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11.本と距離

『ことりぞく……ハラヌスこくの南がわ、アウェス森林しゅうへんに生そくする、色とりどりのつばさをもつしゅぞく。木のみやくだものをたべ、それぞれのむれできょうりょくしながら生かつをする。せいかくはおんこうで──』


 大きな文字を指先でなぞりながら、モモは眉をひそめると首を傾げた。


「……分からない部分は尋ねろ、って言う割には、随分易しいじゃない。項目も少ないし……」


 まさかわたしをバカだと思ってるんじゃないでしょうね! とぷんぷん怒りながら、またちいさな指先で書見台の上に置かれた本のページを捲る。文字よりも絵の比率が大きいそれは、どの項を見てもとても色鮮やかだ。

 ちいさな身体は赤く艶やかなベルベットのソファにすっぽりと収められていて、床につかない足がぷらぷらと揺れる。その色鮮やかな桃色を纏う姿がすぐに目につかないほどには、書斎は広く荘厳だった。


 柱には豪奢な油絵が飾られていて、モモの背丈の何倍もある木製の本棚が部屋を囲み、一部の分厚い本は鎖で棚と繋がれている。部屋の隅の螺旋階段は吹き抜けの二階部分へと続き、そちらにも所狭しと本が並べられていた。

 んん、と固まった身体をほぐすように伸びをして、モモはまた紙面へと目を落とす。


 一波乱あった食事を終えるなり、カゲは城に用があると言ってすぐに屋敷を出て行ってしまった。それも、モモの食事には執拗に口を出したくせに、自身は水すら口にすることなく。

 呆気に取られていれば、マークがおずおずと教えてくれた。


『あー……旦那はこの世界じゃとても珍しい種族の先祖返りで、食事は月に一度くらいで十分なんですよ……お陰でね、あたしも全然作り甲斐がないんですがね……』


 しょんぼりと肩を落とすマークは、もしかしたらモモに料理人としての腕を奮うのを楽しみにしていたのかもしれない。

 申し訳ない気持ちを抱きつつ、そういえばこの屋敷に向かう馬車の中でネココがそんな話をしていた気がする、とモモは思い返した。とはいえあの時はいっぱいいっぱいで、正直内容はあまり覚えていない。

 今度会ったらまた教えてもらおうと考えつつ、モモは目下、とにかく用意された本に向き合わなければならなかった。


『──どういう理屈だか知らねェが、オマエはこの国の言語に不自由してねェだろ。こっちの世界の小鳥族に関する書籍を用意させた、食事量の他にもオマエの生態との差異があれば必ず教えろ。面倒くさかろうが隅々まで目を通せ、分からねェ部分は逐一聞け、いいな』


 有無を言わさない態度でそう言いつけ、さっさと出て行ってしまったカゲの姿を思い出して、モモは小さくため息をついた。


 ──まさかお母さんに字を教わっていたのが、こんなところで役に立つなんて思わなかったわ。


 記憶も残らないような頃に亡くなってしまったモモの父は、昔他の群れから入ってきたらしい。コトリ族は群れごとに規模や特性に差があって、父が以前いた群れは知識を大切にする習慣があった。

 その時に幾らか持ち出した特殊な葉でできた本の内容や、一部の他種族との交流の記録は、母から父の思い出としてモモに受け継がれている。

 馴染みのない屋内での生活や、使ったことのない家具達に必要以上に狼狽せずに済んでいるのも、元の世界の裕福な他種族が似たようなものを使っていたのを記録から知っていたからだ。


 ……ずっと昔に喪って、世界さえ隔ててしまっても、両親が与えてくれたものが今のモモを助けてくれている。そう思うと胸が締め付けられて、モモは優しい手つきで紙面を撫でた。


 ネココやあの三人衆からは、当分怪我の療養に専念、他のことは二の次、と口すっぱく言われているけれど、早くこの世界のことをたくさん学んで──いつか、もう監視はいらないと判断されて身一つで放り出されても、生きていけるようにならないと。


 ──もしもその日が来たら、わたしはやっぱりこの世界のコトリ族のところへ行くことになるのかしら。


 けれどこの世界のコトリ族の記述に目を通して、描かれた色とりどりの翼を見ても、何故だか最初ほど焦がれる気持ちが湧き上がらなくて、モモは内心で首を傾げた。

 あれほど群れに受け入れられることを、想い合える相手を見つけて自分の家族を持つことを切望していたはずなのに、どうしてだろう。

 疑問を抱きつつ、はっと我に返って首を横に振るとまた紙面に目を落とす。とにかく今はこれを読みきらなければならない。


 ──そうして一生懸命字を追う姿を、物陰からひっそりと見つめる三つの影があることに、モモは気がついていなかった。



(アアッモモ様、首を傾げていらっしゃったワワワ……!)


(異世界からいらっしゃったんですもの、コチラの本が読みにくいのも当然ですのヨヨヨ)


(やっぱりご主人から渡すよう指示された本、こっそり易しいものに変えて正解でしたわネネネ……。『小鳥族の生態研究総集編』……いくらなんでも、モモ様にはまだ早すぎますワ)


 自分が本の虫だからってありえないワワワ、内容も生々しいですのヨヨヨ、本当に根っからああなのよネネネ、というひそひそ声を背に、モモは真剣な表情でまた一枚ページを捲ったのだった。




 ──はっと顔を上げれば、窓の外はすっかり暗くなっていた。与えられた本も読み終わりどうしようかと思っていたところ、三人衆が差し出してくれた童話が面白くてつい読み耽ってしまった。

 本なんて高級なもの、恐ろしくて勝手に触れて物色できるはずもない。選んでもらえて助かったわ、と息を吐きながらそろりと分厚い表紙を閉じれば、物語の余韻もそっとその中に仕舞われるようだった。


 ……人々に忌避される見た目で生まれ、幽閉されていた青年。それでも愛し愛されることを諦めず、やがて外へ出て人々のため魔物と戦い、最後には魔王から救い出したお姫様と結婚して、英雄として幸せに生きる──


 ラストシーンの挿絵では、歓声を上げる民を前に寄り添い合う二人が精巧に描かれていて、モモはつい感嘆の声を上げてしまったほどだった。

 どの世界もやっぱりこういう話が人気なのね、と幼い頃母が語ってくれた寝物語を思い返して口元をゆるめていれば、ガチャリと重厚な書斎の扉が開かれる音がして、モモはぱっと顔を上げる。


 あの三人かしら、という予想に反して、足音もなく部屋に入ってきたのは相変わらずの黒い姿だった。


「っあ、……お、おかえりなさい、カゲ」


「……」


 咄嗟に出たモモの迎えの言葉に、カゲは微かに目を見開いた。それを不思議に思う間もなく、あァ、という小さな応えと共に影に紛れてしまいそうな姿が近付いてくる。

 その視線が書見台の上に置かれたままの童話に注がれていることに気が付いて、モモははっとすると大慌てで弁解した。


「ち、違うわよ! 読むように言われた本はちゃんと読み終わったんだから! これはあの三人が選んでくれたから……っ」


「……別に何も言ってねェだろ。ここの本はオマエの好きにしていい」


 事もなげにそう言ってのけるカゲに、モモは言葉を失った。鎖で繋ぐほどの価値があるものを、モモみたいな余所者に好きに触れさせるなんて信じられない。財産があるから、何かあっても痛手ではないということなのだろうか。

 戸惑うモモを他所に、カゲは童話の表紙を見つめたまま何かを考えているようだった。その瞳に浮かぶ色が複雑な感情を宿した気がして、モモは目を瞬く。


「あ……そ、その、この本、なかなか面白かったわ! 逆境を乗り越える英雄譚って、どの世界でも人気があるのね。貴方も読んだことがあるの?」


 あの三人衆曰く、粗野な印象に反してカゲは本が好きらしい。貴族らしい娯楽の殆どに興味を示さない主人が、唯一私財を割いて蒐集するものなのだと。

 粗野な口調で口数も多くはなく、何を考えているのか分からないこのひとも、好きなものに関してなら少しは話してくれるかもしれない。

 そんなモモの期待に反して、カゲの返答は淡々としたものだった。


「……母親が好きで、昔はよく読まされてた」


「、……おかあさまが?」


 モモはぱちぱちと目を瞬いた。何だか、卵から産まれてひとりでここまで育ちましたと言われても納得してしまいそうだったけれど、当然ながらカゲにも両親がいるのだ。少しだけ親近感が湧いて、モモは声を弾ませた。


「とっても素敵な思い出じゃない。ご両親は今はどうされているの?」


「……」


 黒曜石の瞳が細められて、その無骨な指先がそっと分厚い表紙に触れる。呟かれた低い声は、まるで吐き捨てるようだった。


「──……死んだ。ずっと昔に」


 どろり、とその瞳に映る色が濁る。今目の前にある景色ではなく、遠いいつかを見つめているような表情に、モモは息を呑んだ。


「あ、……そ、その、ごめんなさい」


 無神経なことを聞いてしまったわ、というモモの小さな声に、別に、と淡々とした応えが返ってくる。


「この本のことだって、そういい思い出でもねェよ。別に好きな話じゃなかったからな。……主人公の野郎は美化されちゃいるが、最初から最後まで自分のことしか考えてねェだろ。鎖を千切って外へ出て、自分の利用価値を示す為に魔王を殺し、その武力と引き換えに惚れた女を要求する」


 王女に拒否権も逃げ道もあるはずがない、一生飼い殺しの人質も同然だ、と押し殺したような声で呟いたカゲは、哀れだよな、と嘲笑した。何だかその姿が痛々しく思えて、モモは拳を握ると意を決して言い返した。


「そ、そんなに穿った見方をすることないじゃない! どんな理由でも魔王が倒されて、沢山の人が助かったはずよ。このお姫様だって、主人公のことが好きなら何も問題ないもの」


「……」


 勢い込んでそう言ってから、架空の物語に何をこんなに必死になっているのだろうと、気恥ずかしくなってモモは視線を彷徨わせた。けれど……吐き捨てるようなカゲの声色に、どうしてだか悲哀が滲んでいるように感じたから。

 落ちた沈黙に居心地の悪さを覚えていれば、表紙に置かれていた指先がふと動いてそのまま本を持ち上げる。つい目で追った先で、黒曜石の瞳が得体の知れない感情を宿してこちらを見下ろしていた。


「……用意させた本、読んだっつってたな。どうだった」


 脈絡のない問いかけに目を瞬いてから、こちらの世界のコトリ族に関するあの本のことを言っているのだと思い当たる。戸惑いつつも、モモは素直に頷いた。


「え、ええ、ちゃんと読んだわよ。違いがあれば教えろって言っていたけれど……翼の色以外、ほとんどわたしのいた世界と変わらなかったわ」


「……全ての項に、端から端まで、目を通したんだな?」


 念を押す様に確認されて、モモは内心で首を傾げた。そもそも綺麗な絵ばかりで、あの本には大した情報はなかったはずだ。細かいところは生活する中で擦り合わせていけばいいってことかしら、とモモは考えていたのだけれど。

 何にしても、あんな易しい本を投げ出したと思われているのは不本意だった。


「もう、だからそう言ってるじゃない! あれくらい、わたしにかかればすぐなんだから」


「……」


 細められた黒曜石の瞳から、じっとりと焦げ付くような視線が降り注ぐ。その瞳の奥に煌々と燃え盛る激情を見てとって、モモはぴっと肩を跳ねさせた。

 何かおかしなことを言ったかしら、と狼狽していれば、カゲがふと静かに口を開く。


「──オイ、オマエ、今いくつだ」


「……、ぴっ!? き、急に何よ!?」


 上擦った声を上げたモモに構わず、黒曜石の瞳は黙ってこちらを見下ろしたまま返答を待っている。答えるまで許してもらえそうにないその威圧感に、モモはうろうろと視線を彷徨わせた。

 そもそも、本来ならとっくに成鳥になっているべきなのは見れば分かるはず。元の世界で相手にされず、未だに幼鳥の姿でいることを、誰だってわざわざ自分で口に出したくはない。変な汗をかきながら、モモはか細い声を絞り出した。


「っだから、その……──ち、で……」


「あァ?」


「〜〜〜っっっ今言ったんだから二度目はないわよ! そもそも聞かなくたっていいじゃない、見ての通りなんだからーー!!」


 耳の先まで真っ赤にして息を切らせながらそう叫ぶモモを、カゲは理解できないものを見るかのような目で見下ろすと、あろうことかため息を吐いた。

 レディに年齢を聞いた挙句にため息を吐くなんて、と真っ赤になってわなわなと震えていれば、その黒い姿が身を翻して奥の本棚の方へ向かっていく。


 睨むように目で追っていれば、モモではとても届かないような高い場所、ひとつ空いた隙間にその指先で童話がゆっくりと押し込まれ、トン、と本が最奥を叩いた。いやに目に残る丁寧な仕草で、指先が背表紙の題名を撫で落ちていく。

 そのまま動かなくなった後ろ姿に、モモはふと不安になって、怒っていたのも忘れ躊躇いがちに声をかけた。


「カゲ……? あの、戻してくれたの? ありがとう」


 モモの声にちらりと目線だけ寄越すと、オマエじゃ届かねェだろ、という無愛想な返事が返ってくる。応えがあったことに安堵したのも束の間、どこか冷えたその声にまるで見えない線を引かれたようで、モモは胸元で手を握りこんだ。


「……元々、オマエの部屋の用意が整ったから呼びに来ただけだ。もう戻れ、今夜からは食事も部屋に運ばせる。当面は怪我の療養のことだけを考えて生活をしろ」


 不自由があれば必ず言え、いいな、と有無を言わさない口調で言いつけられて、モモは迷った末結局何も言えずに頷いた。実際用意してもらった薬はとても効くようで、大きく動かさなければ痛みも随分減ったし、きっとすぐに治って飛べるようにもなるだろう。

 手当のお礼を伝えようとして、けれど黒曜石の瞳が酷く陰を帯びていたから、結局口の中で転がすだけで終わってしまった。



 ──書斎の重厚な扉の向こうで、三つの姦しく甲高い声が響き渡る。先ほど出ていったばかりの、桃色の小さな姿と合流したらしいそれが遠ざかっていく音に耳を澄ませながら、灯りを失った部屋の中でカゲはぼんやりと立ち尽くしていた。少し色褪せた童話の背表紙も、暗闇に紛れて字がぼやけて見える。


 ありふれた英雄譚に紐づいた懐かしい記憶が連れてくるのは、己の頭を撫でる手の温もりと、文字をなぞる嫋やかな指先。

 辿々しい声で物語を追えば、褒めるようにその口元に笑みが浮かんで、そうして──……次の瞬間に、糸が切れたように、その姿がどさりと床へ崩れ落ちる。


 呆然とする中、手に生暖かいものが触れて。広がるのは赤い、赤い──



「……ッ」


 鋭い痛みで我に返れば、拳を強く握り込んだせいで爪が食い込んで血が滲んでいた。それを焦点の合わない瞳でぼんやりと見つめてから、覆い隠すようにゆるく指を畳む。

 目を閉じれば、身勝手な英雄を必死に擁護するいとけなく甘い声が脳裏に響いて、口元に自嘲的な笑みが浮かんだ。


「……成鳥まであと十年かそこらか。『好きなら問題ない』ね……、ッハ、やっぱり哀れじゃねェか──可哀想にな」


 吐き捨てるように呟かれた小さな声は、誰に拾われることなく闇に溶けて消えていった。





「……それではモモ様、今夜はいい夢が見られることを祈っておりますワワワ!」


「明日からはお部屋でごゆっくりお過ごしいただけますのヨヨヨ」


「お食事は本ッッッッ当に、これだけで宜しいんですのネネネ? ……わかりましたワ」


 角度までそっくり同じのお辞儀をして部屋から去っていった三人を見送ると、抵抗を諦めされるがままに世話を焼かれていたモモはふうと息を吐いた。


 ──お世話をされるのにも、慣れちゃいそうで怖いわ。しっかりしなさいモモ、わたしはただの余所者なんだから……


 そこまで考えてから、モモは改めておずおずと部屋の内装を見回した。てっきりモモを探すために荒らされてしまった部屋を掃除してくれただけだと思っていたけれど、それだけには留まらず、家具のいくつかがより小柄なものへと変わっている。

 その中でも一番変化が目立つのはベッドで、大きな丸い桶のようなものの上から桃色の布の天幕が降ろされ、その中にはふかふかのクッションがたくさん敷き詰められていた。クローゼットの中と同じくらいの大きさで、けれどそれとは比べ物にならないほど上質な寝床だ。


「……これ、まさかわたしが狭いところが落ち着くって言ったから……?」


 半信半疑に呟いて、おそるおそるクッションの柔らかさを確かめる。酷く手触りのいいそれに感嘆の声を上げて、吸い込まれるように身体を入れれば、小さなモモは埋もれてしまいそうだった。

 きゅうと丸まれば、桃色の幕で遮られた視界と程よい窮屈さがとても心地良くて、モモはほうと安堵の息を吐いた。手近なクッションを手繰り寄せて、ひどく肌触りのいいそれを抱きしめるともふりと顔を埋める。もう何度浮かんだかも分からない疑問が、ふとくぐもった声でこぼれ落ちた。


「本当に、どうしてこのお屋敷の人達は、……あのひとは、わたしにここまで良くしてくれるのかしら……」


 モモは、事故で喚び出してしまったただの監視対象で、厄介な余所者のはずで。……こんな風にしてもらったって、モモには何も返すことはできないのに。

 少し前に話したばかりのカゲの顔を思い浮かべて、それからどこか遠くを見るような、どろりとした声と表情を反芻する。


『──……死んだ。ずっと昔に』


 きゅうと胸が締め付けられて、クッションを抱きしめる細い腕に力がこもった。


「……少し境遇が似ているから、わたしに同情している、とか……?」


 けれど、あのひとが時々向けてくる焦げ付くような視線は、それとはまた違うもののような気がする。本当に、顔は怖いし口数は少ないし、喋れば皮肉ばかり。それなのにモモのことは必要以上に丁重に扱うのだから、何を考えているのか全然分からない。


 ……でも。


 柔らかなクッションの中でころりと寝返りを打って、指先に落ちてきた桃色の羽根をくるくると弄ぶ。

 まだ、あの鱗と大きな尾を見ると、どうしても身構えてしまうけれど──あの、いつもこちらのことを真っ直ぐに射抜く焦げ付くような視線に相対すると、胸の底がじりじりと灼かれるような感覚がする。

 不思議と不快ではないそれが、一体何なのかは分からないけれど、モモはひとつ自分の中で確かな変化を感じていた。


 ──わたし、この世界のことを……あのひとのことを、もっと知りたい。


 そうしたら、何を考えているのかぜんぜん分からないあのひとの心も、少しは理解できるのかしら──と。

 ふわふわとした頭で考えているうちに、モモの意識はほどけるように暗闇に沈んでいったのだった。


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