白薔薇断章
紫紺のカーテン。イミテーションの宝石。揺れ動く魔導灯。鳴り響く追走曲。
むせ返るようなベリーとスパイスのインセンスは…リィヤの国の特産品だったっけ。
そして、嘲笑。嘲笑。嘲笑。
今まで味方だと思っていた貴族の子息達は、私からそそくさと離れていく。
遠巻きに汚物を見る様な目でわたしを見て、ヒソヒソと話すのをやめてよ。
今まで白薔薇と例えてみんな持て囃してくれたじゃない。
見渡す限り、嘲笑、眉を顰める学生達。
レイナード様は、私なんて見てなかったの?
『また』切り捨てられるの?
派遣の時も、子爵家が来たときも、要らないって私は言われてばかりで。
足元が抜け落ちる様に崩れ落ちる。
「うわぁぁん……えっ…ぐっうぇ…」
もうイヤ。もう嫌嫌嫌。
誰も手なんて取ってくれない。
誰も、取ってなんてくれはしない。
知ってた。
ずっと、嫌な事から私、逃げてたもんね。
「リィヤぁ…」
せっかくのドレスなのに重いだけで。もう、立てない。
突如、頭に衝撃を受ける。思わず顔を上げると黒髪を掻き乱して不機嫌そうに顔を顰める幼馴染がいた。
「お前、マジで馬鹿だよな」
そのまま荷物の様に肩に背負われる。
「恥ずかしい!やめて、やめてよ!!」
黒髪の褐色の男子は、正装を崩しながらマリルを背負って歩いていく。
平民の行動などもう既に周囲は興味もなく、こちらを見もしない。
その間を縫って大広間からリィヤは出ていった。
「もうお貴族様ごっこは楽しんだだろ?」
周囲は暗闇に包まれ、蛍型の魔導灯ひとつだけがリィヤの顔を照らしていた。
黄金色の瞳は、いつもより機嫌が悪そうに凶悪に光り、獣性を帯びたように見え背筋が冷える。
「私は…もうダメなのかな?」
「さっきのやらかしの前に、養子縁組解消の手続き完了させておいた。もうやめよう、マリル」
怒りより痛々しいものを見るようにリィヤは私を見つめる。
「俺の国で一緒に平民として生きよう。おかしくなる前のお前は、ただ困った人を助けたいだけだったじゃんか。それなのにこんなお貴族様に毒されて…」
なんで、白薔薇なんて呼ばれたんだっけ。
ここに来る前から呼ばれてた。
「救命魔導具はある程度安価だけど、平民には高級だからって怪我や病気の人達の所に行っては救ってただろ。忘れたのか」
そうだった。故郷は貧しくて。リィヤの一家は商人としてたまに商売をしに来る度心配してくれたっけ。
「アールシュはいくつになったの?」
そうだ。弟がリィヤに生まれるって言って、うちの故郷に来なくなったんだ。
「7歳だよ……思い出したか」
そうだ。両親は白薔薇と呼ばれてるのに気を良くして白魔導の聖女と触れ込んでエイベル子爵に…売られたんだ。
別にそこで何かされた訳ではない。でも、日に日に眠れなくなって、今までと違う生活に慣れなくて。
転生前の夢を見るようになったんだっけ。夢を。
そうか…
「リィヤ、ごめん」
手が差し伸べられた。子どもの時よりも大きい手が。
「お前ドジだからな。仕方ないな」
ニカッと褐色の顔で笑う。懐かしい。私も負けずにニカッと歯を見せて笑った。
大人になったもんね。私達。こんなにボロボロだけど、どうせリィヤと行くんだし。これで良い。
南国は暖かくて極彩色で、苛烈な私に合うってリィヤよく言ってたっけ。大人になったらなって。
私に合うと良いな。




