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断罪なき日常の始まり -断罪イベントが成立しない世界で、悪役令嬢は語らないー  作者: 南蛇井


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第1話 断罪より先に、彼女は自らを裁いた

断罪イベントとは、本来――

悪役令嬢の意志に反して行われるものだ。


王子の告発。

ヒロインの涙。

貴族たちの糾弾。

そして舞台装置のように用意された「裁き」。


それが物語の“始まり”であるはずだった。


――しかし。


今、王都郊外の岩山で繰り広げられている光景は、

そのすべてを根底から覆していた。


裸足。

薄衣一枚。

滝に打たれ、岩の上で正座したまま、

悪役令嬢ディアナは微動だにしない。


大荒行。

否、もはや苦行と呼ぶべきものだった。


「……ディアナ、なぜだ」


王子アルグレイトは、言葉を失っていた。

剣を握る手が震える。

これは彼の知る“物語”ではない。


隣に立つヒロイン、サーヤも同様だった。

彼女の瞳にあるのは、勝者の余裕でも、正義の確信でもない。

ただ純粋な――困惑。


「断罪は……まだ、始まっていないはずなのに……」


そう。

おかしいのだ。


物語が始まる前から、

断罪だけが先に進行している。


「やめてください、ディアナ様!」


サーヤの叫びにも、彼女は反応しない。

唇はわずかに動き、かすれた声が滝音に混じる。


「……足りません……まだ、贖いが……」


その言葉に、宰相ジルドは顔色を変えた。


「これは正式な裁きではない!」

「このままでは、命を落とすぞ!」


彼は岩場に膝をつき、頭を下げた。

宰相が、悪役令嬢に。


「お願いだ……今すぐやめてくれ」

「王宮で、正式な断罪を受けてくれ!」


――それは懇願だった。

制度を守るための言葉ではない。

人としての、叫びだった。


だが。


ディアナは、滝の中で静かに目を閉じたまま。


「……それでは、足りないのです」


その声は弱々しい。

だが、意志だけは鋼のように固い。


「あなた方が用意した断罪は……」

「わたくしが望む裁きではありません」


王子は悟った。


この物語は、

「悪役令嬢を裁く話」ではない。


――悪役令嬢が、世界を裁く話なのだと。


そして誰も知らない。


この荒行が終わったとき、

断罪イベントそのものが、

もはや成立しなくなっていることを。


物語は、

誰も望まない形で、

静かに、しかし確実に――狂い始めていた。

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