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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

反例

作者: HORA

「お前なぁ。手間暇とお金をかけて何やってんだよ。何のメリットも無いだろうよ。」

「はぁ…。メリットって何ですか?」

「ん?普通はメリットとか考えて行動するだろうよ。こんなに沢山の人間がいてこんなバカバカしいことやってるのはお前だけだぞ。愉快犯だかなんだか知らねーがな。」

「…………」

「何だ?だんまりか?」

「あ、先輩。こいつメリットの言葉の意味が分からなかったんじゃないですか?」

「あぁ。何だ。そういう事か。」


道路交通法違反。迷惑防止条例。

高速道路にていたずらとも言える犯罪行為を他の車に仕掛ける。場所も時間も不規則であったため現行犯逮捕をする事は難しかった。何度も何度も犯行が行われ、全国NEWSにまでなる。警察の威信をかけて早期逮捕を狙い、大量の白バイや捜査員を投入。そして現在その犯人はとうとう捕まり、高速道路のパーキングエリアで数人の警察官に囲まれている。


「ほら。メリットって言ったら、、、あれだ!えっと、何だ?良いところか?自身がこれをやったら得するってことだ。」

「あれ…?えっと、何?良い所?か?自身?これ?」

「先輩…。たぶん通じてないみたいですね。」


捕まったのはまだ20歳になったばかりの青年。無免許運転。スーパー銭湯の会員カードから名前・年齢・住所が判明する。身長は150cmちょっと、小柄、というかガリガリな体型で体重は34kg。顔は老け顔で子供には見えないのだが、大きなバイクに乗りサングラスをかけていてアンバランスさが凄い。警官達に囲まれているその様子は、いかつい大人達の中に一人だけサングラスの少年がいる親戚の集まりかのようだ。


とにかく暑い日であったので、パトカーに乗り署へ。この犯人1人のせいで全国の高速道路の売り上げが目に見えて落ちてしまう程の悪質な犯罪。その犯罪行為は1種ながら多岐(たき)に渡る。高速道路上で狙われた車の特徴は窓を開けていた事。後部座席の窓が開いていたなら更に狙われやすい。そこに色々なものを放り込むのがガリガリグラサンバイク男の手口だ。しかも高速道路に入ってすぐや、パーキングを出てすぐの箇所で狙われているので安易に数kmは停車することが出来ない。


・車内にパンパンまで膨らむ割れない風船&ボンベ

・音楽プレイヤーとスピーカー(音量MAX)で大音量でアダルトDVDの音

・ペットボトル内に猛烈な異臭のする液体&蓋を開けて


非常に悪質。放り込まれたモノがモノだけに死者は出なかったが、


・スズメバチの巣

・大きい蜘蛛(大量)

・蛇(大量)

・ムカデ(大量)

・ゴキブリ(大量)


生き物が放り込まれた際に2件の死亡事故が出ている。運転手がパニックになり自損死亡事故。被害が大きかったのは前方の車に減速せずに突っ込み玉つき事故を起こし、2人の死者が出た事例もあった。



犯人を乗せたパトカーは署につき、そのまま取調室へ。

刑事事件であるので警察が記者クラブに逮捕の事実を伝える。報道では早速、

『高速道路上でいたずらを繰り返していた犯人が捕まった』

と速報が出る。しかし高速道路利用者は心の底から安心できない。こういった犯罪は模倣犯が出る可能性が高い。手軽に世間から注目を浴びるチャンスだと自身の風穴を開けたがる阿呆が出るかもしれないからだ。


一方、取り調べが続く中で犯人がその動機をぽつりぽつりと話していく。警察官はこれまで様々な犯罪者と関わってきているので、このタイプ(・・・)の犯罪者には強い言葉を投げかけてはいけないと分かっている。辛抱強く話を聞き出す。


「小さい頃から、家が貧乏で。えっと、人の持っているものが羨ましかった。」

「僕は何も持ってなかったから。」

「家では水しかなかった。」

「ずっとお腹が減っていた。」

「給食のためだけに学校に行っていた。」

「皆が給食の何を残すか聞きに行き、それを食べたり持って帰ったりしてた」

「金曜日は怖い。夏休み前はもっと怖い。冬休み前は毎回死を覚悟していた。」

「土日とか、休みの日は山に入った。」

「色々なものを食べた。」

「腹痛で死ぬかと思ったことも何度もあった。」

「冬は生きるために人のモノを盗んで食べていた。」

「ずっとお腹が減ったら水を飲んでいた。」

「学校の授業は先生が何を言っているか分からない。」

「同級生の言ってることもほとんど分からない。」

「友達もいない。先生も目が鋭い。」

「中学も最後の方は行ってない。」

「家族?家族はママがいる。」

「ママは一緒に住んでる。」

「ママは色白でスタイルが良い。僕の自慢。」

「家賃・水道代はママの親戚がずっと払ってくれてる。」

「ママは何もしないけど、それは当たり前。」

「ママは昔は水商売をしてて顔が広かった。」

「中学卒業のなんか紙が家に届いた。」

「それを握りしめて制服着てママの知り合いとかいう印刷会社に行った。」

「人手不足で仕事に来てくれと頼まれた。」

「そこでずっと毎日働いてる。」

「そう。毎日。休み?そんなの無い。」

「毎日14時間ぐらい。」

「口座?僕にはそういう難しい制度は使ってない。」

「毎日、家に帰る前に2000円から3000円程くれる。」

「何で?感謝してる。毎日、コンビニに行ける。」

「スーパー?スーパーマーケットのこと?あそこは特殊な免許が持ってる人しか買えない。」

「キャベツがキャベツ。魚は魚のまま置いてあるから、僕には無理。料理できない。」

「僕の家には水しかないから。」

「ママの知り合いの会社の人にはほんと感謝してる。」

「夏は涼しくて、冬は暖かい場所にいられる。」

「ずっと会社にいたいぐらい。」

「会社ではよくいたずらされる。」

「僕の机の中にたくさん虫が入ってたり。」

「僕の買ってきたコンビニのパンが水でびちゃびちゃになってたり。」

「僕の鞄からアダルトDVD?っていう丸くてきらきらしてて綺麗な…」

「うーん。伝わるかな?これぐらいの大きさで、え?大丈夫?」

「何の話だっけ。あ、そうそう。」

「鞄からその女の人の裸の絵が描かれたDVDがいっぱい出てきたり。」

「僕は他の人にそうやって構う事が無かったし。」

「小学校の頃や、中学校の頃もそんな事をされてきたけど。」

「僕は特に何も思う事は無い。」

「虫なんてどこにでもいるし。山の中で巣を突くとたくさん食べられるし。」

「パンを水でびちゃびちゃにするのはお腹が膨らんで良いんだよね。」

「裸の女の人の絵の描いてある丸いキラキラのやつは、くれるの?と聞いたら」

「やるよってくれたし。ほんと良い人の多い会社。」

「今でも家の壁に飾ってる。」

「小学校の時も、中学校の時も、会社の時も、」

「そうやってからかわれてるって事は、お前の事を愛してるって事だぞって、」

「先生とか、会社の上司が言ってた。」

「からかわれるの意味がよく分からなかったけど。川が入ってるから。水の話かな?」

「あぁ喉が渇いたなぁ。水を下さい。」

「でね。去年かな。何故僕に色々からかいをしてくれるの?って」

「先輩方に聞いてみたことがあった。」

「そしたら、ワクワクすると心臓がドキドキするだろ。それを見ると楽しいんだよ。寿命が延びるっつーかさ。みたいな事を言ってて。」

「そうか!とこれまでモヤモヤしていた部分が分かった。」

「ママが家で元気が無いのもドキドキが足りなかったんだ。」

「ドキドキをちゃんと僕が持ち帰れればママは復活してくれるんだって。」

「でも、、僕は馬鹿だからどうすれば良いかが分からなかった。」

「それで先輩方が僕にずっとしてきた事を真似しようと。」

「でもそれぐらいじゃあまりビックリが足りないぞって気づいて。」

「僕が山で、学校で、家で多少なりとも驚いたことを他の人にやってみたんです。」

ゴクッ

「この水、凄く美味しい。」


大きいバイクは会社の先輩の所有していた中古車。

「絶対必要になるものだから」

騙して借金させてまで高額で購入させたものであると判明。


彼の自宅を捜索すると、家の中は異臭が立ち込め、電気も無い。布団の中に白骨化した彼の母親と見られる遺体が発見された。少なくとも10年以上前に亡くなっているものと鑑定されている。現代にこのような出来事などあり得ないだろうと、出来事が起こってから反例が出てくる。

彼の起こした犯罪は結果こそ重大であったが、心神耗弱状態として執行猶予が付いた。彼を社会に放り出す事にどのような救いがあるのだろうか?

彼のように一般常識が無く、人に騙され、栄養失調で、水が生命線として生き長らえてきた常時耗弱状態と言える存在。何故もっと早く見つけ当たり前のように救ってあげられなかったのであろう。反例を潰すことはこれからできるのだろうか。

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