表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しぃーそぉし~ん  作者: おきついたち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

おまけ話「月曜日」

換気扇の擦れるような音が小さく響く浴室を、雪代は手探りで歩く。

「エライ広い風呂場やなあ」

「やろぉ。義武叔父さんが仮眠に使うとった部屋やけど。

稽古から戻って、仕事する前にひとっ風呂浴びるンにリフォームしたんやて。

叔父さん、オレと同じくらい身長あるしなあ。浴槽もデカイわ」

「床も変った素材なんやな。冷たぁ無い」

「やなぁ。滑りにくいし丁度エエやん」

「ちょうどええ?」

春真は、雪代の手を取り腰に腕を回してくるりと回転。

そしてコツンと額を合わせる。

「2人で一緒に風呂入れるやーん」

「あほかっ風呂くらいヒトリで入れるワっ」

「せやけど、ギプス濡らすワケにいかんやろ」

「う…」

「ギプス濡らすとなあ、なかなか乾かんから固定力落ちるし蒸れるし。

夏やと、めっちゃ臭うンやで~地獄や」

「えらい詳しいな」

春真は雪代を抱き上げて、乾いた浴槽に座らせる。

「湯入れるンこの辺にして。何ンか台置こ、台の上に脚乗せたら濡れへんやろ。

ギプスにはラップ巻いてビニール袋で包むんやけど。これが滑るンや。

オレ、ガキん頃は捻挫とか骨折とかよおケガしたからな。

風呂の面倒さは判っとる」

「骨折て剣道で?」

「いや。稽古中は防具着けとぉから怪我なんかせん。

大抵は放課後遊んどって、鉄棒の上から落ちるとかなあ」

「上?」

「せんかった?空中歩行~言うて鉄棒の上をダダダって走るん」

「せんワーそんなん落ちるに決まっとるやん。あほやなあ」

浴室いっぱいに雪代の爆笑が響くから。春真も楽しくなる。



先日、義武叔父から鍵を渡された時。春真はガッチリ釘を刺された。

「おまえ、木森さんの息子さんと仲良えみたいやけどな。

相手はまだ高校生で、そんでおまえは半人前や。

しかもすぐ近くに居って、事故回避出来ひんかったんやからな。

判っとる思うけど。面倒見たるとか、偉そうに出来る立場や無いで。

相手のこと尊重して。しっかり対話しながら、やって行くンやで」

「仲良え言うか。オレ、雪代に惚れとおし」

いつも何事にも動じない義武叔父の顔が、一瞬強張る。

「…そンなら余計に気ぃ付けえ。

2人切りで逃げ場の無い状態で、追い詰めたりするンや無いで。

もし、おまえがあの子に」

「せやからっ。

オレは雪代に嫌われたあナイんや。絶対手ぇ出したりせん」

いつもなら義武叔父の圧に押し戻されてしまう、春真の言葉だけど。

今回だけは真正面からぶつけて、怯むことなく押し切る。

「そおか」

ふううっと深く息を吐くと。義武叔父は珍しく小さく微笑む。

「惚れた相手言うンはなあ。

ただ笑うて楽しそうにしてくれとぉだけで、こっちまで幸せになれるもんや。

自分が笑えるために、相手を笑わせたるんやで」

「斬られ役より、お笑い芸人なる訓練しとけば良かったンかな」

ちょっと照れ臭くて。春真はボケたつもりだったけれど。

義武叔父は静かな笑みのまま、仕事の続きに取り掛かる。

もう春真に言い聞かせるというよりは、独り言みたいに。

「大勢を笑わせんでもエエ。たったひとり笑うてくれたらエエんや」




だから。

骨折治療で自宅からの通学が不便だから、が理由ではあるけれど。

雪代との共同生活つまり同棲、新婚さん。

確かにちょっとは、そんな単語に浮かれたけれど。

義武叔父に言われるまでも無く、春真は強く心に決めていた。

(ホンキで惚れとぉて、まずは解って貰うんや)


自分で言うのも何ンだけども。

これまで春真は、付き合う相手に不自由することは無くて。

大抵その関係は、お互い様とか利害一致なカンジばかりで。

家賃や炊事の便利さとか性欲解消とか。何かしら割り切れる理由があったけれど。

今回ばかりは、春真自身どうして雪代なのかが解らない。

フツーに考えて、軽々しく選べる相手じゃない。なのに。

ちょっと「気になった」から、いつの間にか「隣に居たい」になってしまった。


カワイイ顔してビシバシつっこむ喋りは楽しいし。

バイクの後ろに乗せて、ぎゅうっと抱き着かれるとアドレナリン爆発だし。

風を切って走るンめちゃ気持ちええ~なんて、ワハっと笑顔を向けられると。

春真の心臓と呼吸は止まってしまう。

そこにはもう、付き合うことの得とか損とか。何かの理由なんて要らなかった。

もし雪代に「隣に居てもエエ奴」認定して貰えたら。

それこそ鉄棒の上を永遠に走って行けそうだし。

名も無い斬られ役が覆面主人公だと、スポットライトが当たる奇跡かも。


これまで何をやっても中途半端で。

ぼんやりと、自分にもよく視えなかった自分が。

狭山春真と言う唯一の存在に成れるような気がしている。




浴室のシャワーの位置や、シャンプーとトリートメントの区別印とか。

雪代は腕を伸ばして色々確認しながら、ぼそっと声を出す。

「春真」

「あ、え。何ン?」

「ぼーっとしてからに。

風呂場いうシチュエーションで、どーせスケベなこと考えとったんやろー?

こないだ自分が言うたコト覚えとおやろな?」

「何ん言うたっけ?」

「ギプスん間は何もせん、て」

口調こそ、いつもみたいにツッケンドンだけど。

雪代は真っ赤な頬で強がりながら、困ったように目を逸らしている。

それはどんなキモチからなのか、まだ春真には確信が持てないけれど。

胸の奥がくすぐったい。

(叔父さんが言うとった「対話せえ」て、こーゆーコトなんかな)

「キスはしてもええか?」

「あほっ今更訊くなっ。いっつも勝手にしとっ…」

ちゅと軽いキスとして、春真は雪代の頬をなでる。

「雪代がエエ言うまでは何ンもせん。

まずはな、雪代の隣に居るンがアタリマエな存在に成るんが目標や」

「オレの審査基準は高いで」

「はははっ!そんなら審査中もずーーーっと長ぁに隣居れるなあ!」

愛おしい、そんな言葉が春真の頭を過る。

ただただ雪代をぎゅうっと抱きしめる。

そして春真の背中に、雪代の腕も回って来たから。多分、望みは十分。

おまけに。

「そろそろ浴槽から出してくれや」

春真に抱き着く理由を、そんな風にわざわざ口にする雪代の火照った顔は。

やっぱりすごく可愛くて。

春真はキスせずには居られなくなってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ