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しぃーそぉし~ん  作者: おきついたち


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6/6

おまけ話「水曜日」

今は別クラスだけど、雪代は前川・高玉と一緒に下校することが多い。

中学の時は同じクラスだったし3人とも本好き。

放課後になると空き教室に居残って、お気に入り作品の感想を言い合ってた。

でも。

慣れた通学路とは言え、今の雪代は白杖を使っての移動に時間が掛かるから。

とりあえずバスで駅まで行って。コンビニや駅前ベンチでダベって解散。

それから雪代はシェア本屋へ行って、補助器具を借りて読書していたけれど。

春真と暮らし始めてからは、まっすぐ部屋へ帰るようになった。



コンビニチキンをぱくつきながら前川が訊く。

「居候生活は上手く行っとおん?」

「えー?まあフツー」

「普通う?全然他人といきなり一緒なンやで。

気ぃ遣うたり、気に障るコトとか色々有るやろ?しかもそれが毎日とか。

オレやったら絶対無理やワ」

「ん-せやけど小鉄は大雑把やからなあ。

全然細かいコト気にせえへんし。結構気楽にやっとるで」

「共通の話題とか無いやろお?飯食べてから後はどぉしとるん?」

「えー?」

(どお、て…)ふわと受け流していた雪代もさすがに言葉に詰まる。

前川と高玉の表情を視ることが出来ないから。

2人がどんな興味度合で質問してるのか測りかねるけれど。

2人の性格からすると、単純に自分を心配してくれてるのだと思う。

でも、だからと言って。

(言えるワケ無いやんか~)

心臓が汗をかいてしまいそうな動揺を、雪代は必死で押し隠す。


「あーえっと。

今はオレのギプスのせいで結構いろいろ面倒で。

気ぃついたら時間経っとって。すぐ寝る時間なってまうカンジ」

「そっかあ。最近のギプスはガラス繊維とか素材良おなった言うけど。

濡らさんよーに風呂入るんも大変やんなあ」

「そおやねん。

着替えするンも結構大変やし。生地伸びるジャージでも邪魔クサイで」

えへへと誤魔化し笑いをしつつ雪代は話を合わせる。



そう。始めは体育ジャージで通学していたけれど。

春真が洗い替え用の黒ジャージを買って来てくれた。

それを着て登校した時、クラスの評判は上々。

「おー!それエエやん。ダボついてへんし形良えなあ」

「さすがにあの古い体ジャーはヨレヨレやったもんな」

「コレどこで買うたん?

昨日のちょお紺色が混じっとるみたいなンもカッコ良かったけど。

このサイドに灰色ラインが1本つーのンも良えなあ」

雪代自身は視えないから、何がどう違うのか判らない。

でも、何度か部屋に遊びに来た雪映とその友達によると。

春真はかなりオシャレらしい。

かと言ってブランド固めでも無いし、イマドキ風ばかりでも無い。

ただ自分の好みがハッキリしてて、チョイこだわりのある着こなし。

休日ならピアスやアクセサリーも必ず着けて。

何が自分に似合うのか、キブンを上げてくれるのかを判ってるセレクト。

そんな春真が選んでくれたのだから、まあ悪くはナイはず。

そう雪代は思っているし、実際着てみるとサイズもぴったり。

だから珍しく素直にありがとなんて伝えてしまうと。

「そらそおや。

誰よりもオレが、雪代の身体ンこと知っとるからなあ」

「すけべは言い方すんなっ」

「前よりちょおっと肉付き良おなったけど。

ほらなあ、まだ腰骨が出とって。ウエスト66か68くらいやんな」

そう言いながら背中から抱き締めてきて、あちこちぺたぺた。

おまけに首筋にキスキスキス。

「だーーーっ!!んのあほっ!すけべっ!変態っ!離せぇ」

「あかんあかん。手ぇ離してひっくり返ったら、また大怪我や。

大事に大事にベッドへ運ばせてイタダキマスう」


そんなカンジでじゃれ合って。

最後はうっとりするようなキスを長く長くして貰って。

おやすみ、と頬を撫でてて貰う。

そうすると。その日何か心がチクチクするようなコトが有ったとしても。

棘はいつの間にか溶けてしまって。

エエ気分やなあ…と思いながら、ぐっすり眠れてしまう。




だからこそ。

(そんなコトこの2人に言えるワケ無いやんか~)

気持ちは焦るけれど。

友達の心配も有難いコトだし、雪代はちょっと真面目な顔を作り直す。

「そのぉ上手く言えへんけど。

家や学校やとやっぱ『前は視えとったのに、視えンよおなって大変や』て。

気遣うて貰うコト多いやん?

せやけど小鉄は、視えてへんオレしか知らんせいか。あんま言わんねん。

『あーそおなんや』って感じでサラって流してまうねん。

それが却って軽うてユルーい空気で居られるンかも」

「ふううん」

「そおゆうモンなんかあ」

「まあそれに。一時的な居候やからな。

上手く行かへんなったら、いつでも家戻ればエエんやし。

そんな深ぁに考えてへんもん」

「そおやな」

「けど、そおなる前に。何ンか困るコトあったらいつでも言いや」

「せやで。話何ンでも聞くからな。協力出来るコト有ったらするしな」

「うん。ありがと」



そうしていつものように、駅へ向かう2人と別れる。


片松葉杖に白杖と言うぎこちない体勢で、雪代はゆっくり部屋へ向かう。

駅前からほんの数分の距離だけど。今日はすごく遠く感じてしまう。

(一時的な居候て、自分で言うといて。

こんなに重い言葉とは思わんかったなあ。

ギプスが取れて普通に歩けるよおなったら。

親とか狭山さんからは何ンて言われるんやろ?

小鉄は何ンて応えるんやろ?オレは何ンて言えばエエんやろ…)

その答えが自分に見えないのは、視えないからだと思いたくて。

雪代はぷるぷると頭を振ると、自分達の部屋へ1歩1歩進んだ。




「はあ。ホンマに何ンて言えばエエんか。黙っとくんに苦労したワ」

「うんうん。せやけど今はまだアレコレ言う時ちゃうからな」

空いてる車両に乗り込んだ前川と高玉は、頭を掻き掻き苦笑する。

ほんとに何度ツッコミたくなったコトやら。

居候ちゃうやろ?単なる同居?いやいやソレ同棲やん!

そう言ってしまいたくなるほど、今の雪代は毎日楽しそうだから。


いくら学校や授業のフォローが整って来たとは言え。

本好き同士ずっと一緒につるんでいた前川と高玉からすれば、当然ながら

発症してからの雪代はすっかり変ってしまった。

不安や失望を見せないようにするせいで、表情も喋りもトーンダウン。

お気に入りの作品を語る熱はすっかり無くなってしまって。

3人でダベっていても、小さく笑って相槌だけ。

どれだけ重い現実が雪代に圧し掛かっているのかを2人は感じてしまう。

例えば。

そんなん目ぇ瞑っとっても出来るワ、なんて言葉が有るけれど。

そんなん大ウソだと知ってしまった。

瞑っていても瞑ってなくても視えないのは、すごい恐怖だと知ってしまった。

いつだって雪代は、恐る恐る不安そうな表情と動作で。

ひとつこなす毎に、緊張と疲労のタメ息で。

その様子を2人とも直視出来なくて辛くて。

雪代との間に、距離と遠慮が出来てしまっていたけれど。

ある日カバンからはみ出る、もこもこネックウォーマーを見せられて。

「今なあ本屋からの帰り、バイクで送って貰うとンや。

びゅうて風切ると、何あンか色んなモンどっかに吹き飛んでもて。

めっちゃ爽快なんや~」

そして久しぶりの全開な笑顔を見せて貰えて。

その時、前川と高玉は思ったのだ。

不安や緊張から雪代を解放してくれるのなら。

少々チャラ男でも、いきなりメンチ切るよーな男だろうが。許そおやないか。

余程のコトが無い限り口出しせず見守っとこおと。

それが今のところの2人の結論になったのだ。



「もお元通りとか以前みたいにとか、無理やもんな。

ほんなら別のやり方でも。木森が楽しいンやったら、それが一番やんな」

「そおやんなあ。

前は前。今は今。木森は木森。ホンマそれだけや」

ずっと胸に詰まっていたモノが溶け出て。2人とも軽く笑う。

「そおや、おまえの姉ちゃん腐女子やん。

そーゆー系ので、何ンつーか協力の仕方とか書いとお本無いん?」

「姉ちゃん悲恋系やからなーハピエン有るやろか。

そーゆージャンル今までバカにしとったけど、全然行けそーな気ぃするな。

一度読んでみよおで。お薦め本借りて来るワ」



文字好き2人は大真面目な相談顔だけれど。

フィクション引用知識は大抵「よけーなお世話」になるので要注意です。

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