うているのだ。


――王権は、まだ機能しているのか?


「……私は」


アルグレイトは、初めて“王子として”ではなく、

個人として口を開いた。


「私は、誰かを裁くことが、

正義だと信じていた」


ざわめきが走る。


「だが……」

「裁かれる者が、裁きを必要としなかったとき」

「それでも裁くことが、正義なのか……」


その瞬間、

民衆は理解してしまう。


王子は、

迷っている。


迷う王子。

迷う王権。


それは、

最も民を不安にさせる姿だった。


「そんな王子に、国を任せられるのか?」


誰かが呟いた。


その言葉は、

刃よりも深く突き刺さる。


断罪が消えた世界で、

次に揺らいだのは――

王そのものだった。


そして遠く、山の上で。

ディアナはまだ、荒行を続けている。


彼女は知らない。


自分が王を裁いていることを。

ただ「自分の罪」と向き合っているだけで、

王権の正当性そのものを削り取っていることを。


正義は、

もう壇上に立っていない。


それを失った王子は、

民衆の前で、

初めて“裁かれる側”になっていた。

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