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おっさんのごった煮短編集

今代聖女移譲の顛末

何となく、自分が聖女が出てくる話を書いたらと妄想したら、こんな話になりました(笑)



 皇暦799年、建国の始祖よりグラマドル皇国が未だ健在なのは聖女という契約によってであった。



 「聖女に相応しいのは彼女だ。よって、貴女は今すぐにその位を移譲しなければならない」


 建国記念日も間近に差し迫ったこの日、皇王の第5子にして、第3皇子のライドナーは禁足地に足を踏み入れ宣った。脇には従者数名と1人の子女まで連れての仕儀であった。


 「殿下、教会の聖殿中央は皇族であっても立ち入りは禁じられています。即刻立ち退くのであれば不問にいたしますが」


 この年の建国記念日は皇国にとっては建国以来欠かすことの出来ぬ約定を果たすための祭祀が控えている。そのため、準備に追われる神官や聖女本人は聖殿にて慌ただしく動いていた。

 そんな最中、突如来訪したライドナーは制止を押し切り、踏み込んだ挙句、事態を知り聖殿最奥の秘所より驚き出でたユミル大公息女にして今代聖女アデリートにたいして、前触れなく先の言葉を告げたため、アデリートもまた、驚きのあまり歯に衣を着せる余裕もなく、真っ直ぐな物言いのままに諌めてしまう。


 「申し訳ない、突然のことで混乱しているであろうし、現場の神官や貴女たちに通達が行く前に拙速に参った故に誤解を招いていることは謝罪するが、これは正式な要請だ」


 ライドナーはそう宣うと2通の証書を脇に控えた令息から受け取り、アデリートに手渡した。


 「皇王陛下の勅命に猊下より、特例の許可証ですか」


 現皇王陛下による聖女移譲の勅命と、教会の最高位である聖座、教皇猊下よりの、急を擁するが故の禁足地への立ち入りの許可証には間違いなく皇王陛下並び教皇猊下の印璽が捺されており、疑いようもなく本物である事がアデリートにもわかる。

 むしろ、これが偽造したものであれば、たとえ皇子の身分があったとして、死罪は免れ得ない代物である。


 「先ほど仰いましたことが、陛下の勅命であることはわかりましたが、同世代には私の他に皇族の血を引く女子はいなかった故に、私が聖女となった筈では無いのですか? 」


 アデリートは聖女の契約に則り、当然の疑問を口にした。


 この国における聖女という制度は、凡そ3世代につき1人、皇族の血を引く女子を聖女として定め、信奉する精霊王に捧げる習わしである。

 前回の聖女が建国記念日に精霊王に捧げられてより約100年、新たな聖女を立てねばならぬとなったが、アデリートの言うように、数ある皇族の血筋、その中でも5親等以内の皇家、貴族家に女子はアデリートしか産まれていなかった。

 あまりに血が薄い家では約定に反するとして、かつて皇族より降嫁にて血が入った家であっても、候補から除外されていたせいでもあったが。

 

 「心配しなくとも良い。誓約を破ろうということではない。彼女、シシリー伯爵家に保護されたミシェ嬢はライマンス殿下の孫だ」


 ライドナーはこう口にすると、ミシェと呼ばれた少女をアデリートの前へと促した。


 「ミシェと申します。お祖父ちゃんはライナスと名乗っていました」


 アデリートは2人の言葉にしばし固まっていたが、ややあって思い出したように静々と問い掛ける。


 「記憶違いであれば、不敬なことですが、ライマンス殿下とは、出奔された先代陛下の弟君でしょうか」


 大事件ではあったが、アデリートにすれば、産まれる前の出来事ゆえに、知ってはいても咄嗟に出ては来なかったのだが、さりとて、事件自体は大問題で広く知られてしまった醜聞ゆえに国中で耳に入る話ではあった。


 「そうだ、私の祖父の弟にあたるな。知っての通り、市井の女性と恋仲になり、そのまま国外へと逃亡した。 本人は鬼籍に入ってしまったようだが、先月ようやっと、彼女を見つけだし保護したのだ。両親も流行り病で早くに亡くしていて、商人のもとに奉公していたようだが、 長らく調査したゆえ、彼女がライマンス殿下の実孫なことは間違いない」


 ここまで聞いて、アデリートは得心した。

 

 初代皇王陛下であり、初代聖女であったマグリナ聖皇はこの地をかつて支配した帝国の一介の巫女にすぎなかった。

 帝国は 資源欲しさに帝国に隣接する精霊王の守護する霊峰と樹海へと侵攻した。

 そのことで精霊王の怒りを買った帝国は精霊王と配下の精霊たちにより、呪をかけられ衰退し、周辺国に攻められ滅亡の一途を辿っていった。


 国家の上層はともあれ、そこに生きる無関係な市井の人間が戦乱や精霊たちの怒りに死んでいくことを嘆いたマグリナは精霊王に祈りを捧げ、霊峰や樹海に立ち入らないこと、精霊信仰を国是とすること、自らを捧げること、これを条件として民を守って欲しいと不眠と断食、さらには自らの足に釘を打ち付け、板に張り付けて立ち続け、7日にわたり祈り続けた。

 壁に凭れて、精神力と巫女として修行で溜め込んだ霊力を振り絞り立ち続けた。

 1日と持たず死んでおかしくない苦行を敢行し、ひたすらに祈りを捧げているマグリナに精霊王は彼女を回復させた上で、願いを聞き届けた。


 結果、加護を受けた彼女は周辺からの侵略者を彼女の協力者とともに追い払い、新たな国家を樹立、そうしてより、聖女契約を精霊王に持ち掛け、精霊王と皇王家、各大精霊と貴族家の間で聖女契約を結び、精霊と人のハーフを授かる約定を締結した。

 こうした精霊の力を宿した子供は成長がはやく、老いに遅く、成年期間が通常の倍から3倍はあり、その上で見目に優れて優秀であった。

 初代皇王にして、聖女となったマグリナは国家の存続のため、自らの血筋に強力な子種を遺すことを考えたのだ。

 政務に忙しく、王配をとることもなかった初代陛下は精霊王から種を授かり、実に10人もの子を成した。

 妊娠期間が短く、行為も必要ないとは言え、多産であったが、産まれた子は、いずれも優秀で強く見目に秀でていたため、聖女契約は今日に至るまで続いている。


 このことから、国家の存続のため、皇家は精霊王と、古参の有力貴族家は精霊王配下の上位精霊との間で今にいたるまで聖女契約をなし、精霊を宿す子を養子としているのだが。

 この契約には問題があった。


 初代聖女であったマグリナは、その類稀な才と弛まぬ努力によって、凡そ人ではあり得ない霊力を持ち、精霊王との親和性も高かった上に信仰に篤かった。

 そのために、10人もの子を宿しても天寿を全うしたのだが。

 普通の娘では、いかに精霊たちの因子を僅かに受け継いでいたとしても、精霊の子を宿し産むというだけで、相当な負担であったし、霊峰の奥より精霊界に足を踏み入れてしまえば、戻ってくることも出来なかった。

 初代聖女が異常で、たまたまふたつの世界を平気で行き来していただけで、精霊界は人には本来は相容れない世界だったのだ。


 といって、人の側から契約を持ち込んで、メリットはほぼ人間側にしかなく、まかり間違って怒りを買うよりは生贄を捧げて国家の安泰を買うべきであると続いている因習なのだ。



 だからこそ、良く知っていて、情もあるアデリートより、元々良く知らず、裏切り者の子孫の女の子を生贄に選ぶのは、ある意味で当然だったとアデリートは納得した。


 納得はしたが、それを良しとするかは、また別であった。


 「貴女はそれでいいのかしら。ちゃんと説明は受けた。わたしは皇家の血を引く者として覚悟も、そして義務を果たすことの矜持も持ってここに居ますが、かわりの贄が出来たと喜んで、貴女に役目を押し付ける不遜な行いは出来かねるわ」


 アデリートの言葉に殿下たちは顔を曇らせたが、問われた少女はといえば、どこか嬉しそうに顔を綻ばせて、静々とした笑顔で拙いながらも返事を返し始めた。


 「ありがとうございます。お父さんとお母さんが死んでしまって、奉公先で苦労していたところを、この国へと連れて来られて、はじめは怖かったけれど、新しいお父さんとお母さんになってくれたシシリー夫妻はとても親切で本当の娘のように可愛がってくれて、陛下には『望まぬならシシリー伯爵の令嬢として、一生を生きても良い』と言われました。

殿下たちにも、ムリはしなくて良いといわれて、アデリート様も、私に役目を押しつけようとしない。お祖父ちゃんのことを出して、裏切り者の孫だと責める人も、それで生贄になって当然という人もいない。

なら、きっとこの国の信じる精霊王様もお優しい方だと思うのです。なにより、お父さんたちが死んでから、苦しいことばかりでしたから、楽しく安らかな日々をくれたこの国の方たちに恩返しがしたいのです」


 予想外の言葉にアデリートは戸惑い、二の句を継げずにおし黙ってしまう。善良であるこの少女の認識の軽さを正して、考え直させなければと思うものの、何と言えば良いのかわからかったためだ。


 「ユミル大公令嬢である貴女とミシェ嬢を秤にかけたことは、私を含めて陛下や内情を知る関係者一同、全員がしたことであり、その上で、誰もがミシェ嬢へと同様の質問をしたのです」


 ライドナー殿下はその後の言葉につまる。


 はっきりと言ってしまえば、誰もが望んだ筋書きは性格に難があり、素行が悪く、事実を話せば見苦しく悪態を吐いて、嫌だムリだと喚き散らすことを期待していたのだ。


 そうなれば、あの裏切り者の孫、やはり人品骨柄もなっていない、卑しい人間だ、アデリートのかわりにするために産まれたのだと、そう割り切ってしまえる筈であったのだが、シシリー伯爵夫妻は素直で可愛らしく、優しいミシェ嬢に絆されてしまい、陛下を始めとした関係者一同が、健気で献身的な言動に罪悪感への言い訳を持てぬままに、アデリートに託してしまったというのが、本筋であった。


 はっきりと言えば、アデリートを贄にすることを避けたいと考えたところに、丁度よい替え玉がいると思った時点でアデリートの気持ちを軽んじているのだが、その上で目の前に現れた替え玉予定の少女に今更、罪悪感を持った挙句に、答えが出せないことを明後日に放り捨てて「重責を押し付ける相手が現れれば、喜んで替わるだろう」と他責思考でアデリート本人に丸投げただけである。


 殿下の立場としてはアデリートを説得せねばならぬし、それは彼女の親であるユミル大公閣下にも頼まれてはいる。

 反面でミシェを預かり、僅かな期間であったが親として慈しんだシシリー伯爵夫妻の想いを鑑みれば、またアデリート自身の矜持を思えば、如何に陛下の勅命があり、ミシェ本人も望んでいるとして、殿下はどちらを取るのか、その答えを出しあぐねてしまっていた。


 アデリートもまた、ミシェの自己犠牲的な姿勢に敬意を感じながらも、柵なく育ったはずの彼女が、何故に此処まで献身的なのか、そこに違和感と拭いきれない危機感を感じて逡巡していた。


 アデリートの感じたミシェの危うさ、違和感は実のところは間違いではなかった。


 ミシェには、この場を含め、周りの人間たちへと隠している事実がひとつあった。それは彼女に前世の記憶があるということ。


 この前世の記憶は彼女の人格形成を大きく歪めた。


 彼女の前世でも女性として生を受け育ったが、その両親は愚かで父親はギャンブル依存症でろくでなし、母親は子供に興味を持たずネグレクトする最低な父母で、最低限、生きていける程度には食事は与えられたが、服は一着しかなく、いつも汚れていて、風呂にも入れてもらえないまま、彼女は愛されることなく幼少期を過ごし、彼女を置いて母親が逃げ出したことで、荒れ狂った父親に虐待死させられていた。


 生まれ変わり愛のある家庭に育ったことで、愛されること、貧しいながらも、温かい出来立ての食事を家族で囲んで食べる幸せを知ったのだが、今世の両親は呆気なく流行り病を患い他界し、引き取られた奉公先では扱かれ、彼女はまた、愛を失った。


 このことで、彼女は愛されることに執着し、かつ、失うことを極度に恐れるようになってしまっていた。


 祖父の生国だという国に連れて来られたあと、彼女は大切に愛された。それが打算含みだとしても、むしろ打算ありきだからこそ、彼女は安心して、それに依存した。利用されている間は自分は必要とされ、大切に愛される、そう思うことが喪失への恐怖から彼女を解放していたのだ。


 結局、彼女の強い望み、周囲の思惑の一致により、アデリートの意思に関係なく、ミシェへの聖女移譲は決定し、建国記念に併せて行われる聖女任命の儀、並びに精霊王の顕現を希い、聖女を捧げる儀は滞りなく行われた。



 その後、精霊王の元で精霊界に辿り着いたミシェは精霊王に語りかけた。


 「私はずっと愛されていたい。貴方の庇護の下でずっとずっと大切にして欲しいの。子供はいくら人間のもとに送っても構わないから、私を愛し続けてくれますか」



 精霊王は哀れな彼女に微笑みかけると、その命を自分と同じものへと書き換えてしまいました。



 その後、この国の聖女制度無くなっていったということです。



 



 


 

 


 

感想など、お待ちしておりますm(_ _)m

щ(゜д゜щ)カモーン

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こんばんは! ご無沙汰しております。 とっても素晴らしいお話でした♪ いまぼくは、「転職騒ぎ」の渦中におりますが・・・ 貴方の真心と誠実なメッセージを忘れることはありません。 引き続き、今後と…
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